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おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
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28


 「……、なに?」


 つい会話を遮ってしまった。相変わらずの無表情であるが、微妙に不機嫌な反応である。


 「あっ、いや、えっとね……、アルバム、一応、見つかったんだけどさ……」


 そう、まずは仮面の九十九神のことを確認しなければならない。あんなに頑張ったんだからせめて結果くらいは知らなければ。


 「ええ、そうみたいね」


 「うん……。でさぁ、あの仮面の九十九神なんだけれども」


 「もう、ここにはいないわよ」


 「う……、そ、そうなんだ……」


 もういない。ということは、やっぱり私は間に合わなかったのか。それはそうである。もう、あんなに消えかけていたのだ。私の所為で……。


 なんで、どうしてもっと真剣に考えられなかったんだろう。


 終わってからこんなこと思ったって仕方がないのは分かっている。でも、他にも方法だってあったはずなんだ。別に自分のアルバムでなくても、他の知り合いの子に見せてもらうとかなら出来たはずなのに。もっと早くから動いてさえいれば。


 でも、一切思いつかなかった。いや、考えようともしなかったんだ。


 たかだか夢だなんて思っていたから。


 「今更後悔しても意味がないわ。だって……」


 「う、うるさい」


 そんなことは分かっている。でも、分かっているからこそ悔しいんだ。あまりにバカだった自分が許せなくなる。


 だって、たかだか夢なんかじゃなかったはずなんだ。だって、あの思い出は私にとって大切なものだったんじゃないか。それだったらあの九十九神が伝えようとしたことだって……。


 「だって、彼はちゃんと伝えられたじゃない」


 それなのに……。


 「……、はい?」


 急に言われたことに頭がついて行かず、聞き返してしまった。なに? 伝えられた?


 「だから、彼はちゃんとあなたに伝えられたって言ったのよ」


 「い、いや、私は何も伝えられてないし」


 私は間に合わずに、あの九十九神は消えてしまった。今はそういう状況なはずだろう。伝えられたことなんて何もないはずである。


 「いえ。あなたは彼の伝えたかったことをもう知っている。だから、彼は消えたのよ」


 「そんなこと言ったって……。あ……」


 ふいに一つの答えが過った。


 そっか、そういうことか。


 そうだ。あの九十九神は、他でもないあの園長先生の姿をして現れたのである。じゃあ、あの園長先生が私に伝えたかったことは? あのアルバムには何が写っていた?


 幼稚園時代は私の黒歴史だと思っていた。


 だって何を思い出すにも、あの超短髪の姿を衆目にさらし続けていたということばかりが頭から離れなかったのである。


 でも、でも……。


 当時はそんなこと考えていなかった。


 運動会のマラソンで一等をとった瞬間や、遠足で公園の遊具の頂上まで登ったときや、お泊まり会で教室にみんなで眠った夜。


 あの少年みたいな女の子はいつだって……。


 最高の笑顔をしていた。


 そう、あのアルバムに写っているのは最高に楽しかった思い出なのである。


 いっつも大きなカメラで私たちを写してくれていた園長先生。


 園児たちが飛びついてもいやな顔一つせず、いつも優しく接してくれていた。そんな先生の眼に映っていたものが、この写真なのである。


 誰も彼もが満面の笑顔で写っている写真。


 黒歴史なんかじゃなかった。ましてや燃やしてしまっていいようなものでもなかった。


 きっと、そういうことを伝えようとしていたのだ。


 大切なものを依代にして現れる。私の卒園アルバムの九十九神。


 いや、というより、あれは先生自身の幽霊とかだったんじゃないだろうか。


 そう言えば、先生の屋敷の裏にいた何かだって……。だって、あそこにお墓もあった訳だし……。


 まぁ、今となっては確かめようがない。というか、それはそもそも怖すぎて確かめる気が起きない。


 ともかく、そんな風に、他でもないあの先生の姿で私のところに現れたのだ。あの九十九神は。


 私があのアルバムを燃やしてしまったりしないように。


 私が大切なものを失ってしまったりしないように。


 「……、ようやくわかったのかしら?」


 「……、ええ、たぶん……。そういうことなのよね。うん」


 「……、なら、よかったじゃない。ハッピーエンドってやつね。おめでとう」


 ハッピーエンド? いや、微妙に釈然としないけど、まぁ、この件は終わりでいいのかもしれない。でも、それはそうとしても。


 「……、ねぇ」


 「……、何かしら?」


 じゃあ、こいつはなんだっていうんだ? この《幼稚園児》の姿をした九十九神は。


 「いや、あなたも九十九神なんでしょ?」


 「……、ええ」


 だったら、こいつにも使命だかなんだかがあるはずである。


 「なら、あなたも私に何かを伝えてくれるんじゃないの?」


 そう言いつつ、まぁ、だいたい察しは付いているのである。ここ最近、もとい、今まで私がずっと気にしてきたことは? そもそもこいつは《誰》の姿をしている?


 「……」


 しかし、相変わらずの無表情でだんまりを決め込み、ただこちらを見つめているだけだった。


 「ねぇ――」


 しかし、まぁ、自分で言うのは気恥ずかしい。だって、


 「そこの《私》の姿をした九十九神さん」


 そう、こいつはあの、昨日見つけた写真の私の姿そのものなのである。


 「……、ようやくわかってくれたのかしら?」

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