マナ・ハウスでの会談
「サスケさん、私は一緒に行かなくても宜しいのですか?」
「ああ、オークス様と街の防衛の打ち合わせとかも、
してくるから、
今回は、俺だけで良いや。」
「分かりました。」
実際には、対フェルナリア皇国の話をミルクに聞かせたく無いとの、
含みもあったのだが、
その辺は、ミルクも気付いていながらも、
あえて触れない様にした。
領主の城を訪ねたサスケは、
城の入り口で警備に当たっている兵士たちに声を掛けた。
「こんにちは~。」
「ああ、サスケさん、こんにちは。」
「マッスル王国から、お戻りになったんですね。」
「ええ、今日、ピロンに帰ってきました。
それで、マッスル王国に関する事で、
領主様に、ご報告したい事があるんですけど、
お取次ぎ願えますか?」
「分かりました。
今、団長をお呼びして来ます。」
使いの兵士がカタブツを呼びに走って、
しばらく経つと、
先程の兵士と一緒に、カタブツがやって来るのが見えた。
「これは、サスケ殿、よう戻られましたな。」
「はい、ただ今、戻りました。」
「お館様も、サスケ殿のお帰りを、
首を長くしてお待ちして居りましたので、
どうぞ、こちらにお出で下さい。」
「はい、失礼します。」
サスケは、カタブツの案内で、
いつも通されるスライバーの執務室へと通された。
カタブツが、執務室のドアをノックしてから、
中へと声を掛ける。
「お館様、サスケ殿がお見えになりましたぞ。」
「おお、そうか!
待ちかねたぞ、直ぐに入って貰え。」
「はい、サスケ殿、どうぞ。」
カタブツが、ドアを開けて入室を促した。
「失礼します。
オークス様、ただ今、街へと戻って参りました。」
「うむ、ご苦労であったな、
元気そうでなによりだ。
婚約者のミルクにも、変わりはないか?」
「はい、元気にして居ります。」
「それは、何よりの事だな、
それで、今日はマッスル王国のライ国王との事で来たのか?」
「はい、その話も御座いますが、
ご依頼を頂いた剣の残りも、
全品、ご納品に伺いました。」
「何?もう全部出来上がったと申すのか?
予定では、あと2回に分けて納品するとの事であったな?」
「ええ、実は問題が起きまして、
近々(ちかぢか)、私が造った剣が必要な事態が、
起こる可能性が御座いまして、
大急ぎで造り上げて参りました。」
「何?問題が起きたとな、
それは、どの様なものなのだ?」
「はい、実は・・・」
サスケは、皇国のギッテル子爵との間に起きたトラブルを、
スライバーに報告した。
「ふん、相変わらず皇国には碌な貴族が居らんな、
サスケの話は、分かった。
もしかすると、その貴族が、
何らかの、ちょっかいを掛けてくるかも知れんと申すのだな。」
「はい、ライ国王の話では、
ルクシア共和国や、マッスル王国に面している、
皇国の領主たちには、それ程の武力が無いとの事でしたので、
手を出してくる可能性は低いとの事でしたが、
裏で、カムリ皇帝が何らかの糸を引けば、
その限りでは無いとの事でした。」
「ふむ、確かに、その判断で間違いは無いであろうな、
それで、皇国との間に何か起きた際に、
マッスル王国としては、どう動かれるかを仰って居ったか?」
「はい、全面的なご協力を頂けるとの、
お言葉を頂きました。」
「その言葉は信用できるのか?」
「はい、ライ国王が仰られるには、
今回の問題に置いて、我々側の落ち度は無く、
全面的に問題はギッテル子爵側にあるという事を、
ライ国王が証言して下さるとの事でしたので、
それに対して、不当な侵略行為を働いた場合は、
その排除に、マッスル王国も当たって下さるとの事でした。」
「ふむ、それは大変に心強いが、
いざ、有事の際にマッスル王国は、
ちと遠すぎるのでは無いのか?」
「それに関しましては、
マッスル王国には『ワープゲート』と呼ばれる、
古のアーティファクトが現存して居りまして、
知り合いが居る場所に、一瞬で移動出来るとの事でした。」
転移魔導具を公表するのには時期尚早なので、
ライとの打ち合わせで、
アーティファクトを使う事にしようと話を付けてあったのだ。
「何だと!?
その様なアーティファクトが現存して居ったのか!?」
「はい、『魔の森』、
アルビナ王国で言うところの『神代の森』の奥深くに、
結界に守られた古代遺跡が御座いまして、
その中に、残されていたそうです。」
「『魔の森』に、その様な遺跡があったのか・・・
ライ国王は、どの様にして結界に守られた遺跡を発見出来たのだ?」
「ライ国王の、お妃様であられるフローラ様は、
結界に関する知識に起きましては、
全種族中で一番を誇るエルフ族でいらっしゃいます。
強力な魔獣のいる森の、奥深く分け入るライ国王たちの戦力と、
フローラ様の感知能力で発見する事が出来たとの事でした。」
実際には、魔族であるパサラが発見したのであるが、
その事実は秘密にしておくようにと、
ライより言われていたのであった。
「なる程な、確かにエルフの里には、
エルフにしか分からない結界が、
施されていると聞いた事があるな。」
「ええ、私も伺いました。」
「しかし、マッスル王国が、
その様なアーティファクトを手にしたとなると、
これは問題であるぞ・・・
サスケから見た、ライ国王の人となりは、どうなのだ?」
聡明なスライバーからすれば、
このアーティファクトが軍事利用された場合の危険性に、
直ぐに思い至ったのであろう。
「オークス様のご心配は、ご最もな事ですが、
私が見たところ、
ライ国王は、自分から他国へと攻め入る様な、
お方では御座いませんので、
そちらの心配は無いであろうかと存じます。
私の見識では不安と申されるのならば、
近々、ライ国王が、この街をご訪問された際に、
オークス様、ご自身の目でご判断されれば宜しいかと存じます。」
「ふむ、そうだな、
サスケの、人を見る目を疑う訳では無いが、
こと、国防に関する問題であるからな、
私、自らが実際にお会いして、
ライ国王という人物を、ご判断させて頂くとしよう。」




