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おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
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25

 「あぁっ! あったぁ!」


 こんなところに隠れていたのか。それは部屋の中をいくらひっくり返したって見つからないはずである。


 いや待て。


 ちょっと落ち着こう。もう一度カバーの文字をちゃんと確認してみる。だって、よく見たら他の本だったでは洒落にならないじゃないか。何か、今日の私だったらやりかねない気がする。


 うん……。よし。


 間違いない。正真正銘、私の卒園アルバムだ。


 「あぁ~っ、あったよっ! ちゃんとあったじゃんかぁっ! もうっ!」


 よかったぁ! ホントよかったぁ!


 現在12時20分。


 随分と時間がかかってしまったが、ようやく目的達成である。いや、それはこのアルバムをちゃんと読んでからか。あの園長先生の顔を確認しなくては。


 しかし、やっぱりあまり気が進むものではない。だって中にはあの写真が……。


 そう、昨日ともちゃん家で見てしまった私の子どもの頃の姿。短髪の、どこからどう見ても男の子にしか見えないあの写真である。


 あ~、どうしよう? 見たくないなぁ……。


 一煩り部屋の中を右往左往して、とりあえずベッドの上に辿り着くも、やっぱり落ち着かず頭や身体を捩らせる。


 いやいやっ! だからって、ここまで来たら見ない訳にはいかない。


 どうしても思い出せない、優しかった園長先生の顔。


 なくなってしまった大切なはずの記憶。


 今見ないでどうするっ! と意を決してページを開く。


 「うわぁ……」


 適当に開いたはずのページのど真ん中。颯爽とテープを切ってゴールに飛び込む少年、もとい私の姿があった。


 最初っからこれかよっ! やる気は萎える一方である。


 や、やっぱりやめようかな?


 いやいやいやっ! 落ち着けっ、落ち着こうっ! ここまで来て諦めたら、それこそ文字通り夢見が悪くなるだろう。それに、たとえもう間に合わないとしても、頼まれたんだから最後までやりきらなくちゃ。


 アルバムを閉じかけた手を何とか止め、恐る恐るページをめくる。


 「あ……、うぅ……」


 しかし、めくれどめくれど目的の写真には辿りつけず、代わりに嫌味なくらいスポーツ刈りの少年、もとい私の姿が現れるばかりであった。っていうか、なんでことごとく写真のど真ん中でピースなんか決めてるんだよ私は。


 いや、確かに園長先生がカメラを構えて「はいチーズ」なんていうと、いちいち嬉しくなって思いっきりピースを決めていたような記憶はあるのだけれども。


 ん? まてよ……。


 園長先生が写真を撮っていたってことは、本人は写ってないってことじゃあ……?


 えっ? ちょっとまてっ! せっかくこんなに探しまわったのに、それじゃあ意味ないじゃんっ! うそっ! マジでっ? あぁっ!


 テンパったあまりふいにアルバムが手からするりと抜け落ちた。辛うじてクッションになったベッドが、そのスプリングの反発力でアルバムを大きく宙に浮かせる。


 そして、その拍子にバサッとアルバムが見開き、はらりと何か封筒のようなものが落ちた。


 一体何だろう?


 「あっ!」


 アルバムの先の方に落ちたそれに手を伸ばしかけたところで、見開いたページの方に目がいった。当然である。だって、このページは……。


 先生達の紹介ページである。よく考えるまでもなく、卒園アルバムなのだからあって然るべきものだろう。いや、さっき変な勘違いはしていたけど。


 下から順に、体育の先生、各クラスの先生達ときて、そしてあった。


 園長先生だ。


 口の上に上品に整えられた白い髭を蓄え、優しく眼を細めた表情でこちらを見つめている写真。


 そうだ。この眼だ。


 蘇る記憶の中の場面。イベントごとで嬉しくなってはしゃぎ回っていると決まってこんな表情でやってきては、「はいチーズ」なんて言いながらファインダーを覗いていた。


 そう、まるで自分の孫でも見るような、こんな優しそうな眼で。


 完全に思い出した。そして、それに……。


 この人は、そんな眼で私たちを見つめながら、この写真を残してくれていたのである。


 まぁ、そうして残った私の写真があんな感じのものしかないのは、少し残念なところなのだが。

でも、こんなことを思い出すと燃やすに燃やせなくなってしまうじゃないか。


 だって、見た目はどうだったのであれ、どの写真を見ても……。


 どの子も、最高の笑顔で写っているのである。


 そう、この人はいつだって、そういう私達が一番楽しんでいた瞬間にカメラを構えていたんだ。

しかも、ここにあるよりいっぱいの写真を、この先生は間違いなく写していた。きっとその中でも、表情の一番いいものをここに載せていたのだろう。


 最高の思い出の詰まったアルバムにするために。


 今となっては黒歴史にしか見えなかった写真も、当時は私が眩しいくらいに輝いていた瞬間だったのである。


 そう思うと少しだけ、見るのも嫌だったはずの写真がいとおしく思えてくるから不思議なものである。


 何だかんだと言いつつも、結局最後までしっかりアルバムを見終えたところで、現在12時40分。


 ようやく当初の目的を果たし終えたが、もう完全に身体は就寝モードに入っていた。


 ベッドの脇にアルバムを立て掛け、マットレスの上に倒れこむ。明日の用意もちゃんと出来ていないが、まぁ起きてからでもいいか。


 そんなことを思いながら一度寝返りをうつと、何かが鼻先に当たった。


 何だ?


 近すぎて焦点が合わない。手に取って顔から遠ざける。紙?


 ようやく焦点が合うと、眼に映ったのはさっきアルバムから落ちた封筒だった。


 でも、これ何だろう?


 今まで一度も見たことがなかったものである。いや、多分こんなことがなければ恐らく一生見ることなどなかったものだろうけど。


 ベッドに寝転がった姿勢のまま無造作に封を開く。手紙かな?


 「あ……」


 そして、その一枚は現れた。

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