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おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
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 ここはどこ? 私は誰?


 いや、そうじゃなくって、とりあえず、私は私だ。それでここは? まぁ、夢の中だろう。それはそうか。さっき眠ったばかりなのだから、間違いないはずである。ていうか、夢の中で目を覚ますとか、どういう状況だよ。


 それに、さっきの声は一体なんだろう? やけに可愛らしい声だったけど。


 「ちょっと。いい加減にしてよ」


 また、同じ声が聞こえた。


 やっぱり、私に話しかけているみたいだった。一体誰だろう? 寝転がったまま顔だけを声がする方に向ける。


 ちっちゃい膝が見えた。そしてそのまま目線を上げてみる。雪のようにまっ白な髪の、お人形さんみたいな子どもがちょこんと座っていた。


 まっ赤な、まるでお雛様のものみたいな着物に包まれた女の子。その肌は、その髪に負けないくらいにまっ白だった。


 顔はどう見ても幼児くらいに見える。それに何だろう? どこかで見たことがあるような気がする。


 でも、なんで白髪? 外見にあまりにミスマッチ過ぎるだろう。


 まぁ、可愛いからいいけど。


 「何? その眼。人でも攫らいそうな眼ね。あなたいつもそんな眼で女の子を見ているの?」


 急に酷いことを言われた。


 「いや、違うわよっ!」


 思いっきり否定した。私はそんな危ない人間じゃない。たぶん。


 「そう? まぁ、いいわ」


 無表情で冷やかに言われた。しかも、どこか何かを見透かしたような眼で。


 いや、確かに今朝の電車内でのことは痴漢まがいの行動だったかもしれないけど……。


 いやっ! いやいやっ、違う違う。あれはただのスキンシップ。そう、スキンシップ。決してやましい気持ちがあってのことなんかじゃないんだ。


 「よくないわよ! っていうかあなた誰っ? なんで夢の中で話しかけてくるのよ! そもそもなにこの夢? 私の部屋は? マンガは? ぬいぐるみは? どこいっちゃったの? っていうかなんで白髪? なに? えっ? 妄想? そっかぁ、妄想かぁ! でも、なんでまた女の子? そういう趣味はないんだけどなぁ。いや、可愛いものが好きなのは認めるけど……」


 つい、ありったけの言葉で質問攻めにしてしまった。


 「一人でよくしゃべるわね。ほんと、不審者みたい」


 呆れた眼を向けられた。いちいち癇に障るもの言いである。せっかく見た目は可愛らしいのに……。


 「というか、ほんとに、不審者だったわね。今朝だって電車で痴漢してたのだし」


 「ちっがぁーうっ!」


 前言撤回。ちょっとでも可愛いと思ってしまった自分が悔しくなった。私のときめきを返せ!


 「っていうか、だからっ! 質問に答えなさいよっ!」


 「なに怒ってるの?」


 「だからっ!」


 「ヒステリー?」


 「……!」


 「カルシウムが足りてないのね」


 「……」


 しゃべる気力もなくなってしまった。昼休みのときといい、今といい。今日はなんだっていうんだ。


 「……、部屋のものなら全部捨てといたわ」


 「なっ! えっ? うそ? 冗談でしょ?」


 「嘘よ」


 よかった。ちょっと、焦ってしまった。みんな無事なんだ。ほっと胸をなでおろす。


 「ちなみに、《私》は、あなたの変な妄想ではないから安心していいわ」


 いや、そんな心配はしてないから。まったく人を変質者みたいに扱いやがって。と、苛立ちが自分の女子力を奪っていることに気づき、ふいに我に返る。落ち着いて、再び沸き上がってきた怒りを無理やり鎮めた。


 「はぁ……、じゃあ、それで、だからあなたは誰なのよ?」


 「……」


 「なによ? 急に黙り込んじゃって」


 「……。本当にわからないの?」


 「えっ?」


 「……。そう。本当にどうしようもなく鈍感なのね」


 「ん? なに?」


 「いいえ。まぁ、いいわ。……、私は九十九神。そうね、座敷童の親戚とでも思ってくれたらいいわ」


 座敷童って、あの家に福を呼び込んでくれる可愛らしい妖怪のことか? こいつがそんな殊勝な存在なもんか! どっちかっていうなら、疫病神だろ。ていうか、九十九神って言ったっけ? えっと……、確かなんかのマンガで読んだような……。大切にされた物が魂を持つとかいうあれだっけ?


