戦のあと・・・
フェルナリア皇国の皇都にある城で、
皇帝のカムリ8世が午後のお茶を嗜んでいると、
廊下をドスドスと走って来る足音が近付いて来るのが聞こえて、
ノックも無しに部屋のドアがバン!と開かれた。
「陛下!一大事で御座いますぞ!!」
「何事だバケテナーイ、
その様に、慌てて如何にしたと言うのだ?」
部屋に飛び込んで来たのは、
皇国宰相のバケテナーイであった。
「た、ただ今、ギッテル子爵の部下の者が、
こちらに連絡に参りまして・・・」
「うん?ゴンザレスの部下では無く、
ギッテルの部下なのか?」
「はい、その通りで御座います。」
「それで、偽勇者とミルキィの身柄は確保出来たのか?」
「それどころでは御座いませんぞ、
その者らが申すには、
ゴンザレス千人隊長の部下は、その多くが戦死し、
残りの者は、負傷してルクシアの捕虜となったとの事です。」
「何だと!
ゴンザレスとギッテルは、どうしたのだ!?」
「お二方とも、ルクシアの虜囚となった様です。」
「ゴンザレスも居たと言うのに、何をやっているのだ!
ルクシア如きに後れを取ったと申すのか!?」
「それが、逃げ戻った者の話では、
凄腕の冒険者と見られる集団が居り、
大規模な広範囲魔法による攻撃を受けた様ですな。」
「それにしても、
我が国の兵の方が、数でも練度でも勝っておろうに!」
「それなのですが、
陛下、こちらの剣をご覧下さいませ。」
皇帝の御前に上がるので、
厚手の布に包んであった剣を、
テーブルの上に乗せて、その布を解いた。
「この剣が、どうしたと言うのだ・・・うん?
これは、魔法が付与されて居るのか?」
剣を手に取った皇帝は、
剣から発する魔力に気付いて問い掛けた。
「はい、その通りで御座います。
錬金術士に確認を取ったところ、
身体強化や治癒に加えて、疲労回復作用がある様であります。」
「そうであるのか?
剣を持った感じでは、その様な効果があるとは感じられぬのだがな。」
「それが、その剣は決まった持ち主にしか、
その効果を発揮しない制約が課されているとの事です。」
「何!?その様な事が出来るのか?」
「少なくとも、我が国の錬金術士では不可能との事でした。」
「そうであるか、
そうすると、この剣は、何れ名立たる鍛冶師や錬金術士の、
手による逸品という事であるな。」
「それが、ルクシアの兵士の多くが、
その剣を手にしていたとの事なのです。」
「何だと!?
一介の兵士の多くが、
これ程の剣を手にしていたと申すのか?」
「はい、その剣は偶々(たまたま)地に落ちていたものを、
拾い上げて来たのでありますが、
ルクシアの兵の多くが同型の剣を使っていたそうであります。」
「ルクシアに、
これ程の剣を作る事が出来る、鍛冶師や錬金術士が居るなだと、
聞いた事など・・・まさか!?」
「はい、ルクシアに放った密偵が申して居りましたが、
あの偽勇者めは、鍛冶や錬金の才能に恵まれていた様なので、
恐らくは・・・」
「あやつめが、これ程の剣を作り上げたと申すのか!?」
「一般の兵に持たせるぐらいでありますから、
もっと、高性能の剣も作れるのではないかと思われます。」
「あのサブローに、そんな才能が・・・」
皇帝は、今更ながらに自分が手放してしまったものの、
重要さに気が付いた。
「大体、サブローに、
それ程の才能があったなどと、
私の耳には入って来なかったと思うのだが?」
「はい、私も、そう思いまして調べてみたのですが、
あやつの教育に携わった者達は、
陛下の『勇者らしく仕立て上げよ。』との、
お言葉を鵜呑みにして、
ステータス・チェックも行わずに、
騎士や戦士の訓練を課したそうであります。」
「何と、愚かな・・・
召喚された勇者が、何かしらの才能を有しているのは、
周知の事実ではないか!」
「恐らく、あの魔族めも、
サブローの才能が露見せぬ様に暗躍して居ったのでしょう。」
「う~む、まったく持って腹の立つ・・・
それで、ルクシアの方は何か言って来たのか?」
「いえ、まだ何も・・・
しかし、何れ多くの捕虜との引き換えを条件に、
多額の損害賠償を求めて来る事かと・・・」
「ふん、ある程度の事は、仕方があるまいな、
ギッテルめの資産を処分して払えば良いだけの事よ。」
「ルクシアが過分な要求をして来た場合は、
如何しますか?」
「この様な剣があったとしても、
しょせん我が国と、ルクシアでは国力や軍事力に、
天と地ほどの差があるのだ、
その時は力尽くで黙らせるまでの事よ。」
「畏まりました。」
一方、圧倒的な勝利を収めたピロンの街では、
戦勝の雰囲気に沸き立っていた。
通常、戦の後と言えば、
勝利を収めても、多くの死者や負傷者を慮って、
手放しで喜ぶ訳には行かないものだが、
サスケ達の薬や魔法によって、死者・負傷者ゼロなのだから、
その盛り上がりは、かなりのテンションとなっていた。
そんな中にあって、
ただ一人、そのお祝いムードに参加出来ない者が居た。
「あれ?マクソンさん、飲んでないんですか?」
「おお、サスケか・・・」
「そんなに、しょんぼりして、どうしたんですか?」
「サスケ、
今、そいつに、それを聞いてやるなよ。」
「ああ、ジャイケルさん、お疲れ様です。」
「おう!お前も敵の総大将を捕まえる大活躍だったらしいな。」
「いえ、それも、ジャイケルさん達が、
敵の目を引き付けてくれたからこそですよ。」
「はぁ・・・俺は、もうお仕舞だ・・・」
「あの・・・ジャイケルさん、
マクソンさんの、この落ち込み様は一体・・・?」
「こいつは、今日の戦で勇ましく先陣を切って、
敵に突っ込んで行ったは良いが、
転んで意識を失って、気が付いた時は戦が終わってたんだよ。」
「それはまた・・・何と言ったら良いのか・・・
あれ?俺が造った剣を持ってたのに、
すぐに意識が戻らなかったんですか?」
「それが、転んだ拍子に手放してしまったらしくて、
剣を失くした事でも、隊長に大目玉を喰らったんだよ。」
「それは、何と言ってフォローすれば良いのか・・・」
「ううっ、俺は、もうお仕舞だ・・・」
「え~と・・・分かりましたマクソンさん!
これを、差し上げますから見付かったって事にして下さい。」
サスケは『魔倉』から、
予備に何本か造ってあった魔法剣の内、
一本を取り出してマクソンへと差し出した。
「えっ!?いいのか、サスケ。」
「ええ、マクソンさん達には、いつもお世話になっているので、
その、お礼として受け取って下さい。」
「うお~っ!ありがとなサスケ、
これで、隊長にも何とか勘弁して貰えるよ。」
「ちゃんと、魔力を登録するのを忘れないで下さいよ。」
「おう、分かってるって、
早速、隊長に報告してくるわ。」
「ええ、行ってらっしゃい。」
「サスケ、お前は甘いな~。」
「それは、分かってるんですが、
みんなが、こんなに盛り上がってるのに、
一人だけ、しょんぼりしてたら可哀想じゃないですか。」
「そりゃそうだがな・・・
まあ良いか、それがサスケの良い所でもあるしな。」
「はぁ・・・?」