冒険者ギルド
「おっ!見えて来たぞ、
あれが俺の店があるピロンの街だ、
フェルナリア皇国の入り口の街が、
ケンさんが住んでいるシャルムの街なら、
ルクシア共和国側の玄関口が、ここピロンの街だな。」
「へ~、なかなか大きな街ですね、
街の外側にも高い防壁がグルッと周っていて、
守りも堅そうですね。」
「ああ、この街は国境から近いからな、
もし戦争でも起きたら、
真っ先に攻められるのが、この街になるんだ、
その分、防御力はピカいちだぜ。」
「戦争とか、あるんですか?」
「いや、国境付近の小競り合いが偶にあるぐらいで、
俺が、この街に来てからは戦争が起きた事は無いな。」
「それは良いですね、平和が一番ですよ。」
「そうだな、戦争は奪うばかりで、
俺たち商売人からすれば、商品の流通が途絶えるわ、
他国への出入りが出来なくなるわで、
良い事なんか一つも無いからな。」
「武器の売買で儲かるんじゃ無いんですか?」
「俺が売る武器は、魔獣や盗賊と戦う為のものだ、
戦争の為の武器なんて扱う気はないぜ。」
「それは良いですね、
俺もレトリバーさんの考えには共感が持てます。」
「おう、ギロッポンなら、
そう言ってくれると思ったぜ。」
「はい。」
「おっ、そろそろ街の入り口だな、
街の入り口の警備兵は、みんな知り合いだから、
俺と一緒ならスムーズに街に入れるぜ。」
「それは、とても助かります。
俺は、まだ冒険者じゃないんで、
簡単な身分証明書しか無いから、
街の入り口の審査で、いつも時間を取られていたんですよね。」
「まあ、そうだな、
初めての街に冒険者以外の者が入るのに、
時間が掛かるのは常識だからな。」
「どうして、冒険者は優遇されるんですか?」
「それは、冒険者ギルドが国に属さない世界的な組織で、
そこに登録された者は、冒険者ギルドが厳しく管理しているから、
もし無法を働いた場合は、ギルドから必ず重い罰を与えられるんだ、
世界中の冒険者ギルドは、通信用の魔導具で結ばれているから、
犯罪を犯した冒険者には逃げ場が無いって訳さ、
だから冒険者ギルドに登録している者は信用されて、
街の入り口でも、すんなり入れるって訳さ。」
「成る程、冒険者ギルドの管理下に置かれている者なら、
犯罪を犯す心配が無いって事ですね。」
「まあ、実際の冒険者たちは、
魔獣や盗賊と戦う荒っぽい連中が多いから、
多少の問題は起きたりするんだが、
魔獣や盗賊を退治して貰えば街の連中も助かるから、
少々の事には目をつぶってるってのもあるな。」
「成る程、冒険者たちも、
その辺は弁えているでしょうからね。」
「そう言う事だ。」
「よう!レトリバー帰って来たのか。」
「今回の行商は儲かったか?」
街の入り口にある門を警備していた兵士たちが、
レトリバーに声を掛けて来た。
「まあボチボチだな、
今日の警備はジャイケルとマクソンか、
俺が街を離れている間に、何か変わった事とか有ったか?」
「いや、いつも通り平和そのものだな、
変わった事と言えば、錬金術士ギルドのシンディー婆さんが、
引退して娘夫婦が暮らす街に行っちまったから、
街に中級治療薬を造れる錬金術師が居なくなったぐらいかな。」
「えっ!?それって結構な問題なんじゃ・・・」
「うん?レトリバー、一緒に馬車に乗っているヤツは誰だ?」
「ああ、シャルムの街から護衛をして貰ったんだよ、
この街で冒険者登録をする予定なんだが、
腕前の方は俺が保証するから間違いないぜ。」
「そうか、レトリバーが、そこまで言うなら腕利きなんだな、
優秀な冒険者が増えるのは大歓迎だぜ、よろしくな!」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」
「それと、さっきの質問の答えなんだが、
この辺は、余り強い魔獣が現われる事が無いから、
低級治療薬で十分なんだよ、
中級治療薬なんて造っても殆ど売れないしな。」
「成る程、そう言う事ですか。」
レトリバーの言っていた通りに、
特別、調べられる事無く街へと入る事が出来た。
「それで、ギロッポンは、これからどうするんだ?
