ハイ、チーズ
「なる程、その皇国の貴族と揉めたから、
こっちの道から帰って来た訳ですね。」
サスケは、皆が揃ったので、
何で、ケモイヤー村側の道を使って、
ルクシア共和国へと帰って来たかを説明した。
「ああ、最初は俺も我慢してたんだけど、
ギッテル子爵とか言うヤツが、
余りにも、ミルクに対して失礼な態度を取ったもんだから、
ブチッと来ちまってな。」
「貴族っていうのは、大概がそんなもんですから、
遅かれ早かれ、お頭はキレたと思いますよ。」
「自分が何か言われる分には我慢出来るんだが、
ミルクに対してじゃなぁ・・・」
「いいえ、お頭は自分が何か言われても我慢出来なくなると思いますよ、
そして『何じゃコラ~、ぶっ殺すぞ~!』と、キレられるのです。」
「どこのヤーさんだよ、そりゃ。」
「いえ、忍術や魔法が使えない分、
ヤーさんの方がマシです。」
「そうか、良く分かった。
明日は、久し振りに皆と特訓をする事にしようか。」
「お頭一人だったら、穏便に済んでいたと思うな~。」
「そうそう、ギッちゃん、サッちゃんとか呼び合う仲になるとか。」
「強敵と書いてトモと読むってやつね。」
「パンツを交換したりね。」
「交換するのはシャツだろ!」
翌日になり、
サンを正面に立たせたサスケが何か作業をしている。
「よ~し、データを読み取るから、動かないでジッとしてろよ~。」
サスケは、他のパーティー・メンバーも、
転移魔導具にデータ入力しておく事にしたのだ。
『ピピッ、データの読み込みに成功しました。』
新たに組み込んだ、音声装置が告げる。
「お頭、これって何してるんですか?」
「この魔導具は、転移魔導具って言うんだが、
マッスル王国にあったワープゲートを参考にして、
俺が造った、離れた場所に一瞬で移動する事が出来る魔導具だ。」
「マッスル王国にも、こんな凄い魔導具があったんですか?」
「最初は、そう思ったんだが、
マッスル王国のは、タマシイだけ飛ばして、
自分ソックリのゴーレムみたいなもんに入れる魔導具だったんだよ。」
「それじゃ、ダメなんですか?」
「それが、その体だと魔獣を倒してもレベルが上がらないんだよ。」
「じゃあ、私たち冒険者向きじゃ無いですね。」
「そう言うこった。
よし、次はジュリーの番だぞ。」
「はい、お頭。
・・・ハイ!チーズ!」
『ブブ~!データの読み込みに失敗しました。』
「ジュリー、印画魔導紙じゃないから、
『チーズ』はいらないぞ、ジッとしてろ。」
「は~い。」
印画魔導紙というのは、
サスケが暇潰しに造ったもので、
光魔法の魔力を付与した魔石を、
細かく砕いて粉状になるまで磨り潰した物に、
水を加えてペースト状にしてから、板に薄く塗り付けた物なのだが、
対象物に向けて魔力を通すと画像を写し取れるのである。
写りの出来としては、一見、写真の様に見えるのだが、
良く見ると、写実派の画家が描いた絵程度の画像である。
しかし、写真など存在しない、
この世界の者には結構なインパクトがあったらしく、
大騒ぎしている一同を、一人づつ撮影してあげたのである、
その際にサスケが『笑うのが苦手な人はチーズって言うと良いぞ。』と、
言ったのをジュリーが憶えていたのであろう。
「よし、読み取るからジッとしてろよ。」
「バター!」
「言うなっちゅうとんじゃ~!」
何とか、サンたちと、レッドたちのデータを読み取り終えると、
リンが尋ねて来た。
「お頭、その魔導具って、どこでも行けるんですか?」
「いや、良く行きそうな場所に、
あらかじめ、この魔導投影機を置いてこなくちゃならないんだ。」
サスケは、『魔倉』からバレーボールぐらいの大きさがある、
丸い物体を取り出しながら言う。
「もう、置いてある場所はあるんですか?」
「おう、俺がマッスル王国と、アルビナ王国の山奥の村と、
ルクシアのケンタウロス村の近くに設置して来たんだが、
ライさん達が、アルビナ王国の王都と、ザドス王国の王都と、
ラメール国の中央都市と、魔族の島に設置してくれるそうだ。」
「何か、魔族の島って聞こえた様な気がしたのですが、
気のせいでしょうか?」
「いや何か、ライさんが妹にしたパサラちゃんが、
魔族のお姫様なんだそうだ。」
「魔族のお姫様って、魔王の娘って事ですか?」
「ああ、そうらしいな、
でも、本人は魔王の後を継ぐ気は無いらしくて、
普通の子供として学校に通ってたぞ、
魔族の島にしても、みんな出て行っちまって、
今は、爺やサンが、
廃れた魔王城を護っているだけだそうだ。」
「へ~、『器の中は夢トマト』ってヤツですね。」
「ジュリー、それを言うなら、
『兵どもが夢の跡』だぞ。」
「お頭、この村にも設置するんですか?」
「もちろん設置するさ、
場所は、ゲインさんたちに、
今、作って貰ってる別荘が良いんじゃないかと考えてるから、
これから、見に行こうかと思ってな。」
「私たちも、
お頭たちと一緒に見に行って良いですか?」
「おう、別に構わんぞ。」
サスケたちは、転移魔導具の設置場所の下見がてら、
建築中の別荘を見に行く事にした。
「こんちは~、ゲインさん居ますか?」
「おうサスケか、
ちょうど良い所に来たのう。」
「何か、問題でもありましたか?」
「いや、問題っていう程の事じゃ無いんじゃが、
既存の釜戸を魔導調理器具に変えるのかと、
部屋内の床をどうするかじゃな、
サスケは、囲炉裏の周りは板の間で良いけど、
部屋内は変えたいと言ってたじゃろ?」
「釜戸は、ご飯を炊く時に使いたいので、
そのままで、お願いします。
魔導調理器具は、後で俺が自分で造って別置きにするから必要ないです。
あと、部屋内の床は廊下から3センチ下げて板張りしてくれたら、
俺が畳を敷くから、それでお願いします。」
「畳とは、何じゃ?」
「畳って言うのは、イグサって草を編んでですね・・・
直に見て貰った方が早いか。」
サスケは、『魔倉』から造ってあった畳を取り出して、
床に置いた。
「これが、畳です。」
「ほう、これが畳か・・・何か、良い香りがするのう。」
「ええ、香りが良いし、床板の冷たさが遮断されるので、
体が冷えにくいんですよ。」
「お頭、この上に寝転がると気持ちいいですね。」
ジュリーが、畳の上に寝転んでゴロゴロしている。
「おう、お前の部屋にも敷いてやるから、
楽しみにしておけよ。」




