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おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
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 それは、一度も見たことはなかった写真。


 でも確かに、ちゃんと思い出せる場面。


 そっか。そうだったんだ。


 そもそも、アルバムですらちゃんと全部見たことがなかったのである。だって、ここにはただただ見たくないページが山のようにあると思い込んでいたから。


 あの頃の私は女の子ではなかった。男の子みたいな恰好をして、男の子みたいな遊びをして、男の子の中に混ざっているのが自然というくらいの日常を送っていた私。


 でも、そんな証拠ばかりが晒されているはずの、この幼稚園時代の写真の中に一枚、そうたった一枚だけだが、確かにあったのである。


 現れたのはクラス演劇のときの写真。


 写っているのは可愛らしいかぐや姫の仮装をしている女の子たち。真っ白なおしろいを顔につけ、可愛らしい真っ赤な着物に身を包んでいる。


 しかし、その中に私はいない。


 ともちゃんはいるが、私はいないのである。


 そう。嫌だったんだ。あのとき……。


 「やだぁっ! 私も可愛くしたいっ!」


 「う~ん。でも、もう発表明日だし……。今からじゃ、役は代えられないのよ」


 「でもぉ、でも、やだぁっ! ああぁああああああっ!」


 「ああ、もう。どうしようかしら?」


 散々泣きじゃくって、先生を困らせたのである。


 クラスの劇の題目はかぐや姫。


 で、殆んどの女の子はみんなお姫様の役をやることになった(しかし、総勢13人のかぐや姫とは、とんだキャストもあったものである)。


 でも、この劇にはもう一つ大切な女の子のやる役があった。


 そう、お婆さん役である。


 でも、普通の女の子だったら誰もやりたがるはずがないじゃないか。敢えて「私お婆ちゃんやるっ!」なんて言う物好きなんている訳がない。


 だが、このクラスにはいたのである。そんな物好きが。


 そしてその物好きは先生の「詩織ちゃん。本当にお婆ちゃん役でいいの?」という制止も聞かずに、「だって、こっちの方が主役っぽいもんっ!」などと訳のわからないことを言いやがったのである。いや、訳はちゃんとわかっているんだけれども……。ほら。


 かぐやひめ  ふるはた ともみ ……(以下12人)

 おばあさん  やい しおり

 おじいさん  ……(男の子達の名前がちらほら)


 ね。なんか、かぐや姫の方がその他大勢って感じがするでしょ?


 そんな訳で意気揚々と《主役》に手を挙げたのである。


 もちろん本番までしっかり練習もしたし、正直当時にしては迫真の演技を出来るようになっていたと思う。


 だが、本番前日の衣装合わせでそれは起きた。


 周りのかぐや姫達が可愛らしい着物を纏う中、私に用意されたのはご丁寧につぎはぎまで再現された随分リアルなお婆ちゃんの着物であった(正直、今となっても流石に酷い衣装だったとは思う)。


 もちろん当時は先生の都合なんて考えるはずもないので、「私もあの服じゃなきゃ、劇でないっ!」などと迷惑極まりないことを宣ったのだ。


 で、本番当日。どうやって用意したのか、私にもみんなと同じ衣装が手渡された。


 そんな風にして散々先生を困らせた挙句、かぐや姫とお揃いの真っ赤な着物を纏い(但し、白髪の鬘だけは被らされた)、真っ白なおしろいを顔につけたとんでもない若作り(いや、実際若いのだが)のお婆ちゃんが出来上がってしまったのである。


 なんて迷惑な園児だろう。でも……。


 「そっか……」


 女の子じゃなかった私。まるで少年にしか見えなかった私。男の子みたいな遊び方しかしなかった私。自分がどう見えているかに一切気を使うことのなかった私……。


 でも、そんな私でも、確かにそのときは可愛く、《女の子らしく》なりたかったのである。


 普通に、当然に、全くあたりまえに。


 普段はやんちゃな少年みたいだった私。


 そんな私の幼稚園児時代の消せない証拠だったはずの卒園アルバム。


 もう一度ベッドの上へ、今度は仰向けに倒れ込む。


 正直、もう身体も心もすっかり疲れ切っていた。


 しかし、頭は不思議とすっきりとしており、何も考えずにぼんやりと天井を見つめる。


 しばらくすると、ふいな眠気に苛まれ、大きな欠伸に続いて目から涙が滲む。


 現在、13時。ダメだ。もう寝ないと……。




 ……、あ……。


 そういえば、私はちゃんと間に合ったんだろうか?


 半分は諦めていたし、そもそも所詮夢の中の話ではあった。


 でも、出来るなら間に合っていて欲しい。


 だって、あの九十九神は言ったのである。


 「君に伝えなければならないことがある」


 そして、それが出来ないと私に謝ったのだ。決して自分が消えてしまうことが嫌だとか、そんなことは一度も言わずに。


 ただ「申し訳ない」とだけ。


 本当に、出来るのなら……。


 それに劇の写真。あれは……。……。

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