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おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
9/31

 色々と思うところはあったものの、とりあえず無事……、ではないが、ともちゃんとお揃いのワンピースを購入。


 残った未練はいつかなんとか……。本当になんとかなるんだろうか?


 お店を出たところで、ふいに吐きかかった溜息を飲み込んで、自転車に飛び乗る。


 気付けば、現在14時半。


 ワンピース一着に随分時間をかけてしまったものである。


 あっ、このタイツも買ったんだっけ。


 まぁ、それはよしとして。


 「ん~っ! じゃあ、次どうしよっか?」


 ぐっと背を伸ばして、ともちゃんに声を掛ける。


 「う~ん? どうしよっか?」


 と、のんびりと答えるともちゃん。


 さて、本当にどうしたものか。


 う~ん……、そうだっ!


 「ねぇ、じゃあ、ちょっとお願いがあるんだけど……」


 「うん? なあに?」


 「あ~、え~とね……、実はちょっと教えてほしいことがあって……」


 「うん?」


 小首を傾げて、自転車の籠の辺りに頭を乗せながら、ぽかんとこちらを見上げるともちゃん。


 う~ん……、案外自分からお願いするってなると、なんっていうか、照れくさいっていうか、気まずいっていうか……。


 明らかに挙動不審になりながらも、思い切って口火を切る。


 「え~~とね……、実は、ちょっと、お料理とかを、教えて欲しかったりとか……、したりして?」


 「うん。いいよ~。でもどうしたの? 急に?」


 言えない。


 朝、《久しぶり》に自分で作ったお弁当の出来映えが酷過ぎたからだなんて……。


 っていうか、そもそもおかしいんだ。仲良しグループの皆が、実は自分でお弁当を作っていただなんて意味のわからない事実が。中学まではほとんどの子がお母さんの手作り弁当だったのに……。


 いや、でも、私だって、たまには、ごくたまには、自分でも作ってるし。


 だから、全部がウソって訳ではない。


 そう、全部は……。


 つまり、「私もお弁当、自分で作ってるよ~」なんて皆に言ってしまっていたのである。


 つい、なりゆきで言ってしまったものの、流石にもう引っ込みはつかない。


 そんな訳で、


 「いっ、いや、ほら、ともちゃんのお弁当って、いっつもおいしいじゃん! だから、ねっ!」


 と、自転車から身を乗り出しながら手を合わせ、上目づかいでお願い。


 「そ、そうかな?」


 「そ、そうっ! だから、お願いっ!」


 「う~ん? まぁ、いいけど。じゃあ、お買いもの行かなきゃだね」


 ということで、次の行き先はともちゃん家近所のスーパーに決定。


 品目は無難に肉じゃが。


 この間、ともちゃんから一口もらったのがすっごく美味しかったのである。


 そんな訳で、豚肉、じゃがいも、たまねぎ、にんじんと材料を購入。


 調味料はともちゃん家にあるとのことで、早々に帰宅。


 ともちゃんに借りたエプロンを装着し、キッチンに立つ。


 さて、


 「じゃあ、先生っ! 宜しくお願い致しますっ!」


 と、両手で拝みながら、角度90度で礼。


 私の将来のためにどうぞその女子力を分けてください。


 「もう、どうしたの? 改まっちゃって?」


 と、笑いながら答えるともちゃん。


 「い……、いや~、なんとなく……、かな?」


 う~ん? 微妙に後ろめたい。


 「じゃあ、とりあえず、じゃがいもとにんじんの皮むきからね」


 「よっしゃっ! りょ~かいっ!」


 と、つい腕まくり。


 苦笑するともちゃん。


 まず、じゃがいもの皮剥きを始めるものの、ぐっ、うまく……、芽が、取れない。


 でも、危なげでぎこちない手つきながら、漸く一つ目の芽の処理に成功。


 すると横で、すでに二つのじゃがいもを四つ切りにし終え、にんじんの皮むきに移行しているともちゃん。


 早っ!


 慣れた手つきでくるくると半分になったにんじんを回しながら、一つなぎのままの皮をまな板の上に落していく。


 っていうか、にんじんの皮ってピーラ―で剥くもんじゃないの?