 「別に、あなたに大切にされたから出てきたって訳じゃないからね」


 淡々と言われた。


 ツンデレか! いや、実際は全くデレはないけど……。っていうか。


 「人の心を読むなぁっ!」


 「あら? 本当にそんなこと思ってたの? 自意識過剰ね」


 「ちっがーうっ! あぁっ、もうっ! それでっ! え~と、そう、なんで白髪なのよっ!」


 「……、そうね。たぶんあなたが中々気付いてくれなかったから、歳をとってしまったのよ」


 「そんな訳ないでしょっ!」


 「……、まぁ、何でもいいわ」

 

 「私がよくないのよっ!」


 ついむきになってしまったが、まぁこいつがなんで白髪かなんて実際のところどうでもいいのである。ていうか、本当にこいつは何なんだよ。あぁ、もう本当にイライラする。


 「あんまり怒りっぽいと女の子にモテないわよ」


 「うるさ~いっ! っていうか、私は女子だぁっ!」


 「ふうん。そう?」


 あからさまな疑いの眼で言われた。


 「だからぁっ! もうっ! なんなのよぉっ!」


 「あんまり怒ると肌に悪いわよ」


 「いいのよっ! 今日はちゃんとしっかり、いっぱい寝てるんだからっ!」


 但し、安眠出来ているかは定かではない。ていうか、全部こいつの所為だ。


 「そうね。でも……」


 何かを言いかけて、急に黙り込んだ。


 「でも? 何よ?」


 「……、いいの?」


 「何が?」と言いかけたところで、急に背筋が凍りついた。嫌な予感がしたのだ。慌てて身体を一気に跳ね上げ、携帯を充電器から取り外す。


 現在、6時。


 ただ焦って損をしただけだった。というか、何だって言うんだっ! 昨日といい、今日といいっ! あと30分はゆっくり寝られたっていうのに。


 でも、まぁよしとしよう。なんだかんだで、一応たっぷりは眠れたし、なにより昨日と違って遅刻の心配がある訳でもないし……。


 寝起きの不機嫌をちょっと大人な思考で抑え込むことに成功。とりあえず顔を洗うべく、躓かないように足もとの本を避けながら、フラフラとドアへと向かった。


 しかし、疲れは少し残っているようである。頭が全く冴えてこない。見事に安眠は妨げられていたようである。あの野郎。全く何だって言うんだ。




 一階に下りると、めずらしくママがいた。どうやらママの出勤より早く起きてしまったらしい。ちなみに普段、ママは私が起きる頃には朝ごはんとお弁当だけを残して会社へ旅立ってしまっている。つまり、私には真似出来ないくらいの早起きなので、ママと朝会えるのは休みの日くらいのものなのである。


 という訳で、寝ぼけ眼で挨拶をする。


 「ふあぁ~、ママ~、おはよぉ~」


 「あら? おはよう。めずらしいわね」


 しかし、相変わらず朝だって言うのに随分キリッとした声で話すなぁ。


 「うん……。何か変な夢見ちゃって、眼が覚めちゃった」


 「ふうん。そう。まぁ、せっかく早起きしたんだから、とっととご飯食べちゃいなさいね」


 「はぁい」


 と、とっとと洗顔だけをすまして食卓に座る。すでにご飯とお味噌汁、サラダと目玉焼きと朝食セット一式が用意されていた。「いたっだきま~す!」と食べ始める。そして少したったところで、テーブルの端のスペースが寂しいことに気がついた。


