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おもいで迷子  作者: 空乃 千尋
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 「ふあぁ~、ママ~、おはよぉ~。朝ごはんは~?」


 完全にオフの状態から、空腹感に電源をオンに押された後の第一声。もちろん全てに優先してその空腹を満たすべく、一目散に台所まで降りてきたのである。


 しかし、眠い。二度寝もしたというのに、まったく眠気が収まらない。ていうか、あの夢の所為だ。えっと、なんだったっけ? まぁ、いいか。それよりご飯、ご飯。


 「あら、おはよ。そこに出してあるから早く食べちゃいなさいよ」


 「ふあぁ~い」


 ということで、少しでも目を覚めさせるべく、とりあえず洗顔だけ済ます。う~ん、いまいち頭が冴えてこない。


 まぁ、朝ご飯でも食べれば多少は目が覚めるだろう。


 さてさて、今日の朝ごはんは……。


 ん?


 食卓にはお箸も、お皿も、お茶碗すらなかった。代わりに何やら見覚えのある、教科書1・5冊大の箱が置いてある。


 まさか……。


 そう思い、恐る恐るその箱を手に取り、その蓋をずらす。


 「あぁ……」


 忘れてた……。


 ああっ、そうだよっ! そういえば、そうだったよっ!


 すっかりデンプンが冷えて固まってしまったご飯。


 そして、これまたすっかり萎びてしまった生野菜。


 まぁ、これだけはそんなに味は変わらないだろう甘焼き卵とツナマヨ。


 昨日私が作ったお弁当である。


 ちなみに完全にはらぺこランチ時の仕様なので、通常女子のお弁当の1・5倍くらいある(ちなみにともちゃんのお弁当の2倍くらいある)。


 しかし、流石にどう考えても朝ごはんに食べるボリュームではない。


 なんでこんなもの作ってしまったんだろう。いや、理由は明白だけれども。明白なんだけれども……。


 「ママぁっ! どうしてぇ……」


 「いや、あんたが昨日作ったんでしょ」


 「いや、そうだけど……、でもぉ……」


 「でもぉじゃなくって。もったいないからちゃんと食べなさいよ」


 「うぅ……」


 まぁ、言い訳の仕様もないのは確かである。


 諦めて、しぶしぶ蓋にセットされているお箸を出し、とりあえずご飯を一口。


 うっ……、固まったお米が歯に……。ぐ……、と……れ……ないっ。


 「あうぅっ!」


 嫌い箸の一つ、楊枝箸。


 なんて言うとなんかカッコ良さそうに聞こえなくもない気がするが、結局のところ楊枝代わりに箸で歯に挟まったお米を取ろうとしていただけである。そんでもって、その箸が滑って思いっきりほっぺたの内側に牙をむいたのだ。


 「い……、いったぁいっ! もうっ!」


 流石の私でも頬の中までは鍛えられていなかったらしく、どうやら割と容赦なくざっくりと突き刺さったみたいである。いや、別に貫通してしまった訳ではないから、まぁ、大丈夫。お箸の先から何とも嫌な鉄の味が舌にしみ込んでくるけれども。


 ただでさえ低いテンションだっていうのに、正直マジでやっていられない。


 かといって空腹が収まる訳でもない。という訳で一番の好物に箸を伸ばし、口に放り込む。うんっ、おいし……。


 「……っ!」


 声にならない叫びが台所に響き渡る。


 「あんた、どうしたの?」


 流石のママも気になったらしく、キッチンでの洗い物を止めこちらに顔を覗かせる。


 浸みたのである。


 それはもう半端じゃないくらい。


 そういえば確か、原料にお酢とか入ってたよね。


 マヨネーズって……。


 生まれて初めてマヨネーズが憎いと思った瞬間であった。


 その後。根性でなんとか完食。たとえ嫌いなものでも残す訳にはいかないのだ。いちど食卓に上ったものなら、しっかりと食べきる。我が家の家訓である。


 まぁ、お陰でほとんどの好き嫌いを克服して育ってきた訳だが……。


 でも流石にこの血の味には慣れられそうにないなぁ。舌で傷口を一舐め。とりあえず、一応傷口は塞がったらしい。


 「ごちそうさま……」


 「はい。お粗末さま。って言っても私は作ってないけどね。それより、あんた大丈夫なの?」


 「うん……。まぁ一応……」


 「そう? でも薬は塗っときなさいね」


 「ええ~っ! ヤダよっ! それに、もう塞がってるし……」


 「ダメよっ。油断してるともっと悪くしちゃうことだってあるんだから」


 「はい、はい」


 とりあえず適当に相槌。正直嫌いなのだ。あの薬の匂いや味、そして何よりあのぬめっとした感じ……。ということで、自分で塗ったことにして誤魔化すことに決定。そそくさと食卓を離れる。さてまずは歯磨き、歯磨き……。


 「ん――――――っ!」

 

 思わず咽かえり、口の中で程良く泡になった歯磨き粉を吹き出す。しかし、というか、もちろん色はもう白くはなく、まっ赤に染まっていた。頬の傷口に歯ブラシを突き刺したのである。


 「あんた大丈夫?」


 ママがキッチンから駆け寄ってきた。


 「うぅ……」


 痛い。マジで痛い。


 「ほらっ、だから言ったじゃない」


 あまりの痛さに洗面台の前でうずくまっている私に、


 「ほら、口開けて」


 ママから声がかかる。その指にはすでに薬が出されている。もはやこれまでか。


 ん……、んんっ! うぅっ!


 ぬめっとしてて、何とも言えない味と匂いが……。


 う……、うえぇっ……。


 もはや完全に女子力の欠片すらない反応である。


 まぁ、お陰ですっかり目は覚めたのだが……。

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