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「あぁ~、おいしかった~っ! ごちそうさま~っ!」
「……、ごちそうさま」
「……、ごちそうさま」
三つのお皿がすっかり空になり、かわりに各々のお腹はきっちり肉じゃがで満たされていた。ついでにさっきのマヨネーズの容器も見事に空になっていたのだが、それは私のお腹の中だけに収まっている。
そういえば私が肉じゃがを食べていたとき、二人がとても怪訝な表情で私のことを見ていた気がするのだが、やっぱりそんなに変なんだろうか。
「ねぇ、しお姉。肉じゃがマヨネーズってそんなにおいしいの?」
なんていう当然の質問を。
「うんっ! めっちゃ美味しいよ~」
「そ……、そっかぁ……」
「ゆうもやってみればよかったのに」
「い……、いや、僕はちょっと……、いいかな……」
ちっ、似たもの姉弟め。
「しおちゃんの家ってみんな肉じゃがとかにマヨネーズかけてるの?」
「うん。さっきの話じゃないけど、カレーにも肉じゃがにも基本的にはかけてるかなぁ?」
「そっかぁ……」
「ちなみに、ともちゃん家ってもしかしてそんなにマヨネーズって使わないの?」
「ううん。ゆー君は大抵使ってるよね? サラダとか」
「うん。そういえばお姉ちゃんは最近マヨネーズあんまり使ってないよね?」
「うん。前まではマヨネーズだったけど、最近はドレッシング派かな?」
なに? それは聞き捨てならない。
「え~、どうして? マヨネーズ美味しいじゃん?」
「えっと……。何か、マヨネーズってカロリーが高い気がして、ついノンオイルのを……」
「女子かよ~っ!」
いや、まぁ、女子なんだけど。
っていうか、めっちゃ女子なんだよね。この子……。ん? ていうか、何かそれだと私が女子じゃないみたいな……。
「えへへ」と、気恥ずかしそうに笑っているともちゃん。そして、その後ろでくすくすと笑っているゆう。
「って、ゆう? なに笑ってんのよ~」
ゆらりと近づき、思いっきりゆうの頭を掴む私。
そして左腕にゆうの頭を抱え込み、そのこめかみに右拳を突き付けてぐりぐりと可愛がってあげる私。
「いたっ! 痛いっ! 痛いってばっ! しお姉っ!」
ほら、こんな風に弟とスキンシップをとれる私も十分女の子らしいでしょ? ほおら、こんなに優しく頭を撫でてあげられる女の子なんてそうはいないんだから。
「ああああぁあぁあぁっ、ホント痛いっ! これ痛いんだってばっ! ごめんっ! ごめんなさいぃ!」
手足をバタバタさせながら必死の抵抗をするゆう。
だが、もちろん年上の私の腕力からは逃れることは叶わず、甲高い悲鳴をあげ続ける(断じて私が異常にマッチョな訳ではない)。
しかしこいつ相変わらず小さいなぁ。男子なのに。ほとんどともちゃんと変わんないじゃん。まぁ、まだガキだからしょうがないか。
っていうか、こいつって今何年生だったっけ? えっと……、ともちゃんの二つ下だから……。あれ?
もう中2かっ!
なんか、まだ小学生くらいかと思ってた。
いやぁ、ゆうも気付かないうちに大きくなってたんだなぁ。
まぁ、全然大きくは見えないんだけども。
ていうか、小さいし。しかも声は高いは、更に童顔だし。その上私にも敵わないくらいの非力さだし。
私にも敵わない非力さ……。
もとい、中2男子に勝てる私の腕力……。
あぁ……。
ふいに腕から力が抜け、その瞬間に脱出に成功したゆう。
「はぁ、はぁ。あぁ痛かったぁ。もう、なんなのさ。しお姉」
「はぁ……」
「しお姉?」
「あ……、ああ、なんでもない。なんでもない」
気が抜けて適当に返事をする私。
「いや、なんでもないって……。はぁ、もう。相変わらず力強過ぎだよ~」
いや、私が怪力なんじゃないっ! お前が小さすぎるのが悪いんだ。
「いふぁいっ! いふぁいっへはっ!」
思いっきり唇の両端を引っ張ってやった。
「しおちゃん。ダメだよ~。ねぇ。やめてあげてよ~」
いつの間にか洗いものに行っていたらしいともちゃんの声が聞こえる。
「おええひゃ~んっ! いはいっ! はふへへよ~」
面白い声で助けを呼んでいるらしいゆう。
その声を聞いてキッチンからとてとてとこちらに向かってくるともちゃん。
「ほらぁ、離してあげてよ~」
そう言い、ともちゃんが私の手を掴む。
「いふぁいっ、いふぁいおっ! おええひゃんっ! ひっははえへうっ! ひっははえへうはあっ!」
すると、更に反応が面白くなっていくゆう。逆に余計に引っ張られてしまったらしい。
「あっ、ごめんっ! ゆー君っ!」
慌てて手を離すともちゃん。
「ねぇ、しおちゃんったら。ほんともう止めてあげてよ~」
う~ん。仕方ない。残念だけど。
「はぁ~。痛かったぁ。ありがと、お姉ちゃん」
解放されて溜息をつくゆう。
「ううん。大丈夫~?」
そう言って、ゆうの顔を上から覗き込むともちゃん。
「うん。っていうか、ほんと何なのさ? しお姉」
「いやぁ、久しぶりに会った弟を可愛がってあげようかと思ってぇ?」
「どこがさぁ?」
ぷくっと頬を膨らませるゆう。こうしてみるとやっぱり小学生くらいにしか見えないなぁ。
「さっき抱っこして頭撫でてあげたじゃん?」
「どこがさぁっ!」
「あはははっ」
「も~。笑い事じゃないよっ」
「ん~? なぁに? えっと……、もっと可愛がって欲しかったって?」
「い……、いや、なんでもないです」
「ん~? 別に、遠慮しなくていいんだよ~」
「ご、ごめんなさいぃっ!」
「ほらぁ、ゆうっ! こっちに頭を出しなさいっ!」
「あぁああぁぁああぁっ、おねえちゃあぁんっ!」
「もうっ、しおちゃん。いい加減にやめてあげてよ~」
「はい」
ちっ、残念。
「お姉ちゃん」
「よしよし、ゆー君」
なんて言いながらゆうの頭を撫でるともちゃん。
「おっ、お姉ちゃんっ!」
恥ずかしそうに、首を振るゆう。
「や~いっ、シ~スコ~ンっ!」
「ちっ、違うよぉっ! しお姉っ!」
後ろでくすくすと笑っているともちゃん。
「もうっ、お姉ちゃんもぉっ!」
顔を真っ赤にして困った顔をするゆう。中2とはいえ、やっぱりまだ子どもだなぁ。全然成長してないし。
バカな絡みもすっかり終え、久しぶりにゆうとゲームをすることになった。
さてこのゲーム。小さい頃よくやって、いっつも私が圧倒的勝利を収めていたものである。
しかし、私のブランクの所為? いや、単純にゆうが上達していたのだろう。今回は一勝もすることが出来ず、ただただ数十分ほど私のストレスをため続ける運びとなった。
ぐっ、こんなところだけ成長しやがって。いつかリベンジしてやろう。




