表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
16/31

15

 「あれぇっ! うそぉっ!」


 ないっ!


 おかしい。ベッドに腰掛け、無意識に手を伸ばした先。本来ならそこにあるべきものがなかったのである。


 寝ているうちに布団の中にでもまぎれたのだろうか?


 携帯が見つからないのである。いつもはベッドの脇の充電器にかけて就寝するのだが。


 寝起き後そのままで、グシャグシャになっているベッドの中を探るが、やっぱりない。ベッドの脇から下に落ちたのか? 隙間から覗くと見えるのは昨日の大災害の余波で崩れ去ったマンガの塔の瓦礫。ちなみに普段なら平積みにされているのだが……。それが普段なのにも問題があるのは、まぁ、ひとまずおいといて……。


 ていうか、やっぱりないっ!


 えっ? うそっ! どうして? なんでぇっ?


 訳が分からなくなり、頭がまっ白になる。もしかして、服のポケットにしまったまま洗濯機に入れちゃったとか……。


 慌ててベランダに干された洋服のポケットを調べるが、やはりない。いや、あるならバッグの中か、と気付いて部屋に戻る。が、やはりない。ひっくり返して、中身を全てベッドの上にぶちまけてまでみたが、やっぱりなかった。


 ほんとどうして……?


 まさか、昨日どこかで落としたとか? 例えば、自転車で事故ったときに道路に吹き飛んだとか……。ふいによくないイメージが過る。投げ出された携帯が車に……。


 いやっ! 落ち着けっ!


 そもそも最後に携帯を見たのっていつだったっけ……? う~ん? ダメだ。記憶がない。とりあえず、昨日ともちゃん家から帰ってきてから一度も開いていなかったような……。


 そうだよっ! きっとともちゃんの家だっ! うんっ! そうに違いないっ!


 嫌なイメージを払拭するべく、なんとか一番ありそうかつ、そうあって欲しい可能性を発見。


 いや、っていうか、そうじゃなきゃ困るんだけど……。


 そうと決まればゆっくりはしてられない。さっそく行かなくてはっ! あぁっ! でも髪っ! 流石にこのままじゃ……。


 慌てて洗面台に戻る。しかし、正直めんどくさい。たぶん日々最長記録を更新中であるはずの私の髪は、まぁ、なかなか思い通りにはなってくれないのである。ていうか、なんだこの寝ぐせ? まるでメデューサである。


 これぞワックスいらずの無重力ヘアー。なんといってもご覧くださいこの櫛をっ! ほら不思議っ! 手を離しても頭から落ちませんっ!


 って、何やってるんだろう、私……。


 髪と格闘すること数十分。なんとかいつものストレートに仕上げることに成功した。でも、もういい加減、縮毛矯正でも考えた方がいいのかもしれないなぁ。


 よしっ!


 現在10時半。気付けば随分な時間になっていた。とりあえず「いってきま~すっ!」と出発である。


 自転車に飛び乗り、乗り慣れた道に飛び出す。なんとなくな気分で今日は裏道に入った。幼稚園の脇を通る道であるが、流石に日曜日、完全にもぬけの殻である。


 しかし、グラウンドってこんなに狭かったっけ? 駆けっこのとき結構な距離を走っていたような気がするけれども、やっぱり身体が小さかったからなのだろうか。こう改めて見ると何やら不思議な感覚である。


 建物もすっかり新しく塗り替えられ、随分ときれいになっている。そういえば、あっちにあった梯子の付いた遊具がなくなっている。やっぱり昔のままって訳にはいかないよな……。そういえば園長室ってあの辺だったっけ……。


 そっかぁ、てことはあそこには私の黒歴史、もとい卒園アルバムのフィルムが……。


 さぁて、でもどうやって盗りに行くかが問題なんだよねぇ~。こういう休みの日にこっそりっていうのは多分ヤバいか。防犯カメラとかあったら普通に捕まるだろうし。


 やるならちゃんと計画的に。そう、例えばアルバムを失くしちゃったからとか言って、大元のフィルムを借りさせてもらって……。そしたらそれを失くしちゃったってことにすれば。ふふ、いける。ふふ、ふふふふふふ。


