張井保津太と『賢者の石』
ピカ~ッ!
魔導投影機を抱えたライが小船に乗り込もうとすると、
投影機が光始めた。
「チェッ、サスケが、もう帰って来ちゃったみたいだな、
やっぱり、
『チキチキ第一回投影機を誰が中州に置いて来るか決定、大ババ抜き大会』を、
開催していた時間が余計だったか・・・」
魔導投影機から伸びた光が、
徐々(じょじょ)に人の形らしきものを象って行くと、
両肩に何かを乗せたサスケが現われた。
「お帰りサスケくん、無事の帰還を心よりお喜び申し上げよう。」
「ちょっ、何、投影機抱えて、
船に乗り込もうとしてるんすかライさん!」
「いや、皆で投影機が船酔いするかどうかを、
話し合っていたもんでね。」
「そんな訳、ある訳無いじゃないっすか!もう・・・」
「そんな事より、両肩に乗せてるのは魔獣か?」
「ええ、なんかピーピング・モンキーの変異種らしいんですけど、
懐かれたんで連れ帰って来たんですよ。」
「そんな、見た事がない魔獣が居たなんて、
お前、一体どこまで行ってたんだ?」
「アルビナ王国の山奥にある、カマゾネス村ってとこです。」
「カマゾネス村ですって!?」
「ルクアさん、ご存じなんですか?」
「ええ、アルビナ王国の過去の文献に、
何度か出て来る村なんですけど、
実際に行ったことがあるって人が現在居ない事から、
夢物語の類と言われていました。」
「あ~、何かの影響で、
村の周辺は人が方向感覚を狂わすって言ってたから、
行こうと思って、行ったり来たり出来ないらしいですよ。」
「そういう訳なんですか・・・」
「何か普通と変わったとこがある村だったのか?」
「ええ、変わったとこしかない村でしたね。」
「へ~、そりゃ面白そうだな。」
「ええ、ライさんが行ったら村でモテモテだと思いますよ、
村の場所は転移魔導具に保存して置いたから、
是非、その内に行って見て下さい。
あっ、その際はライさん、お一人で行かれる事をお薦めします。」
「何で、俺一人で行った方が良いんだ?」
「村の周辺には変わった魔獣が多くて危険だからですよ。」
サスケは、建前の理由を皆に聞こえるように言うと、
ライに近づいて小声で話し掛ける。
『村の美女にモテモテのライさんを見たら、
奥様たちがご立腹されるかも知れないじゃないですか。』
『なる程、サスケ屋、お主も悪よの~。』
『いえいえ、ライ代官様程では、御座いませんよ。』
『『フォッフォッフォッ。』』
「男二人で、何の悪巧みをしているのかしら?」
「サスケさんが、あの顔をしている時は、
何か悪戯を企んでいる時の顔なので、
ライさまに悪戯を仕掛けているんだと思います。」
「ライが、鼻の下を長くしてるところを見ると、
何か女性関係の悪戯でしょうから、
少々、痛い目を見た方が良いわね。」
「まったく持って、同感ですわ。」
サスケたちの内緒話は、女性陣には筒抜けであった。
ジ~ッ×2
「うん?」
強い視線を感じたので、サスケが下を見ると、
パサラとポラリが、
サスケの両肩に乗っている、シロとクロをジッと見つめていた。
「こいつらに興味があるの?」
ふたりは、むち打ち症になるんじゃないかと心配になる程の勢いで、
首をコクコクと縦に振っている。
「こっちの白いのがシロで、こっちの黒いのがクロって言うんだ、
2人とも宜しくな、
シロ、クロ、パサラちゃんとポラリちゃんだ挨拶しろ。」
「「キキ~!」」
「うわ~、可愛い!」
「うん。」
「そうだ、シロたちを使って、
2人の護衛役にチビリンを造ってやろうか?」
「「良いの?」」
「シロ、クロ、
パサラちゃん達の護衛役を務めるゴーレムになってくれないか?」
「「キキキ~。」」
「『サル神様のご用命ならば。』とか言ってんじゃねぇ!
体は保存して置くから、いつでも元に戻れるし、
その体より格段に強くなれるぜ。」
「「キキ~!」」
「そうか、なってくれるか。」
「シロちゃん達は良いって?」
「同意?」
「ああ、魔獣ってのは本能的に強さを求めるから、
他のチビリン達も、
強く慣れるならゴーレムになりたいって言ってなったんだよ。」
「ふ~ん。」
「納得。」
「よ~し、じゃあ二人の護衛を務めるゴーレム造りだから、
材料は特別な物を使うとするかな。」
サスケは、『魔倉』から何かを取り出しながら言った。
「サスケ、その変わった色をした石ころは何なんだ?」
「ああ、この石は、
カマゾネス村で大量に土産として貰ったんですけど、
村の近くの山で沢山採れるらしくて『賢者の石』って言うそうです。」
「『賢者の石』ですって!?」
「フローラ、知ってるのか?」
「錬金術を手掛けた者で知らぬ者は居りませんわ、
治療薬に混ぜれば『万能薬』へと昇華され、
また、『ソーマ』へ混ぜると『命の父ゼェ~ット!錠』に成ると、
言われていますわ。」
「『万能薬』は何でも治るって分かるけど、
その『命の父ゼット錠』ってのは、どんな効果があるんだ?」
「ライさま、『ゼット錠』ではなくて、
『ゼェ~ット!錠』ですわよ。」
「その辺は、どうでも良いだろ。」
「いえ、どうでも良くは御座いませんわ、
薬剤と言うものは、その開発者に敬意を表して、
ちゃんとした商品名で呼ばなくてはならないのですわ、
ですから、この薬を開発された、
張井保津太氏が命名された商品名で呼ぶべきですわ。」
「その、パクリっぽい開発者の名前と商品名だけで、
敬意を表したく無くなるんだが、
それは、まあ良いか、
それで『命の父ゼェ~ット!錠』には、どんな効果があるんだ?」
「錠剤を湯船に溶かしてから、
その中に遺体を入れますと生き返るのですが、
『ソーマ』と違いまして、同じ方に何度でも使えますし、
体が欠損していても元通りになりますし、
死後、時間が経過していても効果があります。」
「そりゃ凄いな、まさに秘薬ってヤツだな。」
「ええ、『ソーマ』自体が殆ど市場に出て来ませんし、
『賢者の石』に至りましては、
小指の先程の大きさでも、国宝として王城の宝物庫に保管されて居りますわ。」
「じゃあ、あんなに大きなもんだったら・・・」
「ええ、価値の付けようが御座いませんわ。」