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おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
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18


 正直なところ、もう泣きそうになっていた。


 携帯がお亡くなりになっていただけでも最悪なのに、何で私が置石の犯人扱いなんて……。


 いやっ、でもわざとじゃないしっ。でも、こういうのって罪にとわれるのかなぁ? やっぱり罰金とか……。


 あぁっ、どうしよおぉっ!


 さっき携帯も探されてたし、警察、家とかにくるかなぁ? あぁっ! やっぱり自首? でも、でもぉ……。本当にわざとじゃなかったんだもん。


 完全に思考が堂々巡りになっている。



 割と普段はポジティブシンキングなつもりなのだが、正直こういうシチュエーションはすっごく苦手なのである。


 まぁ、得意な人もそうはいないだろうけど……。


 とりあえず、すぐに逃げ去ったものの、まだ家に帰ることはおろか、現場近くから離れられずにいた。


 気持ちが悪いと言うか、居心地が悪いと言うか、気が晴れないと言うか……。どうにも気持ちの落ち着くところが見つけられない。


 あぁ、もうダメだ。


 いやっ、ダメだっ!


 ダメだ、ダメだ、ダメだっ! っていうか、全然ダメじゃないっ!


 そうだよっ! だいたいこんなの全然柄じゃないしっ!


 そもそも気にしたって仕様がない。だってなるようにしかならないし、なるようになったってわざとじゃないって言うしかないじゃないか。


 うんっ! きっと大丈夫っ! もう大丈夫ってことにしよう……。


 よっしっ!


 こういう気持ちの切り替えの早さは私の一番の長所だと思う。ただ勢いだけで生きているとも言うのかもしれないのだが、まぁ、それは置いといて……。


 そう考えたら何か落ち着いてきた。っていうか何かお腹も減ってきたし。気付けばもうとっくに12時を回っている。


 ぐぅ。


 ……、どこかお店にでもいこうか。


 あまりに正直すぎるお腹からの要望に答えるべく、とりあえず近場のお店を探す。


 あ……。


 偶然、昨日の喫茶店の前を通りかかった。まぁ、この近所をぐるぐる回っていたのだから、どちらかって言うと当然かもしれない。


 それでもって必然的に目に入る文字。


 ランチ時、ケーキ10%引き!


 うん。行くしかないな。


 ちなみにこういうテンションが下がりまくっているとき、みんなはどうやって気持ちを入れ換えているんだろう。私の場合は何にもまして食に走ってしまう。特に甘いもの。ケーキなんて最高の癒しである。カロリー? 

私、何のことかわかんない。


 もはや食虫植物の香りに誘われた蝶のごとくお店に吸い込まれていく。この誘惑に打ち勝つ術なんてあるはずもなかった。


 薄暗い店内には窓側の席で談笑している主婦二人と、カウンターを陣取って本に読みふける少し歳のいった感じの男性一人がいるだけだった。どうやら人の入りが少ないのは常日頃のようである。


 とりあえず、なんとなくだが昨日と同じ席に陣取る。


 それで何を頼むかだが……。


 まぁ、ティラミスは絶対だな。今日は満足がいくまでちゃんと堪能しよう。


 う~ん、でももう一つは……? どうしよう? とりあえずクリーム系はパスかなぁ? ティラミスとちょっと被っちゃうし。同じ理由でチョコもパス。そうするともう一個はパイ系か。よっしっ、じゃあ今日はスタンダードにアップルパイでいこうっ!


 そうと決まれば注文、注文。え~と、マスターは……?


 あっ、いた。


 相も変わらず、カウンターの向こう側でコップ磨きに夢中になっている。


 「すみませ~ん。注文いいですか?」


 「ん? ああ、いらっしゃい。注文ね。何にします?」


 ようやくここで私に気付いたみたいだった。


 「えっとぉ、ティラミスとアップルパイ……」


 「はい。ティラミスとアップルパイね」


 「ん~っ! おいしいっ! やっぱりここはチーズケーキが一番おいしいわねっ!」


 ん? なに?


