『マツ・デラ』様
「サスケちゃんには、
まず、我がカマゾネス村の村長に会って貰うわよん。」
「あ~!もう分かったよ、
村長さんに会うから、もう腕を放してくれよ。」
「放した途端に逃げたりしない?」
「ああ、逃げないって約束するよ。」
「じゃあ良いわん、
あんた達、放してあげなさいん。」
「「了解よん。」」
サスケの両脇を固めていた、
矢鱈とゴツイ、オネエさん達が腕を放した。
「ふ~、やっと楽になったぜ。」
「サスケちゃん、ちょっと手を見せてくれるん。」
「うん?ああ、良いぜホラ。」
サスケが手を差し出すと、
オネエのリーダーっぽいヤツが、サスケの手の甲にブチュ~ッとキスをした。
「うぎゃ~!何するんじゃコラ!?
この口紅、何か全然落ちないじゃねぇか!」
サスケは、手の甲にベッタリと付いた口紅をゴシゴシと擦ってみるが、
全然取れなかった。
「落ちないのは当たり前よん、
その口紅は私のスキル『ネバー・エンディング・ストーカー』で、
付けたものだから、私がスキルを解除しないと消えないわよん。」
「それって、どんなスキルなんだよ?」
「例えば、サスケちゃんが地の果てまで逃げたりした場合に、
私に居場所が分かるスキルよん。」
「え~、何か超イヤなんですけど~、
逃げないって約束するから消してくれないかな~。」
「サスケちゃんが村から帰る時に、ちゃんと消したげるわよん。」
「ホントだな?絶対だぞ?約束だぞ?」
「何か、そう念を押されると消したく無くなるわねん。」
「おい!?」
「オホホホッ!ウソウソちゃんと消したげるわよん。」
「頼むぜホント。」
「じゃあ、村長に紹介するから着いてきてねん。」
「おう。」
オネエリーダーの案内で、
サスケは村の一番奥に建つ、一番立派な建物に案内された。
リーダーは、その建物の入り口のドアをゴンゴン!とノックすると、
中に向かって声を掛けた。
「村長、久し振りのお客様が見えたわよん。」
「あらん、そうなの?
本当に久しぶりのお客様ねん、どうぞお通しして差し上げてねん。」
建物の中から、ひと際野太い声で返答があった。
リーダーはガチャッとドアを開けると、
サスケに「サスケちゃん、どうぞん。」と入室を促した。
「うわ~、超入りたく無いんですけど。」
「どうしたのサスケちゃん?
手取り尻取りしてあげないと入れないのかしらん?」
「はいはい、入りますよ。」
サスケは、渋々(しぶしぶ)と建物に入った。
「あらん可愛らしい坊やね、カマゾネス村にようこそん!」
「モモヨ!?」
「モモヨって誰なのん?
私はカマゾネス村の村長をしている、
コウメ・ニュージャージーよん、よろしくねん。」
サスケが改めて良く見ると、
確かに顔はモモヨにソックリなのだが、
身長が2メートル程で筋肉質な体付きをしていた。
「コウメさんですか?
俺はルクシア共和国で冒険者をしているサスケって者なんですが、
コウメさんて、ルクシア共和国に親戚とかって居ませんか?」
「ルクシアで?
親からは聞いた事無いわねん。」
「そうですか、他人の空似ってヤツなのかな?」
「それで、サスケちゃんは、この村に何しに来たのん?」
「ああ、移動用の魔導具の実験をしていたのですが、
手違いがあって、この村の近くに飛ばされたんですよ。」
「あらん、そうなの、帰る手段はあるのん?
もし無いなら、この村で暮らしても良いわよん、
可愛らしい男の子は大歓迎だわん。」
「い、いえ、ちゃんと帰れますんで、ご心配無く!」
「そうなの、それは残念だわん、
サスケちゃんは3年ぶりのお客様だったから、
村人が増えるかもって期待したのにん。」
「ここって、地図にも乗って無い様な、
相当な山奥だと思うんですけど、
どうやって、こんなに村人が増えたんですか?」
サスケが見た感じ、30人程の村人が居る様だった。
「村人の三分の一は、サスケちゃんみたいに迷い込んだ冒険者よん、
この村の周辺は、人の方向感覚を狂わせる何らかの要因があるらしくって、
時々、帰れなくなった冒険者がやって来るのよん、
後の三分の二は、私たちカマゾネス一族が信仰する神様である、
『マツ・デラ』様が夢枕に立たれて、
『あんた、コッチ側の世界にお出でなさいよ!』って仰られたら、
翌朝、カマゾネス魂に目覚めたらしいわよん。」
「怖~!『マツ・デラ』様、ちょ~怖~!
お願いですから、俺の夢枕に立たないで下さい!」
「あら、サスケちゃんの後ろに・・・」
「ぎゃ~!」
「オホホホッ!冗談よん、冗談。」
「や、止めて下さいよ、もう・・・」
「サスケちゃんが、あんまり怖がってるから、
つい、からかいたく、なっちゃったのよん。」
「そういえば、
コウメさんは、どっちのパターンでカマゾネスになったんですか?」
「私は、どちらでも無いわよん、
父がカマゾネス村の先代村長だったんだけど、
近くに集落があるオナーベ族の母と恋に落ちて、私が生まれたって訳、
この村で生まれ育った生粋のカマゾネスって事ねん。」
「オナーベ族って人達も居るんですか?」
「そうよん、彼らは私たちとは逆に、
体は女性だけど、心は男性って人たちが暮らしている集落よん。」
「へ~、そうなんですか。」
「お互いの苦労が分かるから、
偶に交流会なんかを開いて親交を深めたりしてるんだけど、
最近、二つの村を結ぶ道付近にある洞窟に、
強力な魔獣が住み着いたらしくて、行き来が出来なくて困ってるのよん。」
「この村の皆さんは、かなりの実力者揃いだと思うんですけど、
それでも討伐出来ないんですか?」
「ええ、この村の者たちは力に特化した者ばかりなので、
動きが早い魔獣は苦手なのよん。」
「あの~、良かったら、
俺はシーフの上位職なんで、狩って来ましょうか?」
「ホント!?それは助かるわん、
サスケちゃんの体格や筋肉の付き方を見た時に、
そうじゃないかと思ったのよねん、
きっと、サスケちゃんは、
『マツ・デラ』様が使わして下さった救世主なのねん!」
「え~、それだけはイヤなんですけど~。」