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おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
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 だだでさえ肌寒いのに、橋の上で自転車を走らせると殊更冷たい風が吹きつけてきた。剥き出しになった肌から体温が次第に奪われていく。


 ヤバい。これはちょっときつい。


 漸くお店に着いた頃にはすっかり脚が冷え切ってしまっていた。カタカタと身体を震わせながら、そそくさと入店する。


 「さ~む~い~っ! とりあえず、タイツどこかな?」


 「え~と、あっちだったっけ?」


 普段、こんな時期にそうそう買うものでもないので、なかなか売り場が見つからない。ちなみに今履いているのも去年の秋にママが特売で買ってきたものである。


 「お客様……。もしかしてお探しのものはこちらでしょうか?」


 と、私の脚の大穴に困ったような視線を送りながら、気を遣ってくれた店員さんが声を掛けてきた。その手にはタイツが1つ握られている。


 「あっ! あのっ! あっ、ありがとうございますっ!」


 慌ててスカートの裾で大穴を少し覆う。


 「ちなみに売り場はあちらですので、他の種類がよろしければどうぞご覧ください」


 苦笑しながら私にタイツを手渡し、レジの方へと去っていく。


 え~と、まぁ、一応他のも見ておこうか。


 ということで、ひとまず売り場へ向かう。向かったものの、どれも特に代わり映えがしないので、結局さっき受け取ったタイツを購入することに決定。レジで代金を払い、試着室に飛び込み、すぐに脚を通す。


 さてと……。


 「と~もっちゃ~んっ!」


 バッ! と、勢いよく試着室のカーテンを開いた。


 おや、いない。ともちゃんは……?


 ちょっと離れたところでワンピースを眺めていた。


 フリルの随分可愛らしいものを見つめているともちゃん。


 本当に可愛いなぁ、あれ。


 ふいに見蕩れてしまった。


 ああいうのも、子どもの頃だったら可愛く着られたんだろうな。


 でも、流石に今はダメだろう。まぁ、ともちゃんなら可愛く着こなせると思うけど。


 だが、もう女子高生の着るものではないはずである。


 ということで、ともちゃん目掛けて突進。


 「ふぇっ! しっ、しおちゃんっ? きゃあっ!」


 完全に油断していたともちゃんが急な衝撃にふらつく。そのまま倒れそうになるともちゃんを両手でキャッチ。そのまま子どもを抱え上げるようにその小さな身体を持ちあげる。


 「ちょっ、ちょっとっ……! もうっ、降ろしてよ!」


 想像以上に軽いその身体を一生懸命に動かして、私の腕から脱出しようとする。


 だが、抵抗むなしく子猫のように私の腕の中に収まっている。


 まぁ、純体育会系の私の筋力に純文化系のともちゃんが敵うはずもないのだが……。


 ちなみに、別にともちゃんは運動神経が悪いわけではない。割と卒なく何でもこなす子なのだが、ただもともとの体力があまりないのである。


 ちなみに、私は有り余る身体能力に任せてどんな競技でもこなす子である。


 ……、有り余る身体能力に任せて……。


 あぁ、もうっ! どうせ私は漢らしいですよっ!