 急に二人組の主婦の一人が唸り声を上げたのである。しかし、そっか……。


 「チーズケーキ……」


 確かにそんな選択肢もあったよね。すっかり忘れてた。う~ん。それもいいかもしれない。ここはアップルパイじゃなくって、やっぱりチーズケーキにしておこうかな。


 「ん? チーズケーキもね。ちょっと待っててね」


 「ええ……」


 そうそう、チーズケーキ……。


 ってっ! そうじゃなくってっ!


 「あぁっ!」


 ふいに自分がチーズケーキの注文をしたみたいに声を出していたことに気付き、慌てて取り消そうとする。が、既にマスターは厨房の奥へ消えていた。


 しまった。


 慌てて財布の中を確認する。え~と、野口さんが1枚、2枚……、昨日のケーキが360円だったから……、うん。とりあえず足りるか。


 しかし、ケーキ三個かぁ。まぁ食べられるけど、カロリーが……。


 はぁ……。ま、いっか。


 どうせやけ食いするつもりで来たんだから、ケーキが2個だろうが、3個だろうが関係ないし。


 「はぁ……」


 席に着くと溜息が出てしまった。警察云々、ケーキの注文ミスなんかはともかくとしても、そもそも携帯電話がないということ自体が大問題なのである。つまり、電話帳のデータが全てなくなってしまったということなのだ。


 とりあえず、高校の分は直接聞いて回ればいいだろう。でも中学以前のは……。ある程度はともちゃんに聞けばなんとかなるだろうけど、それにも限界があるはずだし……。う~ん、困った。


 実は、割とことあるごとに色んな子とメアドの交換をしていたのだ。まぁ、一度もちゃんと連絡したことのない子もいるくらいなのだが、その数たるや、正直、自分でも把握しきれていないくらいの人数になっていたのである。


 実害はそんなにないかもしれないけど、だからといってたまにメールが来たら誰だかわかりませんなんて事態はなるべく避けたい(だって、なんかやな感じじゃん)。


 でも、誰と交換しているのかもわからないものをどうやって修復しろっていうんだよぉっ!


 「はぁ……」


 ダメだ。また一つ幸せが逃げていく。


 まぁ、いくら考えたって仕方がない。うんっ! なんとかなるっ! なんとかなるさっ! さて、何より今はケーキ、ケーキっ! こういう沈みかかったときは楽しいことを考えての気分転換に限る。う~ん、アップルパイ、ティラミス、ついでにチーズケーキも……。


 「はい。お待たせ」


 きたぁっ!


 完全にネガティブな思考が吹き飛び、頭の中がケーキ一色に染まる。我ながらなんて単純な思考回路だろう。だけどそれでいいっ! それが私のいいところなんだから!


 さてと。当然、自然とケーキに眼が行く。


 お水が1つ、ケーキが1つ、2つ、3つ、そして……。


 「え……?」


 「ん? 君のだよね」


 「えっと……、そのぉ……」


 いや、なんというか……、そんな注文はしていないんですが……。


 「ん? 君のじゃなかったかな? 確か昨日もここに座ってたよね?」


 「……、はい。たぶん私のです」


 「ならよかった。それじゃあ、ごゆっくり」


 そう言ってカウンターへ戻っていくマスター。そうして再びコップ磨きに戻っていく。


 っていうか、な――ん――だ――よ――っ!


 普通にあったじゃんっ! こんなところにっ!


 発見と同時に記憶が蘇ってくる。そう、確かに昨日ここでワンピースの画像を検索していたのである。


 私の携帯……。


 「はぁ……」


 決して吐きたかった訳ではないのだが、本日三度目の溜息。さて、どんな幸せが逃げて行ったものやら。っていうか、ケーキ3つか。もはややけ食いですらないのに。


 「はぁ……」


 ついに本日四度目の溜息。いい加減吐き過ぎでお腹いっぱいである。はいはい、ごちそうさまです。

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