冷たい派?常温派?
さて、ケモイヤー村の温泉宿泊施設の完成披露パーティーだが、
本来は主賓である筈のサスケが料理を担当している。
これには、当然ながら理由があって、
サスケが自ら志願して料理の担当を申し出たのである、
最近、ピロンの街にあるサスケの屋敷では、
料理は主にダンミーツ親子が担当して居り、
サスケは作ってもメインとなる料理だけなので、
久し振りに、腕を振るってみたくなったサスケが、
村長に、お願いしたのであった。
「お頭、これって前にも作ってくれた餃子ですよね。」
前にも食べた事がある、サンが尋ねてきた。
「おお、今日は中華で行こうかと思ってな。」
ケモイヤー村では、主にエールが飲まれているので、
サスケは中華料理が合うだろうと考えたのである。
「今日のは、ニンニクの臭いがしないですね。」
ニンニクが苦手なロリーは嬉しそうにしている。
「ケモイヤー村の人達は獣人だからな、
料理の香りなんかに敏感だろうから、
今回は餃子にニンニクは使わないで、
他の料理もトウガラシやチリソースなんかで、
アクセントを付けたんだよ。」
今夜のメニューは、先程の餃子の他に、
シュウマイ、ハルマキ、エビのチリソース炒め、
ホロホロ鳥の肉に、
タケノコとレンコンとピーマンとカシューナッツを加えて炒めたもの、
チャーハン、肉マン、餡マンである。
「お頭、この餃子に似ている料理も美味しいですね。」
「ああ、シュウマイとハルマキって言う料理なんだが、
食感に差を付ける為に、餃子は焼きで、シュウマイは蒸しで、
ハルマキは揚げで作ってみたんだが、どうだ?」
「餃子は、ジュワ~と肉汁が溢れ出してくるし、
シュウマイは、ふっくらモチモチで、
ハルマキはパリッとサクサクで美味しいです!」
「どの料理もエールに相性ピッタリですね!」
「このエビの料理も、辛いけど激ウマです!」
「チャーハン熱っ!美味っ!熱っ!美味っ!」
子供たちには肉マン、餡マンが好評の様で、
両手に大きな肉マンと、餡マンを掴んでパク付いている姿が、
みんなの微笑みを誘っている。
「サスケさん、この肉マンて言う料理は良いですね、
食事として食べても良いし、
ちょっと小腹が空いた時にも、手軽に食べられますね。」
サンパパが話掛けて来た。
肉マン、餡マンは地球でも、
部活帰りの学生などがコンビニで買い食いする定番なので、
サンパパの感想は非常に納得が出来るものだ。
「ええ、本格的に施設が営業し始めたら、
沢山の冒険者たちが訪れると思いますので、
軽食として用意すると人気が出るんじゃないですかね。」
冒険者たちは、若手が多い事と、肉体労働が主な業務となるので、
それに比例して食欲旺盛な者が多く、
一般人に合わせた食事メニューでは、
量的に少ない可能性が高いであろう事から、
食堂に軽食コーナーを設けたら人気が出ると考えられた。
「サスケさんも、やっぱりそう思いますか、
そこで、ご相談があるのですが、
この、肉マンや餡マンも含めた料理のレシピを、
食堂の調理を担当する者たちに、
教えて頂く訳には行かないでしょうか?」
「全然、構いませんよ、
元々、俺もそう考えていましたので、
ウチのメイド用に作ったレシピ集をコピーして来ました。」
サスケは『魔倉』から、
コピーしたレシピ集を5冊程取り出すとサンパパに手渡した。
「こんなに沢山の調理レシピを、
本当に頂いてしまっても宜しいのですか?」
サンパパが懸念するのも、もっともな話で、
インターネットなど存在しない、この世界では、
技術や情報は貴重な物と考えられているので、
サスケが持つ、地球の料理の数々のレシピは、
王家などが秘匿したとしても、
全然、おかしく無いレベルの情報なのである。
「ええ、料理のレバートリーは多い方が良いですからね、
いつも同じ料理では飽きられてしまうので、
この村の料理と合わせて、俺のレシピ集の料理を作る様にして、
お客さんの飽きが来ない様にした方が良いですね。」
「なる程、お客さん商売をするとなると、
その辺の事も、考える様にしないと成らないんですね。」
「ええ、お客さんに何度も足を運んで頂くためには、
村の売りが多いに越した事は無いですから。」
「分かりました。」
「サスケ、この前みたいに、
エールを冷やしてくれんかのう。」
サンパパとサスケが話してるところに、
大工の棟梁のゲインがやって来て言う。
「ええ、良いですよ、
『冷却』・・・はい、どうぞ。」
サスケは魔法でエールを冷やすとゲインに手渡した。
「おう、ありがとよ、
時にサスケよ、好き嫌いは分かれるが、
暖かい気候の時期などに、この冷たいエールは人気じゃと思うぞ。」
「冷たいエールですか?」
この世界のエールは常温で飲まれるのが普通なので、
サンパパにはピンと来ない様だ。
「サンパパさんも飲んでみますか?
『冷却』・・・はい、どうぞ。」
サスケは、近くのテーブルに置かれていたエールを手に取ると、
魔法で冷やしてからサンパパに手渡した。
「では、一つ頂いて見ますかな・・・おっ!
確かに、これはイケますな、
人によって好みはあると思いますが、
私は、こちらの方が口に合いますね。」
「そうですか、
では、『冷却』の魔法を魔石に付与して、
エールを冷たくして保存しておける魔導サーバーでも造って、
食堂で販売したら人気が出ますかね?」
「おう!
温泉から上がって火照った体で飲む、
冷えたエールは、また格別じゃからな、
人気が出る事、請け合いだぞ!」
魔導冷蔵庫を造る際に、
『冷却』の魔法効果がある魔石を造っているので、
それを応用すれば簡単に出来上がるであろう。
「貴重な、ご意見をありがとうございました。」
「ワシらは、美味い酒が飲めれば、それで良いからのう。」