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「……、考え事しながら乗ってたんじゃないの? ちゃんと前見てた? 全く、怪我人がなかったからまだよかったけど、普通こんなところにつっとったりしないよ」
事故である。
白いガードレールが見事にひしゃげており、乗っていた車両はそこから数メートル先まで吹き飛んでいた。
駆けつけた警察官が現場を検証し、とりあえず怪我人がいないことを確認してからお小言を始める。まぁ、よくこれだけの状況で無事だったものである。
いや、私がやったんじゃないからね。
昨日、自転車で転んだ路地。
たぶん携帯はともちゃん家にあるだろうけれども、それでもやっぱり気になって現場を見に来たのである。
しかし、バイク事故かぁ。危ないなぁ。うん。私はバイクには一生乗らないようにしよう。何せ自転車でも事故るくらいだしなぁ。
「いや違うんですっ! 前輪が……、そう、落ちてた携帯みたいなものを踏んで、それでバランスが……」
ん?
「はいはい、言い訳はいいから。とりあえず自損事故だね。ほら、免許出して」
えっ? 今なんて言った?
「いやっ! 言い訳じゃなくって本当に踏んだんですってばっ! 何なら調べて見てくださいよ。転んだとき、その携帯、バラバラになりながらあっちの方に飛んでいったんですから」
いやいやいやいやっ! ちょっ、ちょっと待って!
えっ? どういうこと? え~と? 踏んでバランス崩して自損事故? 吹き飛んであっちの方に行ってバラバラ?
いやっ、落ち着けっ!
とりあえず、そこに携帯が落ちてて、それが原因でバイクが事故して……。
ダメだ……。どう考えてもバッドなエンドしか考えられない。
いやっ、落ち着けっ!
そもそも私の携帯じゃない可能性だってあるじゃないかっ! そうだよっ! きっと私のはともちゃんの部屋にあるんだからっ! うんっ! そうだよっ! 考え過ぎだよっ! 考え過ぎっ! ははははは、何事も悲観的に考え過ぎちゃダメだもんね。うんっ!
たとえ私が昨日ちょうどこの場所で転んでいて、たとえ私が昨日携帯電話を失くしていて、たとえ今日ちょうどこの場所で携帯電話が原因の交通事故が起こっていたからって……。
ダメだ……。状況証拠が揃い過ぎている……。
いやっ、落ち着けっ!
たとえ、バラバラになって飛んで行ったって言っても、データだけなら無事な可能性もある訳だし……。
え~と、とりあえずどっちに飛んで行ったって言ってたっけ? うんっ! あっちか。それで、あっちは……。うんっ! 川だっ! よかった~。川なら落ちても衝撃が和らいで……。
って、そんな訳あるかぁっ! マジ電子機器なめちゃダメだし。
もうダメだ。ホントに絶望しか見えない。
「……、っていうか、これって全部自己責任なんですか?」
「まぁ、まずそうなるね」
「でも、道路に携帯電話を放置してたのにも責任ってあるんじゃないですかっ!」
ん? 何言って……。
「まぁ、置石みたいなものだから、状況によっては罪にならなくもないんだけどね……」
はぁっ? ウソっ! 何それっ! そんなの私の所為じゃないしっ!
「とりあえず、まぁ、それはそれ。これはこれ。いずれにしても前方不注意なのは間違いないから。そっちは後で調べておくから……」
ちょちょちょちょっ、ちょっと待ってっ! えっ! マジっ? そんなの知らないしっ!
っていうか、私はただの被害者じゃんっ! ただの被害者だよねぇ?
「いやっ、だったら最初にそっちを調べて下さいよっ! もしかしたら犯人もまだ近くにいるかもしれないですし……」
「はいはい。わかったから。とりあえず、落ち着いて。え~、確かあっちの方に飛んだって言ってたっけ?」
えっ? ちょっと待って! いつのまにか携帯を放置した犯人探しみたいになってないか?
っていうか、私がここにいたら不味いんじゃないの? いや、どう考えても私のせいじゃないと思うけど。
でも、冤罪だってある訳だし。
いやっ、それでも私はやってないっ!
でも、今の感じだと犯人が現場に戻ってきて状況を観察しているようにしか見えないんじゃあ……。
……、うん。逃げよう。
幸い二人とも河の中の携帯探しに夢中である。この隙なら気付かれずに行けるだろう。
そっと反対方向へと自転車を漕ぎだす。
微妙に罪悪感は感じるものの、でも、ねぇ、だって、私悪くないもん。
ねぇ、私悪くないよね。ねぇ。




