要求
「それで、ルクシア側は、
まだ、何も言ってこんのか?」
フェルナリア皇国の皇帝であるカムリ8世が、
皇都の城にある執務室において、
宰相のバケテナーイに問いかけた。
「はい、あれから一週間も経つのに、
一行に何も言って参りません。」
「う~む、向こう側にも、
それなりの被害が出て、その事後処理に追われていると、
言ったところか。」
「恐らく、その様な理由からと思われます。」
しかし、2人の予想は外れていて、
ルクシア側の被害は、サスケ達の薬や魔法によって、
大したものでは無かった。
何故、これ程の時間を要したかと言えば、
ルクシア共和国とマッスル王国によって、
皇国に要求する賠償内容を定めるのと、
それに伴った根回しの為であった。
「それじゃ、皇国に対して提示する、
賠償内容に関しては、これで良いですね。」
「ええ、その辺はライ国王に一任して良いと、
元首のカメオークからの連絡が入って居りますので、
お願い致します。」
「サスケに関する扱いの方も、
許可が出ましたか?」
「ええ、ライ国王との、
話し合い通りに、事を進めて構わないとの事です。」
「ほう、皇国への要求は兎も角、
サスケの方は難航すると思ったのですが、
思ったよりアッサリと通りましたね。」
「ええ、今回の戦と、その結果は、
我が国の防衛に関する意識に、
大きな変化を齎すものとなりましたからな、
今後の事を考えても、
ライ国王のマッスル王国と友好的な関係を続ける為にも、
サスケが果たす役割は大きいと言えるでしょう。」
「ええ、本人は嫌がるでしょうけど、
ここは、何としても納得させますよ、
大切なものを護る為には、
ある程度の、権力が必要な時がありますからね。」
「それに付いては、私も同感ですな、
サスケ自身が持っている価値を護る為には、
一冒険者では、些か心許無いですからな、
また、本人が自分の価値を、
今一つ認識していないのだから始末が悪い。」
「それが、サスケの良いところでも、
ありますよ。」
「まあ、そうですな。」
結局、フェルナリア皇国側へと、
賠償に関する連絡が入ったのは、
先の騒動から2週間程が経過した頃であった。
「陛下、ルクシアより、
今回の騒動に対する、賠償に関して記された書簡が届きました。」
執務室の皇帝の元へ、
宰相のバケテナーイが書簡を携えて訪れた。
「そうか、読んで見よ。」
「はっ、それでは失礼します。
・・・こっ、これは!?」
書簡に目を通していたバケテナーイが驚きの声を上げた。
「どうしたのだ?」
「はっ、そ、それが、
賠償として、ギッテル領の引き渡しを要求して参りました。」
「何だと!?
ルクシアとマッスル王国に面したギッテル領が、
どれ程、広大な面積を要していると思って居るのだ!」
「はっ、誠に持って、
その通りでありまするのですが・・・」
「おのれルクシアめ、
偶々(たまたま)の勝利に味を占めて、図に乗り居ったか!」
「いえ陛下、どうやら偶々では無かった様であります。」
「どう言うことだ?」
「それが、この書簡は、
ルクシアとマッスル王国との連名で来て居りまして、
ギッテル子爵とゴンザレス千人隊長がルクシアの街を攻めた際に、
その街にライ国王と、その家族が滞在していたとの事です。」
「何だと!?
勇者ライが、あの街に居たと申すのか!?」
「はっ、恐らく、
帰り着いた子爵の部下たちが申して居りました、
凄腕の冒険者らしき者達と言うのは、
ライ国王と、その家族ではないかと存じます。」
「そうか、元S級冒険者たちであったな。」
「はっ、その通りで御座います。」
「しかし、ギッテル領の全てを渡せとは、
大きく出おったな、
いかに、勇者ライが国を治めるマッスル王国とも言えども、
我が国とは、国力でも軍事力でも比べようがあるまいに、
仮に、ルクシアと手を組んだとしても知れたものであろう。」
「それなのですが、
書簡には、ルクシア・マッスル両国との戦端が開かれた場合には、
アルビナ王国、ザドス王国も呼応して参戦すると記されて居ります。」
「何!?
何故ここで、アルビナとザドスが出て来るのだ!?」
「恐らく、ライ国王の奥方の関係であろうかと思われます。」
「そうか、両国の王女が嫁いで居ったな、
おのれライめ、どこまで我が国の邪魔をすれば気が済むのだ。」
「陛下、此度の要求は呑まざるを得ないかと思われます。
ルクシアと、マッスル王国のみであれば、
我が国の戦力であれば、対等に戦える事と存じますが、
その際に、アルビナとザドスに攻め込まれれば、
如何な我が国と言えども・・・」
「う~む、・・・そうか・・・そうであるな、
確かに、現状で戦を選ぶには無理があろう、
只でさえ国内に、
訳の分からん、はやり病が流行する兆しを見せて、
国民の不安が募って居るところで、
戦などを起こせば、国の崩壊に繋がりかねんからな。」
「陛下の、仰る通りであるかと存じます。」
「うむ、仕方が無い、
ルクシア・マッスル両国には、
要求を了承する旨を、
伝えておけ。」
「要求の了承と引き換えに、
我が国へと戻されるであろう、
ギッテル子爵とゴンザレス殿の扱いは、
如何致しますか?」
「知れた事よ、
我が国に、これ程の損害を齎したのだから、
その責任を誰かが取らなければ、
国民も納得しまいて、
2人には、その役割を担って貰う事となるな。」
「では、此度の騒動は、
お二方の、暴走に因るものとして、
形を付ければ宜しいですか。」
「うむ、2人が戻ってから、
余計な事を、申さぬ様に注意をするのだぞ。」
「はい、戻り次第、
言葉を発せなくなる様に、
何らかの処理を施す事と致します。」
「うむ、善きに計らえ。」