 完全に自滅という形で敗北を喫した瞬間だった。


 ガックリ肩を落とすと同時に、ともちゃんを床に降ろす。


 「ど……、どうしたの? しおちゃん……」


 「いや……、なんでもない」


 「そ……、そう?」


 「うんっ! っていうか、それっ!」


 ハンガーに掛っているものの中から、自分のお目当てのワンピースを選んで手に取り、


 「これ、これっ! う~ん? これなら、私よりともちゃんの方が似合うんじゃない? ほらぁっ!」


 と、ともちゃんに重ね合わせて見る。


 「そ……、そうかな? でも、やっぱり、これは……。ちょっと大人っぽ過ぎないかな? 私はそっちのやつの方が……」


 そう言って、割と大人しめなワンピースを手に取ろうとするともちゃん。


 「えぇ~っ! いいじゃ~んっ! 子どもっぽ過ぎる訳じゃないんだからっ! ねぇっ、ねぇっ、着てみようよ~っ!」


 ともちゃんの動きを遮り、さっき取ったワンピースを手渡す。


 「えぇ……、でも……」


 「いいから、いいからっ!」


 ともちゃんをワンピースごと試着室に押し込めて数秒。


 「ともちゃん、着れた~?」


 「う……、うん。でも、やっぱり、これはちょっと……」


 「よしっ! じゃあ、見せてっ!」


 「ちょ……、ちょっと待ってっ! きゃあぁっ!」


 バッ! と、勢いよく試着室のカーテンを開いた。


 既に夏物の薄手のワンピースに着替えていたものの、慌ててコートで身体を隠そうとするともちゃん。


 え~と……。


 まぁ、デザイン的には問題ないと思う。


 むしろ、こういう雰囲気なら、ともちゃんには十分似合うと思う。


 ただ……。


 サイズが間違っていた。


 「ちょっと……、これは……」


 肩から落ちそうになっているワンピースを支えながら、恥ずかしそうに顔を赤らめているともちゃん。


 「ごっ、ごめんっ! えっと……、もう二サイズ下のだよね」


 つい、自分サイズのものを渡してしまっていた。


 「ちょっと待っててっ!」


 「ちょっとっ! カーテン閉めて……」


 慌ててワンピースコーナーへ向かう。何やらともちゃんが叫んでいたような気がしたのだが……。


 すぐにともちゃんサイズのワンピースを手に試着室に戻り、


 「ともちゃんっ!」


 と、声を掛けてカーテンに手を伸ばす。


 「きゃあっ! ちょっ、ちょっと待ってっ!」


 何やら慌てているともちゃん。カーテンに手を掛けたままとりあえず静止。まぁ、さすがにここで勢いよく開けるほど私も考えなしではない。


 という訳で、カーテンの端に少し隙間を作ってワンピースを手渡す。


 店内に女性しかいないとはいえねぇ。


 「も~い~か~い?」


 「えっと……、ま~だだよ。も、もうちょっと待っててね」


 「うん!」


 「えっと……、も~いいよ~。って、ちょ……!」


 バッ! と、勢いよく試着室のカーテンを開く。


 「も~っ! なんでいっつもそんな開け方するの?」


 「いや~、つい?」

 

 「もうっ!」と、頬をぷくっと膨らませるともちゃん。


 その子どもっぽい仕草に反して、このワンピースはちょっぴり大人な雰囲気で身体を包んでいる。


 うん。流石にもう女子高生。


 これくらいの背伸びはありだろう。


 しかし、まぁ、普段の制服だとあんまりわかんないけど、ともちゃんもちゃんと成長していたんだな……。


 「うんっ! むっちゃ可愛いじゃんっ! うん、うん! っていうか、相変わらず肌きれいだよね! どうしたらこんなにまっ白になれるの?」


 何やら我が子の成長を見守る親のような気分になりつつ、小さな幼馴染の腕を掴みながらしみじみと眺める。というか、マジで白いな。一体どんなケアをしたらここまでの美白になれるんだろう。


 「ね……、ねぇ、あんまりじっと見ないでよ。ほ……、ほらぁ、今度はこっちのでしおちゃんが着てみてよ……」


 恥ずかしそうにしながら、きれいにハンガーに掛け直されたワンピースを手渡してくる。いけない。つい、羨まし過ぎて魅入ってしまった。


 「りょ~かいっ! ちょっと待っててねっ!」


 と、隣の試着室に飛び込む。さて試着、試着……。


 「う……」


 まぁ、サイズ的には少し小さいが問題はないと思う。


 っていうか、私だって女子高生。


 これくらいの大人な雰囲気でも十分着こなせているはずである。


 ただ……。


 いやっ、べっ……、別に、太ってるって訳じゃないんだ。


 ちゃんと普段から運動だってしてるし……。


 っていうか……、し過ぎちゃってるんだよね……。


 鏡に映る身体の内の数か所が、何というか色々とがっちり……、いや、しっかりしている。


 うわ……、見れば見るほど眼に付くなぁ……。


 腕とか……、脚とか……。


 しかもさっきともちゃんの腕を見た所為か、肌も心なしか随分色黒になっている気がするし……。


 ふいにマンガなんかでよく見るテンプレートなアマゾネスのイメージと自分を重ねてしまい、


 「はぁ~」


 と、大きな溜息が洩れてしまった。


 「しおちゃん?」


 それに気付き、心配そうな声を掛けてくるともちゃん。


 「えっ! いや、なんでもないよっ!」


 「そう? お着替え終わった?」


 「うっ、うん! 一応……」


 「ほんと? 見せてっ!」


 「あっ、ちょっと待ってっ!」


 カーテンの端からぴょこっと中に顔を入れるともちゃん。


 「わぁっ! すっごく似合ってる! 脚もすっごく長くってモデルさんみたいだしっ! これいいんじゃない?」


 「いっ、いや……」


 顔がひきつってしまう。そりゃ、すらっと細くて長い脚とかならいいんだけどさぁ……。


 「どうしたの?」


 小首を傾げるともちゃん。流石の大親友でも、今の私の心中は分からないらしい。


 「い、いやっ、ほんとなんでもない。なんでもないから……」


 ふう。と、軽く鼻で溜息をつく。


 まったく、この子にはこの腕や脚の筋肉が眼に入らないんだろうか?


 「どうしよう? 買うの、これにする?」


 ともちゃんは割と気にいったみたいで、どうやら私とペアルックで買うつもりになっているようだった。


 だったのだが……。


 「う……、う~ん? いっ、一応他のも見てみようか?」


 「そう? じゃあ、あれとかはどうかな?」


 さっきのフリル付きのワンピースを指差すともちゃん。


 「それはダメっ!」


 ふいに、あのフリル付きのワンピースを着た自分の姿を想像してしまった。もう……、これ以上は勘弁してください。マジで……。


 「えっ? ダメ……かな?」


 「いや……、可愛いとは思うけど……、なんていうか私の好みじゃないかな……」


 「そう? まぁ、他にもいいのがあるかもだもんね」


 「うっ、うん」


 ワンピースコーナーの方を見るふりをしてともちゃんから眼をそむける。


 ごめん、ともちゃん。私には無理だ。


 なんていうか、色々無理なんだ。


 とりあえず服を着替え直し、今度は何着か、気になる部分(腕とか脚とか)が目立たなさそうなワンピースを選んで試着室に持ち込む。


 そして結局、一番無難な感じなものを選んでしまった。


 いっ、いいんだっ! どうせ、まだ高校生っ。今は、まだ……。


 ふいに、自分の腕を肩の辺りから撫で下ろす。


 スポーツを止めたら、ちょっとはましになるのだろうか。

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