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おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
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 子どもの頃の自分の姿なんて、そうそう思い出すものでもない。ましてや私は過去の写真をなるべく見ないようにして生きてきたのだ。そもそも自分の記憶から抹消するために。だから、あの写真を見るまで完全に忘却していた。


 あの女の子らしく、可愛くなりたいと思っていた瞬間の私の写真。


 「ええ……。あんたは、まぁ、その、私にも女の子らしい一面があったとか、そんなことを伝えるために出て来てくれたってことなのよね?」


 私の最近の悩み。


 クラスの男子から男子扱いされる程、女子力の足りない自分。


 友達はどんどん女の子らしくなっていくのに、今だ昔と変わらずに女子らしくなりきれていない自分。


 でも、確かにあのときは、女の子らしくなりたいって思っていた。あのどうしようもなく黒歴史だったはずの幼稚園時代の、あの瞬間だけは。


 「……、そうね」


 「そう……」


 やっぱり、そういうことらしい。そういえばこいつ、終始悪態を吐き続けていたが、よくよく考えるとそれもだいたい私の女子力のことばかりだったような気がする。まぁ、今となっては割とどうでもいいけど。それより。


 「ねぇ、それで、あんたの使命って果たせちゃったのよね? じゃあ……」


 「ええ、使命が果たせたら消える。私も九十九神だからそうなるわ」


 当然のように無感動に答えられた。なんか締まらないな。まぁ、でも。


 「えっと……、ありがとうね。でも、もう大丈夫だから。ちゃんと思い出したし、たぶん、もう忘れないから」


 やっぱりここはお礼なんだろう。もう一人の九十九神には言えなかったけれども。この子にはちゃんと今言えるのだから。


 「そうね。まぁ、でも、もうそれは心配ないわよね」


 「ええ……」


 これだけしっかり思い出したんだ。たぶん、もうあの写真だってもう失くさないだろうし。なんの心配もないだろう。


 「だって、今はあなたのことをちゃんと女の子だって見てくれる男の子もいるものね」


 そうそう、あいつだって……。ってっ!


 「い、いやっ、そう言う意味じゃないし。だいたい、あいつはそんなんじゃ――」


 必死で否定の言葉を言い繋ぐ。ていうか、なぜ今あいつの話? いや、昨日のことは、まぁ、そんなことも確かにあったけれども……。


 「ふふふ。それじゃあ、またね」


 笑うんじゃないわよっ! って、え? 今笑ってた?


 ずっと無表情を通していたあの九十九神が一瞬笑ったような気がした。しかし、よく確認しようにも視界が暗闇に覆われてしまい、よく見えない。ん? 暗闇? って、あれ?




 瞼を開くと、先ほどと変わらず、見慣れた天井が視界を覆っていた。


 ここは……?


 上体を起こそうと、腹筋に力を入れる。当然、何の抵抗もなく上半身が持ち上がり、眼に入ってくるものは、いつもの散らかりきった私の部屋だった。


 さっきのは、夢?


 たぶん、そうだろう。さっきまで布団の中で眠っていたはずなのだから。


 っていうか、今何時だ?


 ……、何だ、まだ6時か……。


 何だか、すっかり眼が覚めてしまった。疲れがない訳じゃないけれども、でも、二度寝をする気分にもならない。


 う~ん? とりあえず、顔でも洗ってこようかな?


 掛け布団から身体を引っ張り出し、ベッドから脚を降ろす。すると、何かが当たり、パタンと音を立てて倒れた。


 何だろう?


 ……、あ……。


 大きなハードカバーの本。


 昨日、部屋をひっくり返して、ようやく探し当てた、あの卒園アルバムである。


 ……、こんな無造作に床に置いとくものじゃないかな……。


 手に取り、一旦、勉強机の上に載せる。


 開いたら、眩しいくらいの園児達の笑顔がたくさんあるだろう。


 もちろん、私の最高の笑顔も。


 でも、今は開かずに一階へ向かう。


 今は、今日の身だしなみの方が大事だからである。こんなメデューサヘアーでは、学校になんか行けやしない。


 鏡を覗きこめば、ほら、見事な無重力。やっぱり、私に長髪は向かないのかもしれない。どんだけ癖っ毛なんだよ。昔は気にならなかったんだけどな。いつから……。


 って、昔は男子ばりの短髪だったか。それは気付くはずもない。


 しかし、随分伸びたよな……。これならもう、間違いなく、名実ともに女子だろう。


 まぁ、子どもの頃だって、ちゃんと女子していたこともあったみたいだけれども。


 ……、九十九神か……。


 本当に、ただの夢だったんだろうか? 確か《ただの夢じゃない》とか言っていたような……。


 いや、でもそれも夢の中の話か。


 そういえば、座敷童の親戚だとかとも言ってたっけ。


 座敷童は福を呼び込むって言うけど。まぁ、確かに、思い出して嬉しいことではあったか……。


 タタッ。ガチャッ。


 ふぇっ? なにっ! 今の音?


 玄関の方である。一体何が? まさか、さっきの子?


 慌てて洗面所を飛び出し、玄関に向かうが、誰もいない。


 え~と、……、いや、ママか。


 そういえば、ママの出勤時刻はいつもこのくらいである。私は大抵、いつもこの時間には起きていないので、普段会うことはないのだが。


 キッチンを覗くと朝ごはんが用意されている。ちなみに、お弁当箱もちゃんと置いてあった。なんの変哲もない、いつもの我が家である。


 でも、なにも変わっていないけれども……。


 まぁ、良い夢を見たってことなんだろう。


 そして、たぶん、もう私は卒園アルバムを燃やそうなんて思わない。


 夢でも、もう、すでに忘れられない記憶になっている。


 たまには、写真が見られるように机の上にでもしまっておこうか。

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