融雪
新年、明けましておめでとうございます。
今年も、よろしくお願い申し上げます!
「あなた様方は!?」
フェルナリア皇国のバケテナーイ宰相は、
病に臥せる皇帝カムリ8世の寝室に、
突如として現れた人物らの姿を見て、
驚きの声を上げた。
「うん?
誰か来たのかバケテナーイよ。」
既に、自らの力では、
起き上がる体力さえ残って居ない皇帝からは、
寝室へと入って来た人物らが見えない様だ。
「お父様、
お体の、お加減は如何ですか?」
「おおっ!その声はミルキィか、
帰って来てくれたのか?」
「はい、お父様、
ミルキィは、今はミルクと名乗っております。
サブローさん、今はサスケさんと名乗って居りますが、
サスケさんと一緒に参りました。
こちらに、
サスケさん達や、教会の錬金術士の方たちが作った
特効薬をお持ち致しましたので、
どうぞ、お飲みになって下さいませ。」
皇帝の寝室の入り口には、
ここ皇帝の城では、
ミルク以外では唯一のサスケの味方と言える、
騎士団長に案内されたサスケとミルクが立っていた。
「特効薬が出来上がったという事は、
病の正体が知れたのであるか?」
「はい、サスケさんの師匠の方が、ご存じでした。
この病は『魔王熱』と言って、
魔王が倒された時に飛び散った
『魔王のカケラ』と言う物により、
引き起こされる病との事です。」
「何と!その様な病があるとは初耳であるな、
それを、ご存じなサスケ殿の師匠の方とは、一体・・・」
「お父様、サスケさんの師匠の方は、
昔、この国で『大賢者』と呼ばれていた方ですわ。」
「何と!『大賢者』と言うと、
あの、ヴィンセント・オナルダス様か!?」
「はい、そうです。」
「サスケ殿の師匠が『大賢者』とはな・・・」
「確かに、それならばサスケ殿の持つ、
錬金術の技術の高さも頷けますな。」
皇帝と共に、
宰相のバケテナーイも驚きの表情を浮かべている。
「ミルキ・・・いや、ミルクよ、
特効薬が出来たと申すのなら、
私よりも、皇国の民らへと使ってくれぬか。」
「国民の方々には、
各地の教会を通じて特効薬を投与して頂く様に、
既に、手配が付いて居りますわ。」
「おお、そうであるか。」
皇帝は、ミルクの言葉に安心した様に、
ミルクの助けを借りて特効薬を飲み下した。
特効薬の効果は絶大で、
皇帝の全身を覆っていた黒い斑点は、
見る見る間に薄れて行って、
最後には、良く見なければ分からない程に、
薄い痣となった。」
「『大賢者』様のお話では、
薄く残った痣も、その内に消え去るとの事でした。
あと、症状が軽い方は、
『浄化』の白魔法で回復するとの事ですので、
そちらも教会の方で対応して頂いています。」
「うむ、そうであるか。」
「しかし、ミルク様、
先程の、お話ですと『魔王熱』の原因は、
『魔王のカケラ』なる物の所為との事でしたが、
今回の病は、魔王が討伐された
この城では無く、地方の村から発症したのが、
確認されて居りますが、それは何故でしょうか?」
「はい、発症源に関しましては、
聖教会の枢機卿であらせられる、
サクラ様のご協力で、
既に、発見及び対処が済んで居ります。
今回の『魔王熱』は、皇国の水瓶と呼ばれるサダ湖に、
何らかの形で『魔王のカケラ』が入り込む事によって、
引き起こされました。」
「ほう、サダ湖でありまするか・・・
ミルク様に、そう言われてみますと、
確かに、ここ皇都を始めとして、
サダ湖より、流れ出た川を水源とした
街や村の感染者数が多く感じられますな。」
「それで、対処が済んで居ると言うのは本当であるのか?」
「ああ、それに付いては、
俺たちが確認しているから間違いないぜ、
マッスル王国のルクレツェア王女に頼んで、
強力な『浄化』の白魔法が付与された魔石を、
サダ湖に投げ込んだら、
『魔王のカケラ』に汚染された状態だった水が、
すっかり浄化されて、キレイな水に生まれ変わって居たぜ。」
そこまで、ずっと黙っていたサスケが発言した。
「サスケ殿・・・」
「お父様!?」
「陛下、まだ、ご無理をなさっては!?」
皇帝は、ベットから降りて立ち上がろうとしたが、
まだ体力が戻っていないので、
ふら付いて、大きく、よろめいた所を、
ミルクとバケテナーイに両側から支えられた。
「サスケ殿、
貴公には、謝罪しても、
謝罪しきれぬ扱いをして来た事は、
重々(じゅうじゅう)承知して居るのだが、
あえて言わせて頂こう。
今までの数々の振る舞い、誠に申し訳が無かった。
私を始めとする、皇国の民の命をお救い戴き、
心よりの感謝を申し上げる。」
皇帝は、サスケに向かって深々と頭を下げた。
「お父様・・・」
「陛下・・・」
ミルクとバケテナーイも、
皇帝の姿を見て、共に頭を下げた。
「・・・ふう~。
もう良いよ、頭を上げてくれよ、
確かに陛下たちの態度には、俺も腹を立ててたけど、
一番悪いのは魔王と魔族だからな、
迷惑を被ったって事なら、お互い様だよ、
俺は、あなた方の謝罪を受け入れるぜ。」
「サスケ殿、忝い。」
「サスケさん、ありがとう。」
「サスケ殿、ご感謝申し上げます。」
こうして、長きに渡った
サスケとフェルナリア皇国の確執は、
一応の治まりを見せた。