小銭稼ぎ
「レトリバーさん、馬車に便乗させて頂き助かります。」
「いや、どうせ同じルクシア共和国に向かうんだし、
護衛もして貰うんだから、俺も助かるしね。」
「いつもは、どうしているのですか?」
「護衛を雇うほどの資金は無いから、
大きな商隊に便乗させて貰ってるので、
相手の出発に合わせて急いだり、
待たされたりするから大変なんだよ、
今回はギロッポンが居るから、
マイペースで進めるので助かるね。」
「そう言って頂けると嬉しいですね。」
「ところで、何で頭巾を被って荷台に身を隠しているんだ?」
「この頭巾は俺の仕事着なんですよ、
あと何で隠れているかと言えば、
護衛が居ると分かると、盗賊が現われないじゃないですか。」
「いやいやいや、普通は盗賊に遭わない様に護衛を雇うんだよ。」
「ルクシアまで、折角の長の旅路なんですから、
小銭を稼ぎましょうよ、
盗賊なんて何人居たところで俺の敵じゃないですから、
俺は盗賊が持っているお宝で、
レトリバーさんは武器や防具が取り分の、
WinWinな関係で行きましょう。」
「そう上手く行くのかね~?
だいいち、盗賊が現われるかも分からないだろ。」
「いえ、レトリバーさんの人の良さそうな雰囲気は、
護衛が居なければ間違いなく盗賊を引き付けると思いますよ。」
「ええ!?まさか、そんな事は無いんじゃ・・・」
「馬車を止めやがれ!
俺たちゃ盗賊だ!命が惜しかったら積荷と金を置いてきやがれ!」
見るからにガラの悪い10人ほどの男たちが、
道の先を塞いで広がっていた。
「ええっ!?いきなりか。」
「何を言ってやがる!さっさと馬車から降りろってんだ!」
「ギロッポン、さっそく来たみたいだよ。」
ところが返事が返ってこない。
(まさか、一人で逃げちゃったんじゃ・・・)
「おい!周りの岩場から、俺たちの仲間が弓矢で狙ってるぞ、
早くしねえとハリネズミだぜ!」
盗賊の、お頭らしい男が怒鳴っている。
「わ、分かりました。
今、馬車から降りますので撃たないで下さい。」
レトリバーは両手を上げて馬車から降りた。
「馬車から離れるんだ。」
「は、はい。」
レトリバーは盗賊の指示通りに、馬車から少し離れた。
「よし!今だ!射殺しちまえ!」
「そんな!?話が違うじゃないですか・・・」
「俺たちは目撃者が出ない様に、
襲ったやつらは皆殺しが信条なんでい!」
「ひ、酷い・・・」
「うん?お前ら何やってんだ、さっさと撃たねえか!」
その時、お頭の周りに居た男たちがバタバタと倒れ込んだ。
「な、何でい!」
お頭が突然倒れた子分たちを見ると、
その首に、見た事が無い形をした刃物が突き刺さっていた。
「だ、誰の仕業だ?」
驚愕の表情を浮かべた、
お頭の首に忍者刀がピタリと押し付けられた。
「俺だよ。」
「いつの間に、俺の後ろに・・・」
「さっきから、ずっと立っていたぜ。」
「何だと!?気配感知持ちの俺が気付かねえはずねえだろ!
どんなカラクリかは分からねえが、
刀を俺の首から離しやがれ、
周りには弓を構えた仲間が狙っているんだぜ。」
「そいつらなら、とっくに死んでるよ。」
「馬鹿を言うな!20人からは居たんだぞ!」
「正確には22人だったな。」
「まさか、ホントに・・・
おい!お前ら、早く出てこい!」
お頭の呼びかけに答える者は居なかった。
「さてと、お前だけ生かしておいた理由は一つだ、
貯め込んだ、お宝はどこに隠してあるんだ?」
「宝を渡せば、俺を殺さないで置いてくれるか?」
「渡せば楽に殺してやる、
渡さなければ最高に苦しめてから殺す。」
「そ、そんな・・・」
「お前たちが、今まで殺して来た人たちも、
みんな生きていたかっただろ。」
「それは・・・」
「面倒だから、とっとと話してもらうとするか、
『自白』宝の在り処を話せ。」
サブローは『言霊魔導』を発動した。
「ここから、南に5キロほど行ったところにある洞窟に隠してあります。
洞窟は幾つかに枝分かれしていて、
俺のカバンの中に入っている地図通りに進めば見つかります。」
「そうか、ご苦労。」
サブローは、お頭の首をゴキッと捻って息の根を止めた。
「おっ!このカバン、いっちょ前に魔導具じゃん、
この中に・・・あったあった、
頭が言ってたのは、この地図だな、
よさげなお宝があると良いな。
レトリバーさん、このカバン魔導具になっていて、
アイテムボックスみたいに沢山荷物が入るみたいだから、
貰って置いた方が良いよ。」
「それは、とてもありがたいんだけど、
ホント驚いたな、ギロッポンて、こんなに強かったのか。」
「これで、分かったでしょ、
レトリバーさんは、安心して盗賊に襲われて下さい。」
「いや、どんなに安全と分かっていても、
盗賊に襲われるのはヤダなぁ・・・」
「まあ、レトリバーさんは盗賊ホイホイだから、
普通にしていれば、むこうから集まってくるよ。」
「それも、まったく嬉しく無いな。」
サブローとレトリバーは、盗賊たちから武器や防具を剥ぎ取って、
戦利品の魔導カバンに入れて荷馬車に乗せた。
死体はアンデット化する恐れがあるので、
魔法で穴を掘って、その中で燃やしてから埋めた。
「そんじゃ、お宝を回収に行きますか。」
「そうだね、持ち主が居なくなったんだから、
朽ち果てさせるのは勿体ないよね。」
「そう言う事、お宝に武器や防具があったら、
それもレトリバーさんの取り分で良いですよ。」
「そりゃ悪いよ、さっきの武器や防具でもソコソコの金額になるよ。」
「レトリバーさん有っての盗賊狩りだからね、
それに、俺は武器や防具は自分で作った物しか使わないから、
必要ないんですよ。」
「ギロッポンは鍛冶も熟すのか!?多才も良いところだな、
そう言う事なら、ありがたく頂くから、
俺の店で買い物する時はサービスさせてくれよな。」
「はい、分かりました。」