 いつも置いてある、教科書1・5冊大の箱がなかったのである。


 「あれ? ママ、お弁当は?」


 「えっ? 作ってないわよ」


 「えぇっ?」


 ママらしくないミスである。


 「まぁ、せっかく早起きしたんだから、必要なら自分で作りなさいね」


 「ちょっとっ!」と言いかけると、「じゃあっ!」とママは鞄一つ手に玄関に向かい、「いってきま~す!」と一言だけ残して、もう家の外である。


 なんというか、本当にサバサバとした人である。




 「必要ないわけないじゃん!」


 ぶつくさ言いながら、余りのサラダを詰め、甘焼きの卵を作り始める。


 まったく、二日も昼抜きとか、栄養失調になってしまうわ。と、改めて自分にダイエットの才能はないという事実を噛み締めながら、今度は使えそうな缶詰を探す。ツナ缶を発見。そそくさとマヨネーズを和え、サラダスペースに盛り付ける。


 全くもってマヨネーズは偉大である。こんな簡単に一品料理が出来てしまうなんて。


 そんな女子力の欠片もないことを考えながら、最後にご飯にふりかけを塗し、一応お弁当の完成である。


 久しぶりに作ったお弁当のあまりの出来栄えに、自分の将来に一抹の不安を感じ、今度ともちゃんに料理を教えてもらおうなんてことを心に決めようとしていると、現在7時。まぁ、ともかく身だしなみを整える時間である。流石にここだけは女子として外せない。


 そう、私は一応、花の女子高生なのだ。いい加減周りの視線だって気にしないと。

そうこうしている内に、現在7時40分。もう出発の時間である。今日はしっかり鞄にお弁当を詰め込み、それから家を出る。


 のんびり歩いても、余裕で駅へ到着。ホームで電車を待っていると、携帯にメールが来ているのを確認。おや? ともちゃんからだ。


 「お昼は大丈夫だった? あんまり無理しちゃダメだよ。それと明日、もしよかったらお買いもの一緒に行かない? せっかくだからおいしいものでも食べに行こうよ」


 なんて文面が、可愛らしい絵文字に囲まれて書かれていた。流石ともちゃんである。


 もちろんOK! と、久しぶりのデートのお誘いに意気揚々と返信をしようと思ったところ、もう電車がホームに入ってきていた。すぐにいつものドアが開く。


 まぁ、直接話しても同じか。ごめん。ともちゃん。


 電車に乗り込み、人ごみの中、親友の姿を探す。


 が、見つからない。


 ん?


 もう一度辺りをキョロキョロと探す。


 だが、やっぱり見つからない。


 いくらともちゃんがちっちゃいからって、流石にこのくらいの混雑で姿が見えなくなるなんてことはないはずである。それにまして遅刻なんてありえない。私じゃあるまいし。どんどん挙動不審になっていく私がいた。


 ともちゃん?


 あまりに心配になり、とりあえずメールを送ることにした。そして携帯を開くと、在らぬ文字を発見。


 Sat。


 Saturday。


 土曜日。


 そうか……、そういえば、そんな話はどこかにあったよね。確か昨日、時間割を確認した辺りで……。


 とりあえず、ともちゃんに返信をしようと先程のメールを開く。よくよく見れば、受信日時が昨日の5時だった。そっか……。つまり、あのメールは今日のことで……。


 って、今日っ!


 そう気付いた瞬間、慌ててメールを打つ。


 「ごめーんっ! メール今気づいたぁ! えっとぉ、お買い物だけど、まだ間に合うかなぁ?」


 文面を絵文字で飾りつけ、送信。


 すぐに返信が来た。


 「うん。間に合うよ~。待ち合わせどこにしよう?」


 キラキラなデコメだった。


 よかった。ひとまず安心である。


 「じゃあ、12時に迎えに行くね! ともちゃん家に!」


 キラキラなデコメで返信した。


 現在8時20分。


 あぁ、なんか疲れてしまった。


 さて、次の駅は、いつもの乗り換えの駅。


 せっかく出てきてしまったのだから、とりあえず、ちょっと寄り道でもしていこう。


 でも、このお弁当どうしよう……。

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