来る、きっと来る。
「皇帝陛下、
どうか皇都よりの非難を受け入れて頂けませぬか?」
フェルナリア皇国の皇都に構える、
皇帝カムリ8世の城で、
皇国宰相のバケテナーイが、皇帝へと進言している。
「それは出来ん相談だな、
只でさえ、
原因不明の病に国民が不安を抱えているというのに、
皇帝である私が皇都より逃げ出せば、
ここに暮らす者たちはパニックを起こすであろう。」
「確かに、それはそうなのですが、
件の病は、その治療方法を見い出せぬままに、
ここ皇都近くまでへと、近づいて居りまするぞ。」
「今にして思えば、
我が国の守り神である、女神フェルナは、
この事態を見据えて、
サブローを我が国へと遣わしたやも知れんな。」
「そっ、それは・・・!?」
「そちも、そう思わんか?」
「はっ、陛下に言われてみると、
そうも思えますな。」
「その御使いを、私は虐げて追い出してしまったのだからな、
この国の為政者としては失格であろうな。」
「けっ、決して、その様な事は!」
「無いとは言い切れんであろう、
あの錬金術に長けたというサブローが居れば、
何とかなったかも知れまいて。」
「はっ、そうであったかも知れませぬな。」
その頃、
サスケが領主を務めるコウガ領では、
代官のダンディと、相談役を務めるケンの働きによって、
領内の経済を安定させる事に成功させ、
マッスル王国の『魔の森』で狩った珍しい魔獣や、
薬草などをルクシア共和国へと輸送する事によって、
大きな利益を上げていた。
「これで、コウガ領の経済に関しては、
一安心だな。」
「はい、これも、お館様より、
ケン様を、ご紹介頂いたお蔭であります。グワッツ!」
「いや、ダンディとケンさんの2人が、
いち早く、皇国との商取引に見切りを付けて、
マッスル王国とルクシア共和国を相手とした取引へと、
切り替えてくれたお蔭だよ。」
「皇国の経済活動に、妙な停滞が見えたのも、
こちらとしては好都合でしたな。グワッツ!」
「皇国の経済の滞りには、
何らかの原因があるのか?」
「はい、ケン様のお話では、
皇国で流行り出した原因不明の病を恐れて、
商人や冒険者が、皇国へと向かわなくなったから、
らしいですな。グワッツ!」
「原因不明の病だって?
それは、どんな症状なんだろうな?」
「そこまでは、ケン様も分かりかねる様でしたが、
懸命な治療に当たっているという、
教会関係者なら、
何らかの情報を有している可能性がありますな。グワッツ!」
「教会関係者・・・サクラさんか!」
サスケは、皇国の聖教会に置いて、
枢機卿という重要な役職に就いていながら、
何故かルクシア共和国の教会へと来ていた、
サクラを訪ねて見る事とした。
現在のサクラは、
コウガ領の設立に伴って、移動した国境線に合わせて、
コウガの街にある教会へと移り住んでいた。
「すいませ~ん、サクラさん居ますか?」
「ようこそ当教会へ!
見知らぬ人よ。」
「いやいやいや、何回も会ってるし、
俺、ここの領主だから。」
「おお!
そう言うあなたは、悪徳領主のサスケ様ではありませんか。」
「人聞きの悪い事言うな!」
「ホホホホッ!イッツ・ホルスタイン・ジョーク!」
「あ~、はいはい。」
「むう、反応が薄いですね。」
「ええ、姉妹して散々(さんざん)からかわれましたから、
もう、慣れましたね。」
「それは、とても詰まらないですね、
サスケ様のリアクション芸には定評がありましたのに。」
「芸じゃねえ!」
「そうそう、サスケ様はそうじゃなくちゃいけませんわ、
それで今日は、当教会へどの様な御用でしょうか?
ちなみに多額の寄付は大歓迎で御座います。」
「いつも、ちゃんと寄付してるだろ!
今日は、皇国で流行っているっていう、
病に付いて聞きに来たんだよ。」
「おや、ついにサスケ様のお耳にも入りましたか。」
「やっぱり知ってるんだな。」
「はい、人々がパニックを起こすのを防ぐ為に、
教会では箝口令を敷いているのですが、
人の口に戸は立てられませんから、
自然と情報が広がるのは、致し方無い事であります。」
「それで、どんな病なんだ?」
「はい、始めは体に小さな黒点が浮き出てくるのですが、
次第に大きく、そして数も増えて来て、
高熱を発して死に至るという、恐ろしい病です。」
「原因は分からないのか?」
「今のところ、症状を発症した患者への、
接触感染による広がりを見せてますが、
私は、大本の原因は水だと思われます。」
「サクラさんが、そう考えた要因は?」
「各地の教会を通じて、
発症者の分布を調べましたところ、
同じ水系から取水している、
街や村から広がりを見せた事が分かりました。
逆に、湧水や井戸水で生活している街や村では、
発症が見られない場所が多く見られます。」
「なる程、そういう事なのか、
それで、原因らしい水系っていうのは、どこなんだ?」
「はい、皇都でも取水して居ります。
皇国の水瓶として知られる『サダ湖』から、
流れ出る川の水系ですね。」
「俺的には、その湖の名前は、
呪われる為に付けたとしか思えないな。」