インバーター
「まさか、孤高の天才と言われていた『大賢者』様に、
お弟子さんが居られたとは夢にも思いませんでした。」
「まったく、エルザもお会いしていたなら、
私たちにも教えて下されば良いのですわ。」
「獣人族は魔法を使わないから、
そんな有名な人って思わなかったんじゃないか?」
「そうかも知れませんね、
エルザも身体強化に魔力を使っていますが、
エルザの話では、
物心が付いたら自然と使える様になったと言っていたので、
特別に魔法の勉強なんてした事は無いと思います。」
「そう言う事ですの、
私たち魔法使いにとっては常識的な事なんですが、
そう言う事情なら仕方がありませんわね。」
「それで、サスケが持って来てくれた魔導冷蔵庫なんだが、
やっぱり厨房に置いて貰うのが良いかな?」
「そうですね、その大きさなら邪魔にならないと思いますし、
他の食品の保存にも便利ですからね。」
「でも、それ程の規模の空間魔法を付与してあるのでしたら、
相当の魔力を必要とするのでは、ありませんの?」
「使用する魔力を効率化してありますので、
半年に一回ぐらいの割合で、魔導冷蔵庫の正面に付いている魔石に、
ウォーターウォール程度の水魔法の魔力を流して頂ければ大丈夫です。」
「何ですの!?
その、超効率的な魔力消費量は!?」
「え~と、それはですね、
これから俺が話す事は、
俺が造っている魔導具の売り上げにも関係する事なんで、
出来るだけ外部には内密にお願いしたい事なんですけど、
フローラさん、
魔法を使う時って、どんな風に魔力を消費しているかご存じですか?」
「魔力の消費ですの?
それは、使う魔法の規模によって大きく消費したり、
小さく消費しているのでは、ありませんの?」
「基本的には、その考えで間違えは無いのですが、
実は、どの魔法を使う場合にも、
この世界の魔法は、大量の魔力を無駄にしているんですよ。」
「どう言う事ですの?」
「皆さんが魔法を使っている時の、魔力消費って言うのは、
魔法発動中に常に消費されている印象を受けますが、
じつは、もの凄く細かい周期でONとOFFを繰り返しているんですよ、
その周期は、個人によって多少の誤差はありますが、
一秒間に50~60回のONとOFFを繰り返しています。」
「やけに詳しい数字ですが、
どうやって調べましたの?」
「魔力消費の効率化を研究する為に、専用の測定器を開発しました。
今日も、お持ちして居りますので、後でお見せします。」
「分かりましたわ。」
「そこで、俺が考えたのは地球にあったインバーターです。」
「インバーターって、省エネ家電とかに書いてあったアレか?」
「はい、あのシステムは簡単に説明すると、
電気の周波数という波を、出来るだけ小さくする事によって、
消費する電気を少なくするって物なんですが、
俺は、魔力と電気が持つ特性が良く似ている事に着目して、
魔力の波も小さくすれば、
その消費量を節約出来るんじゃないかって考えたんですよ。」
「その方法が成功したのか?」
「はい、まずは自分で使う魔法を効率化出来る様に研究した結果、
今まで、魔法を使う時に10の魔力を使っていたと仮定した場合に、
3の魔力で同じ威力の魔法を発動出来る様になりました。」
「それは凄いですね!
同じ魔法を、今までの3倍使えるって事になりますよね。」
「ええ、ルクアさんが仰った通りに、
使用出来る魔法の数が今までより増やせます。」
「その理論を魔導具に組み込んだのですわね?」
「ええ、その通りです。」
「これは、魔法学における画期的な発見ですわ!
是非、この世紀の大発見を世界に向けて発表するべきですわ!」
「まあ、待てフローラ、
さっきサスケが内密にお願いするって言っていただろ、
新しい技術ってもんは、
発明者が確固たる地位を確立してから発表しないと、
巨大資本に食い物にされちまうんだよ。」
「巨大資本ですの?」
「この場合は、国とか大商会とかだな。」
「でも、眠らせて置くには勿体なさ過ぎると思いますわ。」
「その辺はサスケも考えてんだろ?」
「ええ、俺は今後、
省エネ魔導具で稼いで行こうかと考えて居りますので、
省エネ魔法はマッスル王国で役立てて下さい。」
「そんな重要な技術を提供するって事は、
何か、それなりのお願いがあるって事だな、
タダより高い物はないっていう格言もある事だしな。」
「ええ、実はお願いがありまして・・・」
サスケは、ライたちに、
マッスル王国に向かう際に起こった、
フェルナリア皇国のギッテル子爵とのトラブルを説明した。
「なる程な、後から皇国が何かを言ってくるかも知れんという事か、
サスケたちが暮らして居るルクシア共和国の方はどうなんだ?」
「ええ、幸いにも俺たちが住んでるピロンの街の領主様は、
ルクシア共和国の代表を務めて居られる方と、
懇意になさっていらっしゃって、
皇国とのトラブルには対処して頂けるとのお返事を頂いて居ります。」
「でも、ルクシア共和国って、
確か軍事面には、余り力を入れて無かったよな。」
「ええ、それなんで、
皇国と争い事が起きると最前線になる予定の、
国境間近に位置するピロン領は、
俺が造る魔導武器で強化しようかと考えています。」
「それって、この前に貰った剣みたいな武器って事か?」
「ええ、攻撃力の強化と、
防御および回復の魔法を付与した物を考えているんですが、
新しく造った個人認識の機能も追加しようかと思います。」
「個人認識?」
「ええ、本人しか使えない剣にするんですよ、
敵に奪われると危険ですからね。」
「そりゃ、そうだな。」
「それで、もしもの時はお願い出来ますか?」
「おお、任せとけよ、
皇国の貴族とは、
俺の国も『魔の森』関連で、しょっちゅう揉めているからな、
何か起きたらサスケに味方するぜ。」
「ありがとうございます。」
「それでサスケさん、
味方する代わりに技術提供下さるという省エネ魔法は、
どの様に習得するんですの?」
「先程、お話し致しました魔導具の魔力波測定器を使用します。
実際の品物は、こちらとなります。」
サスケは『魔倉』から取り出して見せた。
それは、スマホ程度の大きさと軽さの物で、
大きなモニターが付いていた。
「随分と小さな物なんですのね。」
「ええ、省エネ魔法の訓練は、
子供の頃からした方が良いので、
子供でも持ち易い様に、出来るだけ小型化に努力しました。」
「そういう訳ですのね、
それで、この魔導具は、どう使いますの?」
「手に持って魔力を流してみて下さい。」
「あら、何か窓に波型の模様が出て来ましたわ。」
「それが、フローラさんの魔力の波動なんですよ、
後は、その波を出来るだけ小さくする様に訓練する訳なんですが、
普通の魔法が身に付いている大人程難しい作業なんですよ、
うちの連中にも訓練させたのですが、
魔法を覚えたての子供が一番早く上達しました。」
「なる程、では学校教育に取り入れた方が良さそうですわね。」
「ええ、そう仰ると思いまして、
同じ物を50個ほど造って持って来ましたので、
どうぞ、お使いになって下さい。」
サスケは残りの魔導具を『魔倉』から取り出して、
ライたちに手渡した。
「おお、用意が良いな、さっそく学校で子供たちに使わせてみるか。」
「ええ、そうしましょう。」
「そうですわね。」