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考え事をしながら自転車に乗るのは危険なので止めましょう。
「ごっ、ごめんなさいっ!」
生まれて初めて人をひいてしまった。
「だっ、大丈夫ですっ! 私こそごめんなさいっ!」
いや、完全に私の所為だと思うんだけれども……。
喫茶店を出た後、まだ見ぬケーキ達への妄想を絶賛繰り広げながら、隣街の洋品店へ向かう最中、高速で突っ込んだ路地。「あぶないっ!」と、ともちゃんの悲鳴が聞こえた瞬間のことである。
もちろん咄嗟にブレーキはかけたのだが、当然スピードを殺しきることなど出来ず、そのまま運悪く前にいた通行人に突っ込んでしまった。
「あっれ~っ? なんで、いつも……」
何やら慌てながら半べそでぼやき続ける女の子。中学生くらいだろうか。ともちゃんと同じくらいの小柄さである。
「ほっ、本当に大丈夫?」
「あっ、ごめんなさいっ! 大丈夫ですっ! こういうの慣れてますんでっ!」
こちらの気遣いなどお構いなしにバタバタと大きく一礼をして、「本当にすみませんでしたっ!」と慌てて駈け出していってしまった。
え~と、まぁ、とりあえず元気そうでよかった。
しかし、いわゆるドジっ子というやつだろうか。あっ、こけた。
ちょっと遅れて、自転車から降りたともちゃんが駆け寄ってきて、
「えっと……、二人ともケガなかった?」
と、おろおろと心配そうにしている。
「えっと……、私はとりあえず大丈夫かな? あの子も、まぁ、大丈夫そうだったけど……」
「そっ……、そう? ならよかったけど……。もう、気をつけてね」
「うんっ! ありがとっ! よいっしょっと!」
特に痛いとこもないし、まぁ、大丈夫だろう。と、身体と自転車を起こそうとした時。
「あっ……、しっ……、しおちゃん……」
「んえ? どしたの? ともちゃん?」
何やら、様子のおかしいともちゃん。
「えっと……、あのね……、その……」
「えっ? なに? なにっ?」
何やら、おずおずと、軽く握られた手を所在なさそうにさせているともちゃん。
「えっとね……、その……、足なんだけれども……」
何やら、痛そうなものを見たように震える手で眼を覆いながら、私の脚を指差すともちゃん。
「脚? えっ? 別に何ともないけれども……。きゃあぁぁっ!」
自分の脚に眼をやると、めくれたスカートから腿が見えていて……。
ぱっくりと開いていたのだ。
それも両脚とも……。
それはもう、無残としか言いようのないくらいの大きな穴が……。
履いていたタイツに。
慌ててスカートで覆ってみたものの、穴は膝の下まで広がっていた。
これは、酷い。
まぁ、幸い乙女のやわ肌には一切傷はついていなかった。我ながら何とも頑丈な脚である。
いや、本当に悲しいくらいに頑丈な脚だなぁ……。
無意識に膝上から、何とも逞しい脚を撫で下ろし、ちょっと溜息。
「だ……、大丈夫? やっぱり、脚痛めちゃったんじゃない?」
それを見たともちゃんが心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「うっ、ううんっ! 大丈夫っ!」
いや、痛くて擦っていた訳じゃないんだけどなぁ……。
パンッと両腿を叩き、とりあえず元気アピール。
「そう? じゃあ、ほら立って」
と、私に手を差し伸べるともちゃん。
しかし、その手を敢えてスル―して……。
故意に眼の前にある、何ともか細い脚に手を伸ばす。
「ふえっ! えっ? な、なにっ? ちょっ、ちょっと、ね、ねぇ、ねぇったらっ!」
困惑しながら必死で私の手をどけようとするともちゃん。
何というか、どうして同じ高1女子でこうも違うものなんだろう。何か、ずるくない?
ていうか、こんなのもう人間の脚じゃないだろう。やっぱり妖精? 妖精なんじゃないのか?
非人間疑惑を掛けられながらも、私の手をはね除けるのに何とか成功するともちゃん。
ちっ。と、こっそり舌打ち。
それに気付かず、もう一度私に手を差し伸べるともちゃん。
「もうっ、ほら、ふざけてないで、起きてってば」
今度はちゃんと私の手を掴み、引っ張り上げようとするともちゃん。
しかし、ともちゃんの非力さではちょっと厳しいらしい。
小さな身体を思いっきり反らせて、顔を真っ赤にしながら私を掴む手に力を込め、さながら私の腕で綱引きをしているみたいな感じになっていたのだけれども、正直負ける気がしない。
まぁ、こんな小さな女の子には私の重さは支えられるはずもないのだが……。
……、私の重さ……。
いや、いいんだ。別に女の子に支えてもらえなくったって。
何やら、悲しくなってきた。
綱引きの試合には勝ったものの、女子力勝負では圧倒的な敗北を喫した瞬間だった。
結局、諦めて自力で自転車ごと立ち上がることになった。
さて、とりあえず随分と涼しくなってしまった脚をなんとかしなくてはいけない。
まぁ、幸い目的地は洋品店。そこの河を渡ればもうすぐである。




