ホイホイ
「この洞窟の中に、盗賊のお宝が隠してあるのか。」
「ええ、あの場所から南の洞窟と言うと、
ここになりますね。」
「洞窟には、俺も一緒に入った方が良いか?」
「いえ、俺はアイテムボックスがあるので、
一人でも大丈夫ですよ。」
「でも、俺一人で、ここで待っているのも不安だしな・・・」
「俺が馬車ごと結界を張っておけば、
オーガが来ても大丈夫ですよ。」
「そうか、ギロッポンがそう言うなら大丈夫だな、
じゃあ、俺はここで待っているよ。」
「分かりました。
じゃあ、結界を張りますよ、『結界』よし、張りました。
結界から外に出たい時は『アウト』、
また中に戻りたい時は『イン』と言えば戻れますので。」
「結界から出る事なんて、あるのか?」
「ええ、急な便意を甘く見ると、トンデモナイ目に遭いますよ。」
「何か、凄く実感が籠った忠告だな。」
「ええ、俺は便意のせいで、
若い女の子たちの前で尻を出す羽目になりました。」
「何か良く分からんが、凄い経験だな。」
「ええ、人として何かを失った気がします。」
「それ程か?」
サブローは、レトリバーを残して洞窟へと入って行った。
「俺だけなら夜目が効くから明かりは要らないな、
え~と、地図に由ると、こっちの方だな。」
何回かの岐路を地図の通りに進んで行くと、
やがて突当りとなった。
「ここで、合ってる筈だよな、
よし、『感知』・・・おっ!隠し口発見。」
大きな岩で巧みに入り口が隠してあった。
「よっしゃ!『怪力』」
サブローは、大きな岩をヒョイと横にずらして、
中に入って見た。
「おお~っ!なかなかの品揃えだな。」
洞窟の中には金銀宝石などの財宝の他に、
ピカピカの装飾が施された悪趣味な武器や防具もあった。
「さすがは海洋貿易が盛んなルクシア共和国と、
フェルナリア皇国を結ぶ街道に出没する盗賊団だけあって、
価値が高そうな物が沢山だぜ。」
サブローは片っ端に『魔倉』へと放り込んで行った。
洞窟にサブローが入ってから、
1時間程経過した位で戻ってくると、
レトリバーが入っている結界は30匹ほどの、
オーガに囲まれていた。
「レトリバーさんが、招きよせるのは盗賊だけじゃないのか・・・
まあ良いや、さっさと片付けて助けるとするか。」
サブローは気配を消しながら、
次々とオーガの首を背後から忍者刀で切り裂いて行く、
口を押えながらなので他のオーガは気付く事無く、
死んだオーガは『魔倉』に収納して行くので、
血溜りが残るのみである。
残りが10匹程になった時点で、
さすがにオーガたちも、
仲間が居なくなった事に気付いて騒ぎ出した。
「よっしゃ、この位なら一撃で行けるかな。ハッ!」
サブローの手からミスリル製の手裏剣が放たれると、
オーガたちは首から血を流して倒れ伏した。
サブローは、オーガに止めを刺しながら、
結界の中のレトリバーに声を掛けた。
「レトリバーさん、オーガは仕留めましたよ、
大丈夫ですか?」
「おお!ギロッポン助かったよ、
取り敢えず話は後だ!『アウト』」
レトリバーは結界から飛び出すと、
岩場の陰へと猛スピードで走って行った。
暫くしてから、至福の表情で戻ってくると、
「いや~、ギロッポンが言っていた事は本当だったな、
便意を甘く見るとトンデモナイ目に遭うって事が実感できたよ、
何度、人としての尊厳を失いそうになった事か・・・」
「分かってくれましたか、
レトリバーさんだけでも、大事な物を失わずに済んで良かったですよ。」
「ギロッポン、お前って良いヤツだな。」
「ええ、地獄を見たヤツは、人に優しくなれるんですよ。」
「成る程な、分かるような気がするよ。」
「そうだ、レトリバーさん、
盗賊のやつらが沢山の武器や防具を隠していたんで、
レトリバーさんの魔導カバンに移して貰えますか?」
「おお、悪いな。」
サブローが『魔倉』から次々と取り出す、
高そうな武器や防具に、
レトリバーは目を白黒させている。
「これ程の貴重な武器や防具じゃ、
いったい、どれ程の金額になることやら・・・」
「俺の『鑑定』によると500万ギル位みたいですよ。」
「500!?今回の1か月間の行商で売り上げた金額の5倍って・・・」
「運良く臨時収入を手に入れたと思えば良いんじゃないですか。」
「そうだな、そう割り切る様にするよ、
その変わり街に戻ったらタップリご馳走させてくれよな。」
「ええ、美味しいお店を教えて下さい。」
「おう!任せて置け。」
結局、ルクシア共和国にある、
レトリバーさんの店がある街までの7日間の旅路にて、
レトリバーさんの馬車は3度盗賊に襲われて、
レトリバーさんの臨時収入は1000万ギルを超えた。