 「あの……」


 「ふえっ!」


 ふいに感傷(いや、ただの悪だくみだろうか)に浸り、足を止めていると、急に声をかけられた。30才くらいだろうか、割と若めの男の人が後ろに立っていた。


 「えっと、何かうちの幼稚園にご用でしょうか?」


 明らかな疑いの目が向けられている。まぁ、白昼に幼稚園を必死で(しかもにやけながら)覗き込んでるヤツがいれば、そりゃ不審者にしか見えないだろう。


 「ええええええっ! いっ、いやっ! なっ、何でもないですっ! 別に怪しい者じゃないですからっ! ど……、ドロボウとかじゃないですし……。ホント違うんですっ!」


 とりあえず、テンパりすぎて余計に怪しい人になっていく。


 「そうですか……、でしたらどうして……」


 やっぱりどう見ても疑われている。まずい。なんか言い訳しなくては。


 「いっ、いえっ! あああ、あのっ! 私、ここの卒園生なんです。それで、つい懐かしくなって、えっとぉ……」


 なんて苦し紛れだろう。でも、ホントのことだし、他に何て言えば……。


 「ああ、そうでしたか。ごめんなさい。あんまり真剣に中を見ていらっしゃったので……。え~と何か探しものでもされているのかと思って……。すみません。えっと、それじゃあ、前の園長の頃の園児さんだったんですね」


 うっそぉ。今ので信じちゃうんだ。先程までの明らかな疑いの目が優しそうな目に変わっている。まぁ、よしっ! 誤魔化せた。


 いっ、いやっ! べっ、別に嘘なんて吐いてないからね。確かにあのフィルムを見つけて燃やしたいとかは思わなくもなくなくないけど。決して非合法な手段に訴えるつもりはないこともなくなくないんだから。


 うんっ! 別にだましてる訳じゃないっ!


 「そっ、そうですっ! いっ、いやぁっ、もう10年くらい前になるんで、あんまりに懐かしくって、つい……。えっと、ここの先生さんなんですか?」


 自分の中で自分の正当性を確保し(本当はできていないのだが)、とりあえず話を合わせておく。


 「ええ。というか、今は園長をやらせてもらってるんですよ。実は、おじ……、前園長が仕事を降りなきゃいけなくなってしまって、それで私が。何ていうか私なんかで申し訳ないんですが、はは」


 いやいや別に申し訳なくはないでしょ。何か微妙に頼りない感じだなぁ。まぁ人は良さそうだけど……。


 「そういえば確か持病が悪化して倒れられたって。それで、遠縁の親戚の人が継いだとかなんとか……」


 「ああ、知っていましたか。そうなんです。私の父のいとこだったんですが、小さい頃から随分と世話になったんですよ。私が先生を目指したときも本当に親身に教えてくれて……。ああっ、ごめんなさい。どうでもいいですよね。そんなこと。まぁ、そんなつてもあって今年から私が継ぐことになったんです」


 「そうだったんですか……」


 へえ、そういう関係だったんだ。しかし、今年からか。せっかくならアルバムの在りかとか知っていたら聞いてみたかったけど、それじゃあ流石に……。


 「知らないかな……」


 「え?」


 しまった。心の声が……。


 「い、いやっ、実は私卒園アルバムを失くしちゃって、もしかしたらここにならあるかなぁ、なんて思ってたもので……」


 まぁ、別に失くしてはいないけど。何せ私の部屋。特に今は捜索困難だろうから、あながち間違ってはいないだろう。


 「ああ、そうでしたか。でも、ごめんなさい。多分、今はここにはないですね。確かおじさんがここを離れる前にそういうものは全部、自宅に保管場所を移したみたいですから。ほら、あそこがそうなんですけれども……」


 道を挟んだ先、幼稚園の敷地と変わらない位の大きな屋敷があった。


 随分長く壁が続いているなぁ、とは思っていたが、ここ、園長先生の家だったのか。そういえば子供のころに一回探検に入ったことがあったっけ。確かあっちの方にお墓があったような記憶がある。


 「今は誰も住んでいませんが、たまに休みに来ては一応掃除とかをしているんですよ。でも、流石にそういうものが何処にあるかは私にもわからないですねぇ。本人に聞ければいいのですが……。ごめんなさい」


 「いっ、いえっ! 別に大丈夫ですっ! ただふいに思っただけですから。ホントにっ!」


 「えっと、そうですか? なんでしたら一応探してみますけど……」


 「いやっ、ホントいいですからっ!」


 「そうですか……。まぁ、私は月二回くらいで日曜の朝、そこの屋敷には来ていますから、何かあれば気軽に声をかけてくださいね。卒園生さんなら歓迎しますよ」


 「あ、ありがとうございます!」


 「では、失礼します」


 と、深々と頭を下げる。まぁ、いい人でよかった。でも、この人には悪事の片棒は担がせられないなぁ……。


 とりあえず、フィルム抹消計画は一旦放棄することにする。


 目の前の女子高生がそんなことを考えていたのも露知らず、いい人は大きな屋敷の中へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