ギッテル子爵領
マッスル王国のライ国王らに、結婚式の招待状を届ける為に、
ピロンの街を出発したサスケとミルクとチビリンは、
最初の目的地であるケンが店を構えている、
フェルナリア皇国のシャルムの街へと到着した。
シャルムの街は、フェルナリア皇国南部のギッテル領に属しており、
領主はギッテルの街に城を構える、サンシータ・ギッテル子爵であった。
ギッテル領は東西方向に細長く伸びた形をしており、
その殆どがルクシア共和国へ面しておる事から、
本来であれば国防を考えて屈強な軍備を備えるところだが、
隣国のルクシア共和国が貿易大国であり、
その軍備に余り力を入れていない事から、
ザドス王国やアルビナ王国に面した領地と比べると、
格段に少ない軍備であった。
また、領地のうち西側の一部は、
マッスル王国が所有している『魔の森』に面していたのだが、
最近、マッスル王国の開発工事によって、
『魔の森』の一部が切り開かれて、
馬車がすれ違える程度の新たな道が作られていた。
ただし、その道を使うには『魔の森』の強力な魔獣の襲撃に備えて、
優秀な冒険者を雇う必要がある。
「え~と、確かこの辺だったよな・・・」
「サスケさん、あそこじゃありませんか?」
「おお!あったあった!
『何でも屋ケンちゃん』ここで、間違いないな。」
サスケは、見覚えがある店の看板を見上げながら言った。
「ごめん下さい。」
サスケは店のドアを空けながら、中に声を掛ける。
「いらっしゃいませマドモアゼル、
一人寝が寂しい未亡人の味方『何でも屋ケンちゃん』です。」
「ケンさん、お久し振りです。」
「おう!ギロッポン・・・じゃなくて、
確か今はサスケだったな、元気にしてたか?」
「ええ、お蔭さまで元気イッパイです。」
「ケン様、その節はお世話になりました。」
「おう!何時ぞやのお嬢さんか、
無事にサスケに逢えたみたいで良かったな。」
「はい、ありがとうございました。」
「キキ~!」
「うおっ!何だ、この小さいのは!?」
「そいつは、俺が造ったゴーレムでチビリンって言うんですよ。」
「こいつがゴーレム!?
まるで、生きてるみてぇじゃねぇか、
相変わらず、お前の錬金術はとんでもねぇな・・・」
「ハハハ、褒め言葉として受け取って置きます。」
「それで、今日は何の用だ?」
「はい、彼女はミルクって言うんですが、
この度、ピロンの街の教会で、彼女と結婚式を挙げる運びとなりまして、
お世話になったケンさんに招待状をお持ちしたんですよ。」
「おお!それは目出度いな!
こんな美人と結婚するなんて、サスケはアレだな・・・」
「アレですか?」
「死ねばいいのにな!」
「「ええ~っ!?」」
「ハハハッ!冗談だよ冗談・・・少しはな。」
「少しですか!?」
「まあ、冗談はさて置き、もちろん出席させて貰うぜ、
あのヤキニクの生みの親の結婚式なんだから、
美味いもんも食えるんだろ?」
「ええ、美味しい料理や酒を用意して待ってますよ。」
「そりゃ楽しみだな、
それはそうと、魔導リュックの追加をレトリバーに頼んでおいたんだが、
サスケは聞いてるか?」
「はい、レトリバーさんから伺いましたんで、
ちゃんと持って来ました。」
サスケは『魔倉』から魔導リュックを100個取り出して、
カウンターの上に積み上げた。
「おう、助かるぜ、
この街の冒険者から口伝に聞いたヤツらが、
遠くの街から買いに来たりするから、
そん時に品切れじゃあ、可哀想だからな。」
「そうですね、
それと、これはまだ商品化していない物なんですが、
試食用に置いて行くから食べてみてくれますか?」
「新作の『ピロン焼肉のタレ』か?」
「ええ、辛いのが好きな人用に『辛口』と、
子供用に『甘口』を造ってみたんですよ。」
「おお、そりゃ良いかも知れないな、
色んなニーズに応えるのが大ヒット商品の秘訣だからな。」
「ええ、そろそろ類似商品とかが出て来るだろうから、
豊富な種類と品質で対抗しようかと思いまして。」
「ああ、俺もよくヤキニクを食ってるが、
このタレを完璧にコピーするのは不可能だろうから、
今の味を守って行けば敵無しだと思うぜ。」
「はい、分かりました。」
サスケとミルクは、その日はシャルムの街で一泊して、
ケンと最近の出来事や、流行している品物などの話をしながら、
食事を楽しんだ。
次の日の朝、次の目的地へと向かうサスケとミルクを、
街の門まで、ケンが見送りに来ていた。
「ケンさん、
わざわざ朝早くから、すいません。」
「何言ってんだよ、商売人は朝が勝負なんだから、
早起きして見送りなんて何でもないぞ。」
「そうなんですか?」
「もっとも俺の場合は、しょっちゅう二日酔いで、
昼頃に店を開ける事が多いがな。」
「ハハハハッ!ケンさんらしいですね。」
「お酒の飲み過ぎは体に悪いですよ。」
「それは、分かっちゃいるけど、止められないってヤツだな。」
「ケンさん、
俺が造った低級治療薬を、水で3倍に薄めて飲むと、
二日酔いに良く効きますよ。」
「おっ!そうなのか、そりゃ良い事を聞いたな、
これで安心して深酒出来るぜ。」
「いやいやいや、そっちじゃ無いですよ。」
「そうですよ、ダメですよ。」
「ハハハッ!分かってるって、ホドホドにしておくさ。」
「そんじゃケンさん、俺たちは行きますね。」
「ケン様、失礼致します。」
「キキ~!」
「おう、サスケなら心配いらないと思うが、
気を付けて行くんだぜ、ミルクさんもチビリンも元気でな。」
サスケとミルクとチビリンは、
ケンに別れを告げると、マッスル王国へと向けて馬車を走らせ始めた。