 頭の中で突っ込みを入れながら、ともちゃんの鮮やかな手さばきに魅入っていたところ。


 「どうしたの? しおちゃん」


 あっという間に皮むきを終えたともちゃんが私の視線に気付く。


 「いや……、ともちゃん、無茶苦茶上手じゃない?」


 「えっ? いや、こんなの普通だよ~」


 ちょっと照れて頬を染めるともちゃん。


 ほう、つまり私は普通以下か……。


 まぁ、そういう突っ込みは置いておくとして。実際、私の作業全然進んでないし。


 「いやいやっ、ホントすごいってっ! ねぇ、ちょっともう一度やって見せてよっ!」


 と、私のにんじんを手渡す。い、いや、別に自分の仕事をサボろうとしたんじゃないからね。


 「そ……、そう? えっとね……、こんな感じに……」


 特に疑問を感じた様子もなく、再びにんじんを回し出すともちゃん。


 よしっ、今だっ!


 すかさず自分のじゃがいもの芽の処理に戻る。この隙に少しでも進めなくては。


 えいっ! 少々ならどうでもいいやっ! と、周りの実を大幅に削りながら芽を取って、シンクの中のゴミ入れにシュート。よしっ!


 全てのじゃがいもの芽が見事な軌道を描き、ネットの中へと収まる。


 って、私は何をしているんだろう。


 横ではもう既に半分くらいまで剥かれたにんじんを手の中で回しているともちゃん。


 ぐぐっ、早く四つに切り分けなければ。


 慌ててまな板に置いたじゃがいもに包丁を立てる。


 ギリギリで、ともちゃんの作業より早くじゃがいもの切断を終了。


 ともちゃんの切ったものよりも明らかに小さいのだが、まぁ、気にしない。


 そう、きっと、私のじゃがいもの方がちょっと小さかったんだろう。


 次いで、にんじんの皮むきを終えるともちゃん。


 「わぁっ! やっぱりすっごいじゃんっ! どうしたらこんなにキレイに剥けるの?」


 一つながりになったにんじんの皮を右手でつまみあげ、高く持ち上げてみる。本当に比喩じゃなく、向こうが透ける位に薄い。


 れ……、練習したら、私にも出来るのかな?


 今度、家でやってみよう。


 ちなみに、左手はこっそり、二つのまな板の上にあるじゃがいもを一つのまな板に集める作業に従事中。


 「い……、いや、私はお母さんの手伝いとかで毎日包丁使ってるし……。たぶん慣れだよぉ。ほ……、ほら、じゃあ、じゃがいもを水に浸して。あっ、あと、にんじんも切り分けなきゃ」


 「うんっ! じゃあ、にんじんの方やっとくね」


 まとめられたじゃがいもに気付いた様子もなく、水の中へ丁寧に実を入れていくともちゃん。


 よしっ。完全犯罪成功。あとはにんじんを一口大に切り分けてっと。


 「にんじん、出来たぁ?」

 

 「うんっ! 出来たよ~! じゃあ、今度はたまねぎだねっ!」


 お互い半分になったたまねぎの薄皮を剥く。しかし、どこまでが薄皮なんだろう。まぁ、それはどうでもいいとして、とりあえず適当なところで薄切りにしていく。


 「ふっ! うぅっ! あぁっ!」


 「ふえっ、どうしたの? しおちゃん?」


 「うっ、眼がぁっ、眼がぁああああっ!」


 どこかで聞いたようなセリフ風に言ってしまったものの、実際のところ笑っている余裕はなかった。


 なんてお決まりのミスだろう。たまねぎの汁が眼に入ってしまったのである。


 しかし、やってみるとマジで痛いっ!


 「眼にしみちゃったの? ちょっと、こっちっ!」


 「ふえっ? なっ、なに?」


 「ここに顔入れて、瞬きしてっ!」


 と、おもむろに冷凍庫の戸を開けるともちゃん。


 「あうぅっ、えっ? なんで?」


 「いいからっ!」


 と、身体を引かれるまま、そのまま顔を入れられる。つっ、冷たいっ!


 言われるがまま、冷凍庫に顔を突っ込んで瞬きをする。おや? 痛くない?


