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◇
「イヤぁー! 臭い! 何よこの匂い!」
隠し通路に戻って来た俺にレオナは容赦なく野太い悲鳴を浴びせかけた。
何の匂いってミダクードの匂いだけど……まあ確かに、薬草特有の薬臭さに何故か生臭い匂いとかドブ臭い匂いが渾然一体となって臭いわな。
いや、それよりも
「俺の“アレ”が無い!」
「“アレ”って何よ! ……ん?」
何だその“ん?”って。
まさか俺の“アレ”の在処を知っているとか?
だったら早く教えてくれ! 今すぐに……だ!
「デルメク……よね?」
「デルメクですけど?」
他に誰がいるって云うんだ?
暗くてお互いの顔なんて見えないが、声で解らないものだろうか?
「声が違う! 何よその女の子みたいな声!」
……へっ?
ああ、さっき、兵士に女の振りして喋ってた、その喋り方が抜けないのかも。
「あ、あーあーあー。どうだ?」
「どうだ? って云われても……うん、やっぱり女の子の声だわ」
そう云うアンタは思いっきり男の声だがな。まあいい、声なんかどうでもいい。
「そんな事より俺の“アレ”を探してくれ!」
「だから、“アレ”って何なのよ!」
ああ、ハッキリ云わせないでくれ。一応アンタ女だったんだろ?
「男にとって一番大事なものだ!」
「金?」
何で間髪を入れずにそう即答するんだ? そうか男は金か、こーゆー考え方の女とは絶対結婚したくないものだ。今は女じゃないけど。
「お金じゃなきゃ何よ? まさか“友情”とか“勇気”とか熱血な事云い出すつもりじゃないでしょうね?」
「いや、そうゆうのは元から持ってない……って、まだるっこしいな!もう!」
俺はレオナの筋肉質の手を探し当て、掴み、自分の股関を触らせた。
「あん♪」
……何だ? 何でこんな声が出るんだ? と云うかこの感触は何だ?
「ドコ触らせてんのよ! 気持ち悪い声出さないでよ! 私は変な趣味ないんですからね。ノーマルなんですから! 筋肉ムキムキの男が好きなんだから!」
レオナの趣味なんて訊いていない。そうか、良かったな、理想のボディを手にいれて。
「解ったか? ここにあるべきものが無いんだ! モゲたんだ! どっかに落っことして来たんだ! 探してくれ! うわあああ!」
恥も外聞も無く涙が出る。いや、号泣した。俺の“アレ”は今どこで何をしているんだろう? きっと心細くなって泣いているに違いない。早く見付けてやらないと。
「ねえ」
「何だよ、人が“アレ”の安否を慮っているところに」
「アンタ、女になっちゃったんじゃないの? 私が男になったみたいに」
……! そういえば、胸があり得ない程腫れていた……あれって……
俺はもう一度レオナの腕を掴み、今度は胸を触らせた。
「……あはん♪」
「だから気持ち悪い声出すなって云ってるでしょー!」
どうしよう。俺は……
俺は女になってしまったらしい。
「ふん、ちょっとは私の気持ち解った?」
嘆いてる間にいつの間にか夜が明け、泉に自分の姿を映し、呆然となっている俺にレオナは冷たく吐き捨てる。
「な……なんて……」
「今までの自分の全く違う自分になる不安。どう?」
「なんて……」
「ちょっと! 人の話訊いてんの?」
「なんてデカイおっぱ……」
俺はその言葉を云い終わらないうちにレオナに殴られた。
凄い力だ。マッチョな体は見かけ倒しじゃ無かったらしい。
薄れゆく意識の中、そんなしょーも無い事を思っていた。