ファンシー
「それで、サスケ、治療薬の納入って言ってたけど、
何本位持って来たんだ?」
「約束していた本数を全部ですが。」
「もともと薬草を持っていたのか?」
「いえ、今日、冒険者ギルドの受付でモモヨさんに、
薬草の生えている場所を聞いて採取してきたんですよ。」
「今日採取してきて、今日入荷って、
普通、治療薬って、そんなに早く造れるもんじゃないんだぜ。」
「ええ、俺の場合は特殊な製法なんで、
材料さえあれば造るのに大した手間は必要ないんですよ。」
「さすがは大賢者さまの弟子だな。」
「ええ、師匠は同じ早さで、もっと高品質の治療薬を造ってました。」
「ケンさんが、サスケの治療薬は高品質って言っていたのに、
それ以上って、さすがは大賢者さまだな。」
「ええ、師匠に比べたら、俺なんてマダマダですね、
じゃあ、これが約束していた低級治療薬200本と、
中級治療薬50本、ケンさんに頼まれた上級治療薬10本ですね。」
「ケンさんの所には暫く行けないから、
上級治療薬は劣化しないようにサスケが預かっていてくれないか?」
「じゃあ、これ、俺が造ったんですけど、
レトリバーさんにプレゼントしますよ。」
サスケは『魔倉』からカバンを取り出して、
レトリバーに手渡した。
「これは?」
「魔導カバンですよ、馬車3台分位の荷物が入って、
カバンの中は時間が止まってるから劣化しませんよ。」
「馬鹿野郎!魔導カバンなんて言ったら、
大きな街の魔導具屋でしか扱っていなくて100万ギルはする物だぞ、
それをプレゼントって、お前・・・」
「いえ、カバンだけ買って来て俺が造った物ですから、
元手は3000ギルぐらいですよ。」
「それは、そう簡単に造れないから高いんであって・・・
ハァ、まあ良いか、サスケのやる事に一々驚いていたら身が持たないな、
ありがたく頂いておくよ、サスケありがとうな。」
「ええ、便利に使って頂いた方が俺も嬉しいですから、
そうだ!もう一つカバンの中に入れときますから、
シャルムに行った時にケンさんにも渡しておいて貰えますか?」
「おお!それは、とても助かるぜ、
俺のカバンを見たら、ケンさんの『良いな~良いな~』攻撃を受けるのが、
目に見えてるからな、ちゃんとサスケからって言って渡しておくよ。」
「お願いします。」
治療薬の納入を済ませたサスケは、
その日は真っ直ぐ『鳥の骨亭』へ帰って、
食事をしてから休んだ。
前日、早く休んだので早朝に目の覚めたサスケは、
まだ食堂が開いてるか分からないものの、
装備を整えてから階下へ降りて見た。
「おはようございます。女将さん。」
「あら、サスケさん早いですね、
もう、お食事をなさいますか?」
「大丈夫ですか?」
「ええ、冒険者の方は早起きの方が多いので、
この時間なら開いてますよ。」
「では、朝食と、昼飯用のお弁当をお願いします。」
「承りました。
お弁当は、お食事を終えられるまでに用意しておきますね。」
「お願いします。」
朝食を終えて、お弁当を受け取って『魔倉』に入れたサスケは、
クエストを受けてみようと考えて冒険者ギルドを訪れた。
「おはようございま~す。」
「おはようございますサスケさま。」
受付には、もうモモヨが居た。
「モモヨさん早いですね、やっぱり年寄りは「年が何か?」
い、いえ、さすがに有能な受付嬢は朝も早いなぁ、
と思いまして。」
「オホホホホッ、それ程でもあります。」
(謙遜しないのかよ!)