 「なっ、治ったっ! なんで?」


 「う~ん。私もよくわからないんだけど。前に私が眼にしみちゃったとき、お母さんがやってくれたんだ。あとね、たまねぎは先に水に付けたり、冷やしたりしておくとあんまりしみないんだって……」


 よく見ると、ともちゃんのたまねぎは水に濡らしてあった。


 さきに教えてよ。


 まぁ、流石にそうは言えないけど。


 そんな文句を飲み込み、遅まきながら自分の分のたまねぎを水につけ、作業を再開する。


 「しおちゃん、ホントにもう大丈夫?」


 「うんっ! でも、すごいねっ! さっきの方法! ともちゃんママ、流石だねっ!」


 「うん。なんかね、こういう豆知識みたいなの好きみたいで、色々教えてくれるんだ。でも、よかった。大丈夫で。たまねぎって眼にしみると、ホントどうにもなんないくらい痛いもんね」


 「いや~、ホント久しぶりに焦ったわ~っ! あっ、たまねぎ終わったよ~」


 「あっ、うん。じゃあ、今度はお肉だね」


 パックから豚肉を取り出し、細かく一口大に切り分ける。


 「じゃあ、しおちゃん。そこのお鍋に軽くサラダ油ひいて火にかけてくれる?」


 「えっ、油?」


 「うん。煮る前に炒めなきゃ」


 「あ……っ、うん。サラダ油ってどこにあるの?」


 へ……、へぇ、肉じゃがって煮る前に炒めるんだ。し……、知らなかった。あとは味付けして煮るだけかと思ってたわ……。


 「あっ、そこの下の戸棚の中だよ~」


 「う……、うん。ちょっと待ってね」


 とりあえず、言われるままにサラダ油を取り出して鍋にひく。そして、鍋を火にかけて十分に熱したところで、


 「ともちゃ~ん。準備出来たよ~」


 「ありがと~」


 と、一口大に切り分けられた豚肉をまな板に乗せて、こちらに来るともちゃんに鍋を明け渡す。


 ともちゃんがまな板から鍋へと豚肉を放り込み、炒め始める。慣れた手つきで鍋を揺らしながら、中の豚肉の色を変えていく。


 程良くいい色になったところで、


 「しおちゃん。お野菜用意してもらっていい?」


 と、指示を出されたので、


 「りょ~かいっ!」


 と、言われるがままにじゃがいもの水を切り、にんじん、たまねぎと合わせてまな板に乗せる。それをともち ゃんが流れるような動きで受け取り、一気にお鍋に投入する。


 「あとは味付けだけど……。ちょっとお鍋見ててくれる?」


 「うん」


 おもむろに調味料達を取り出すともちゃん。


 「じゃ~んっ!」


 何やらニコニコと、その笑顔に似合わないものを抱えて現れたともちゃん。


 「ともちゃん? なんで一升瓶?」


 抱えていたのは日本酒の瓶である。


 「えへへ~、隠し味です。お父さんのなんだ~。あと、お砂糖とみりん。それにだし汁代わりに麺つゆ。ごめんね。横着しちゃって」


 「ほぉ~っ!」


 ほう、麺つゆってこんな使い方も出来るんだ。

 

 「お野菜もいい感じの色になったかな。じゃあ、そろそろ味付けるね」


 これまた手早く調味料達を中に放り込んでいくともちゃん。


 あんまりに手早過ぎて、これじゃあ配分が覚えられない。


 まぁ、あとで聞けばいいか。


 おや?


 「あれ? みりん使わないの? せっかく持ってきたのに?」


 なぜか唯一手を付けられていないみりんについて突っ込みを入れる。


 「あっ、みりんはね。最後に入れるんだ。その方が、テリとコクが出るんだって」


 「へぇ~っ!」


 へえ、みりんってそうやって使うのか。


 コトコト中火で3分後。


 「じゃあ、みりん入れるね。あっ、そこのアルミ、ちょっとクシャクシャってしてから開いてくれる?」


 「へっ? アルミ? 何に使うの?」


 「落とし蓋にするの。それでね、凸凹してるとアク抜きのとき、そこにアクがくっついて取れるからいいんだって」


 「ふ……、ふ~ん」


 ふむ……、アク抜きね……。


 そんなことするんだ……。今までしたことなかったなぁ……。


 そんなことを思いつつ、さりげなくセリフから「は」と「ひ」をはぶりながら、「ぶっちゃけ野菜切っただけで、ほとんど何もしてないなぁ、私」なんて自省に考えを巡らせる。


 キッチンには湯気と一緒に肉じゃがのいい香りが立ち込める。完成まであともうちょっと。

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