同郷の士
サスケとライが、
スライバーの執務室へと足を踏み入れると、
スライバーが執務机の横に立って待ち受けていた。
「これはこれは、ライ国王陛下、
本来ならば、私の方からお向かいへ伺わねばならぬところを、
わざわざ、こちらまでご足労戴き申し訳御座いませんでした。」
「いや、別に気にしないでくれ、
俺の方から、この街では元冒険者として扱ってくれるように、
頼んだんだしな。」
「そう言って頂けると、ありがたいです。
では改めまして、
ピロンの街を含めましたピロン領の領主を務めて居ります
オークス・スライバー・ピロンで御座います。」
「うむ、俺はマッスル王国の国王をしている、
ライ・ベンチプレス・マッスルだ。」
「ミドルネームにベンチプレスって・・・」
「言うなサスケ、
この名前を決めた時は、酒に酔ってハイになってたんだよ、
酔いが醒めた頃には、もう既に大々的に発表された後で、
『やっぱ無し。』って言えない状況だったんだ。」
「そうなんですか。」
「それで、スライバーさんは、
俺に何の用があるんだ?」
「私の事は、サスケの様にオークスとお呼び下さい、
それで、本日ご足労戴きましたのは、
ピロン領・・・いえ、ルクシア共和国は、
サスケとミルクを護ると決めたのですが、
フェルナリア皇国が何らかの形で、二人の身柄を拘束しようとした場合、
ライ国王陛下は、それを阻止する意思が御座いますのかを、
ご確認させて頂きたく、お声掛けした次第であります。」
「ああ、俺の事もライと呼んでくれ、
それで、ピロン領だけではなくて、
ルクシア共和国として二人を護るという立場に間違いは無いのか?」
「はい、ルクシア共和国の国家元首を務めているカメ・オークは、
私の幼馴染で御座いまして、
サスケに、この国で暮らして貰った場合に、
齎されるであろう実益は計り知れないと申して居りました。」
「ふん、その辺が、ちゃんと理解出来てるんなら、
オークスさんの幼馴染は、なかなか優秀な元首みたいだな。」
「ええ、昔からアイツは、
自分が得になる事を見抜く才能がピカイチでしたから、
今回も間違いは無いと思います。」
「ならば、俺も言わせて貰うが、
皇国が、サスケたちに何らかの不利益を齎す行為に出た場合、
俺とマッスル王国は、
その行為を阻止する為に全力を尽くすと約束しよう。」
「ライ殿の奥方と、ミルクが幼馴染というのは伺ったのですが、
何故それ程までに、サスケたちの為に力をお貸しされるのですか?」
「なる程、オークスさんは、
ミルクさんが、うちのカミさんの幼馴染っていう理由だけで、
これ程、俺が肩入れするのが、おかしいと感じている訳か。」
「有り体に申し上げれば、そう言う事ですな。」
「俺がサスケに肩入れする理由、
それは、簡単に言えば同郷のよしみかな。」
「ライさん、良いんですか?」
「ああ、この人なら、話しても構わないだろう。」
「同郷のよしみ?
それは、どういう意味なのですか?」
「そのままの意味さ、
俺は、サスケと同じく、
勇者イチローが暮らしていた地球の、
日本と言う国からシエラザードに来たんだ。」
「何ですと!?
し、しかし、日本から召喚された勇者はイチロー様にしても、
サスケにしても黒髪に黒目ではありませんか、
ライ殿は、こちらの世界の人間にしか見えませんが・・・」
「俺は、勇者召喚で、こっちに来たんじゃ無いんだよ、
向こうで命を落としたと思ったら、
こっちに、この姿で生まれ変わっていたんだ。」
「その様な事が・・・
それは、もしかすると市井に暮らす者の中にも、
ライ殿の様な、他の世界から生まれ変わった者が、
いるやも知れぬという事ですな。」
「そうだな、俺だけって事は無いだろうから、
そう考えた方が良いだろうな。」
「それにしても驚きましたな、
よもや、ライ殿とサスケが、同じ国から来られたとは・・・」
「オークス様、
俺とライさんは、同じ国から来ただけじゃなくて、
向こうで暮らして居た場所も、凄く近かったんですよ。」
「ほう、そうなのか。」
「ああ、隣町みたいなもんだな、
どこかで、すれ違っていても全然不思議じゃないぐらいの距離だな。」
「それ程、近くに住まれて居られたのですか、
なる程、それは確かに目を掛けたくなりますな。」
「ああ、今のところ、
俺と共通する、前の世界の話が出来るのはサスケだけだからな。」
「分かりました。
異国にありて、同じ話題を共通できる者の存在は大切ですからな、
ライ殿がサスケたちを助ける理由として十分なものですな。」
「サスケを助ける理由は、
確かに、それが一番だが、
オークスさん達の様に、サスケの才能を買ってるのもあるんだぜ。」
「そうですな、単純な戦闘能力よりも、
その、生産に関する才能は驚くべき事ばかりですからな、
何故、皇国が手放したのかが不思議でなりませんな。」
「皇国のヤツらは、
サスケを勇者に仕立て上げる為に、
碌にステータス・チェックもしないで、
騎士や戦士の訓練をさせていたそうだぜ。」
「宝の持ち腐れも、いいところですな。」
「まったくだぜ。」