この足で、冒険者ギルドに行って登録するのか?」
「いえ、最初に寝泊りする宿を決めて、
少しお腹が空いたので食事をしてから、
冒険者ギルドに行こうかと思います。」
「おう、分かったぜ、
知ってる宿屋を紹介してやるよ、
そこは昼間は食堂もやってるから飯も美味くて、お薦めだぜ。」
「ありがとうございます。
それは楽しみですね、ぜひ紹介して下さい。」
レトリバーの案内で訪れた宿は、
外観も清潔感溢れる雰囲気で、
サブローは一目で気に入った。
「ふ~ん、『鳥の骨亭』か、鳥料理が得意なのかな?」
「おう!この宿の看板メニューになっている、
サイゴノオオ鳥の丸焼きは絶品だぜ、
俺は、「もし世界が滅びるとして最後に何が食べたい。」って聞かれたら、
間違いなく、ここのサイゴノオオ鳥の丸焼きを選ぶね。」
「それは、楽しみですね、
宿を取ったら必ず注文します。」
「おう、約束通りご馳走するぜ。」
「ありがとうございます。」
サブローが宿の入り口を入ると、
カウンターに居た30代中頃ぐらいに見える、
女将さんらしい女の人が声を掛けて来た。
「いらっしゃいませ~、
お泊りですか?お食事ですか?」
「両方とも、お願いします。」
「俺の知り合いなんで、サービスしてやってくれよ。」
「あら、レトリバーさん、行商からお帰りになったんですね、
レトリバーさんの、お知り合いなら商人の方ですか?」
「いえ、冒険者になる為に、
この街に来たんですよ、取り敢えず10日間、朝晩食事付きで、
お願いします。」
「はい、10日間食事付きですと10万ギルになりますが、
レトリバーさんの、ご紹介なので9万5千ギルになります。」
「ありがとうございます。
でも、余りオマケをして頂いても悪いので、
10日間、昼飯用の、お弁当を作って貰って、
10万ギルでは如何でしょうか?」
「ええ、うちは食堂もやってるので、
その位の事でしたら何でもないですよ。」
「では、それで、お願いします。」
「はい、ちょうど10万ギル頂きました。
では、先にお部屋のご案内をさせて頂きますね、
チロリ~、お客さんをお部屋にご案内して。」
「は~い!」
女将さんが声を掛けると、厨房らしい場所から、
10歳ぐらいに見える女の子が出て来た。
「娘のチロリにご案内させますので、
お部屋まで付いて行って下さいね、
チロリ、お客さまを10号室にご案内してね。」
「は~い、分かりました。
お客さん、こちらにお願いします。」
「うん、よろしくねチロリちゃん。」
「はい!」
サブローはチロリの案内で部屋に荷物を置いてくると、
レトリバーが待つ食堂を訪れた。
「おう、ギロッポン、こっちの席だ、
サイゴノオオ鳥の丸焼きを注文しておいたから、
すぐに出てくると思うぜ。」
レトリバーの言葉通りに、
直ぐに、大きな鳥の丸焼きを皿に乗せた女将さんがやって来た。
「ご注文のお品です。
アツアツですから、お気を付けてお召し上がり下さい。」
「おう!女将、ありがとよ。
ギロッポン、俺がこの街で一番お薦めの料理だ食べてくれ。」
「はい、いただきます。」
サブローは、肉を口に一口頬張った瞬間、
その美味しさに目を見張った。
「こっ、これは!?
まったりとしていて、それでいて少しもしつこく無い!
絶妙なバランスの上に成り立つ、味のシンフォニーだ!!」
「おう、お前が何言ってるか全然分からないけど、
気に入って貰えたみたいで良かったぜ。」
「はい、この味と出会えただけでも、
この街に来た価値が十分にありますよ、
レトリバーさん、ありがとうございました。」
「おう!」
サイゴノオオ鳥の丸焼きを十分に堪能したサブローは、
『鳥の骨亭』でレトリバーとの再開を約束してから別れて、
冒険者登録をする為にギルドを訪れた。
サブローがギルドの入り口を入ると、
受付嬢が声を掛けて来る。
「冒険者ギルド、ピロン支部へようこそ!
私、当ギルドの受付をご担当いたします、
モモヨ・ホルスタインと申します。
本日は、どのようなご用件でいらしたのでしょうか?」
牛タイプの獣人で、超巨乳で色っぽい受付嬢だ。
「冒険者の登録を、お願いしたいのですが。」
「冒険者登録ですね、承りました。
では、私が書類を作成いたしますので、
いくつかの質問に、お答えくださいませ。」
「はい、分かりました。」
「まず、お名前をお願いします。」
「サブ・・・(まてよ、さすがにサブローは不味いな。)
サ、サスケでござる。」
(しまった!?つい忍者言葉になってしまった。)
「サスケ・デ・ゴザールさまですね、
名字持ちと言う事は貴族さまですか?」
「い、いや、『でござる』は名前じゃなくて、
ただのサスケだ。」
「サスケ・タダノさま?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「オホホホホホホッ!分かっております。
サスケさまですね、
今のは、ちょっとしたホルスタイン・ジョークですわ。」
(ううっ、ぶん殴りてぇ・・・)