失意の元勇者
俺の名前はサブロー・タナカだ。
本当の名字はイタジマなのだが、
日本の高校に通っていた俺を、
魔王を倒すために勇者として召喚したフェルナリア皇国の皇帝陛下が、
およそ300年前に俺と同じ日本から召喚されて、
魔王を倒して勇者となったイチロー・タナカに肖って、
タナカと名乗るように言われたのだ。
その俺だが、ただ今、絶賛シカトされ中だ、
誰にかって?国にだよ、
と言うのも、勇者として召喚された俺だが、
魔族の奸計によって魔王化されてしまい、
世界にフェルナリア皇国の恥を曝したからだ、
しかし、考えて欲しい、
俺を誘拐同然に召喚したのも皇国だし、
魔族が化けていた側近を俺付きにしたのも皇国だ、
何で俺が、これ程蔑まれなくてはならないのだろうか?
流石に皇国も俺を謀殺したり追放などすれば、
恥の上塗りになると分かっているのでシカトしているのである。
今日も今日とて、城に居ても空気扱いなので、
愛用のミスリル製の鎧と剣を身に付けて城下の街へと散策に出かける、
何故、ミスリルの装備品が取り上げられなかったって?
これ程の品物になると、最初に利用者登録が成されるので、
俺が権利を放棄しないと、他の人は使えない仕組みになっているのだ、
もちろん皇国の連中は返せと言ってきたが、
この世界に置いて俺の唯一の財産と言える装備品を返す筈が無い、
聞こえない振りをしていたら、手切れ金ぐらいに考えたのか、
返せと言わなくなった。
街を歩いていると、親子連れの子供が俺を指差して言った。
「ねえねえ、お母さん、
あの人って「しっ!見るんじゃありません、あの人は見えちゃイケない人なの。」ふ~ん。」
「俺は悪霊かっ!」
街を歩いていると一度は俺を目に留めるものの、
皆、すぐにハッとして目を逸らしていく・・・
(ふん!日本の高校に通っていた頃は、
先生を始めとした全校生徒にシカトされていた俺にはシカト耐性があるから、
こんなの寂しくなんて無いやい!)
えっ?何故、全校からシカトされていたのかって?
大した事じゃないんだが、
俺が通っていた高校の2年生に、
人気アイドルグループに入っている早乙女 愛羅っていう、
学園のヒロインが居たんだけど、
彼女が体育の時間に使った体操着を、
調理室の鍋で煮込んで抽出した愛羅汁を嗜んでいたのがバレたからだ。
(最近、学校にも防犯カメラがアチコチ付いているが、
生徒のプライバシーを侵害してると思わないか?)
誰にも相手にされないので、トボトボと街の外れにある川まで歩いてみる、
ここ何日か降り続いていた雨の所為で、水かさが増して茶色く濁った濁流と化している、
(ここに飛び込んで死んだら、元の世界に帰れないかなぁ・・・)
しばらく、川の流れを眺めていたが、
(いやいや、飛び込むにしても、もう少し流れが穏やかで綺麗な水のほうが良いな。)
俺は気を取り直して、城に帰ろうと踵を返したが、
雨で地盤が緩んでいたのだろうか、足元がボコッと崩れて、
俺は濁流へと転落してしまった。
何とか岸に這い上がろうと踠いてみるが、
身に付けた鎧で動きが制限されているので、
思うように体が動いてくれなかった。
段々と意識が遠のいてくる。
(俺、このまま死ぬのかな・・・
どうせならミルキィ姫のパンツでミルキィ汁を飲んどくんだった・・・)