「今日は、討伐のクエストを受けてみようかと思うんだけど、
G級の討伐クエストで何か良いのって有るかな?」
「そんなサスケさまに、ピッタリなクエストがございます。」
モモヨは、あらかじめ用意してあったかの様に、
受付カウンターの中からクエスト用紙を取り出した。
「兎の狩猟?」
「ええ、サスケさまなら大した危険も無く、
単価も良いクエストですね、
私とサスケさまの仲ですから、
特別に、ご紹介させて戴いております。」
「仲って、昨日会ったばかりじゃん。」
「いえ、私のボケと、
サスケさまのツッコミの相性の前には、
付き合いの長さなど関係ありません。」
「かってに相方にするんじゃねぇ!」
「ソレ、ソレですよサスケさま。」
「はぁ・・・もう良いや、
クエスト行ってくるから、
兎が居る場所を教えてくれるか?」
「はい、昨日サスケさまが薬草を採取されに行った草原の先に、
冒険者ギルドが管理している牧場があるので、
入り口で私から聞いて来たと言えば入れて貰えます。」
「分かった。
そんじゃ、行ってくるぜ。」
「お気を付けて行ってらっしゃい。」
街から出て草原を目指すために、
いつもの様に門へと向かうと、
昨日ジャイケルと一緒に警備をしていたマーダンが居た。
「マーダンさん、おはようございます。」
「おう、サスケだったか?
おはよう、今日はクエストに行くのか?」
「はい、サスケで合ってます。
今日は兎狩りのクエストを受けたんですよ。」
「兎なら大丈夫だな、気を付けて行けよ。」
「はい、ありがとうございます。
今日は、また別の方と組まれているんですね。」
「ああ、サスケはジョイケルとは初めてか?
俺たちは4人で入れ替わりながら警備を担当しているから、
これで全員と顔合わせしたのかな。」
(ジャイケルとマクソンとジョイケルとマーダンて、紛らわし過ぎだろ!)
「サスケです。
よろしくお願いします。」
「おお、俺はジョイケルって言うんだ、よろしくな。」
門番たちに挨拶を済ませたサスケは、
草原の先にあると言う牧場を目指した。
「しかし、ファンシーラビッツか・・・
やはり毛がモコモコしていて可愛いのかな?」
昨日の草原をドンドン進むと、
2メートル程の高さがある土壁に囲まれた牧場らしき場所に着いた。
「これが牧場なのか?
どんだけの敷地があるんだか・・・」
土壁はその先が見えない程に続いている。
(入り口は、どこかな?)
サスケは『感知』を使って、
入り口を守っていると言うギルド関係者を探した。
「こっちの様だな。」
人の反応があったので、そちらに向かって見る。
しばらく進むと入り口らしき物と、
それを警備している人が見えて来た。
「すいません、冒険者ギルドでモモヨさんに紹介されて、
兎狩りのクエストを受けて来たんですけど。」
「そうですか、ご苦労さまです。
ギルドカードとクエスト用紙の確認をさせて下さい。」
「はい、これです。」
「拝見します・・・はい、確認しました。」
「ここに来たのは初めてなんですが、凄い広さですね。」
「ええ、ルクシア怒雄武18個分の広さですからね。」
「ルクシア怒雄武と言うのは?」
「えっ!?知らないんですか。」
「ええ、最近、この国に来たものですから。」
「そうなんですか?
結構、他国の人でも知っているんですけどね、
ルクシア怒雄武って言うのは、勇者イチローが広めたと言われている、
ベスボルと言う競技を行う場所なんですよ。」
(ベスボル・・・ベースボールか!)
「それってもしかして、球を投げて、棒で打つ競技ですか!?」
「何ですかそれ?
ベスボルは、金の玉を握って、サオをシゴく競技ですよ。」
「何その競技!?超、見たいんですけど!」
警備員から、詳しい競技日程を聞き出したサスケは、
入り口から土壁の中へと入った。
「さてと、ファンシーラビッツで『感知』っと・・・
あれ、反応が無いぞ、何でだ?」
すると、前方の草むらがガサガサと動いた。
「おっ!兎か?」
サスケは、兎がピョンピョンと飛び跳ねて来るかと警戒したが、
現れた兎らしきモノは、サスケに向かってズルズルと這い寄って来た。
「これが、ファンシーラビッツなの?
『鑑定』・・・キョンシーラビッツじゃねぇか!モモヨ~!!」
そこに居たのは、骨に腐った肉をこびり付かせた、
辛うじて兎に見える魔獣だった。