スパイシィ
「でも、病名が不明っていうのは始末が悪いな、
治療に対する目安も立たんからな。」
「ええ、教会の方でも、
古い文献などを当たっているのですが、
一向に発見出来ずにいます。」
「急に新しい病気が出来るなんて事は、
そうそう無いと思うんだけどな。」
治療薬や魔法での治療が主流となる、こちらの世界では、
ウイルスや抗体などといった概念が無いので、
病が突然変異する可能性は低いだろうと考えたサスケが言った。
「はい、大概の病は、
過去に似たような症状が観測されていますので、
今回の病は、極小規模な流行をした事があるか、
とても昔に発症したのでは無いかと考えられます。
ああ、こんな時に大賢者様が、いらして下されば・・・」
「今、何て?」
「大賢者と呼ばれる、
ヴィンセント・オナルダス様ならば、
或いは病の正体が分かるのではと言ったのです。」
(こいつ、分かってて態と言ってるのか?)
「その人なら、本当に病の正体が分かるのか?」
「はい、シエラザードでもトップレベルの錬金術士にして、
病の症例に関する知識は、計り知れない方なので、
きっと、あのお方ならば分かると思います。」
「サクラさんは、あった事無いのか?」
「はい、残念ながら、お会いした事は御座いません、
相当なオーラを身に纏った方と思いますから、
もし、お会いしたら一目で分かると思います。」
(この前の、結婚披露パーティーで、
あんたの隣に座ってたのが大賢者様だよ。)
「そうですか、では顔の広いライ国王様に、
そのお方の事を、ご存じか伺って見ますから、
今日は、これで失礼します。」
「まあ、そうですか!
サスケ様、お願いがあるのですが、
もし、大賢者様とお会いする機会が御座いましたら、
サインを頂いて貰えませんか?
もし、大賢者様が無理でしたら、
その、お弟子様のサインでも・・・」
「サクラさん、
色紙って今、持っていますか?」
「はい、私は有名な方のサインを集める事を、
趣味として居りますから、
いつも、何枚か持って居ります。」
サクラは、魔導具らしき腕輪から、
色紙を取り出してサスケに手渡した。
サスケは、サクラから色紙を受け取ると、
サラサラと自分のサインを書いてから、
サクラに帰した。
「はい。」
「これは、何ですか?」
「俺のサインだが。」
サクラは、サスケが書いた色紙を床に置くと、
グイグイと靴で2回程、踏ん付けてから、
「またの、お越しをお待ちしてます。」と言い残して、
教会の奥の部屋へと行ってしまった。
「何て事すんだ!
ヴィン爺ィの弟子のサインが欲しいって言うから、
折角、書いてあげたのに。」
サスケは、床に落ちている色紙を拾い上げると、
パッパッと汚れを払ってから、『魔倉』に仕舞った。
「サスケさん、大変な事が起きてしまいました!」
領主の城に戻ったサスケを、
焦りの色を浮かべたミルクが出迎えた。
「どうしたんだ?
そんなに慌てて。」
「それが今、
フェルナリア皇国の宰相である、
バケテナーイ様からの手紙を受け取ったのですが、
お父様が、皇国で流行している、
謎の病に掛かってしまったとの事なんです。」
「あ~、ついに皇帝も掛かっちゃったのか。」
「サスケさん、ご存じなんですか?」
「ああ、その件で、
今、教会のサクラさんと話して来たんだよ。」
「それで、サクラ様は何て?」
「教会じゃ、まだ病の正体が分からないらしいんだけど、
サクラさんが、ヴィン爺ィなら分かるのでは?
って言ってたから、
今からピロンに行って、聞いて来ようかと思ってたんだ。」
「サスケさん、ヴィン爺ィ様が治療法をご存じだったら、
父を助けて頂けますか?」
「当たり前だろ、
そりゃ皇帝には、色々と恨みはあるけど、
それは、命をどうこうって言う程のもんじゃ無いからな。」
「ありがとう御座います。
ピロンには、私もご一緒しても宜しいですか?」
「ああ、もし治療法が見つかったとしても、
俺一人で皇国に行くのは嫌だからな。」
サスケは、ミルクを伴うと、
ヴィン爺ィがダンミーツたちと暮らして居る、
ピロンの街にある、自分の屋敷の居間へと、
転移魔導具で跳んだ。
「ヴィン爺ィ、居るかな?」
「あら、ご主人様、奥様、
お帰りなさいませ。」
「ああ、ダンミーツ、
ただいま。」
「ただ今、帰りました。」
「ヴィンセント様でしたら、
娘たちと作業場で治療薬作りをされてますが、
お呼び致しましょうか?」
「ああ、お願い出来るか。」
「畏まりました。」
少しすると、
ダンミーツに声を掛けられて、
ヴィンセントが、居間へとやって来た。
「おお、サスケ、ミルク、
久し振りじゃな。」
「ただ今、ヴィン爺ィ。」
「ご無沙汰して居ります。
ヴィン爺ィ様。」
「それで、今日は何じゃ?」
「それなんだけどさ・・・」
サスケは、フェルナリア皇国で流行している病の症状と、
サクラの見解をヴィンセントへと伝えた。
「う~む、それは恐らく『魔王熱』じゃろうな。」
「ヴィン爺ィ、知ってるの!?」
「うむ、300年程前に勇者イチローが魔王を倒した後にも、
その様な病が流行した記録が残っておるのを、
ラメール国の図書館で読んだ覚えがあるぞい。」
「その記録には、治療方法も書いてあったの?」
「おう、勿論、書いてあったぞい、
治療するには、特殊な薬を飲ませる必要があるんじゃが、
その薬が問題でな、
2種類の薬剤を調合して作るんじゃが、
一つは、この前、お主が造った
『命の父ゼ~ット!錠』を代用すれば良いじゃろ、
もう一つと言うのが、
勇者イチローが、どこぞよりか探して来たというものでな、
それが、どこにあるのかが誰にも分からないんじゃよ。」
「そんな!?
それでは父たちは・・・」
「ヴィン爺ィ、ちなみに、
その勇者イチローが探して来たものって、何ていうの?」
「記録には、ターメリックと記されていたのう。」
「そうか、ターメリックか・・・うん?
ターメリック?
ヴィン爺ィ、ターメリックって、
俺が、この前、持って来たウコンの事だぜ!」
「何じゃと!?
あのウコンが、ターメリックなのか?」
「ああ、呼び方が違うだけで、同じ物さ。
ちなみに、ウコンなら、
俺の『魔倉』に、
まだ、たっぷりと入っているぜ。」
「それならば、治療に必要な薬も、
沢山、作れるぞい!」
「ああ、神様!」
ミルクは、神への感謝の声を上げた。