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声のした方を振り向いたが、カンテラの灯りが眩しくて声の主が見えない。
「ま、眩しい」
「これはすまん」
声の主は慌ててカンテラの灯りを小さくした。思った通り兵士だが、大丈夫だ、怪しまれないように自然体でいればいい。大丈夫だ。
「もう暗くなったと云うのに、うら若き娘がこんな所で何をしておられるか、不用心な」
……えっ?
……うら若き娘?
ははーん、この兵士、目が悪いんだな? 俺が女に見えるんだ。確かに俺は背が低い上に線が細いし、そう思えば思えなくもないのかもしれない……これは好都合だ。
「お料理中に火傷をしてしまって、火傷に効く薬草を探してますの」
不自然じゃない程度に声を細く高く出してみたら、自分でもびっくりするぐらい女らしい声が出た。
「なんと! それは大変だ。若い身空で肌に火傷の痕など残ったら気の毒だ。自分も探して差し上げましょう」
いや、いいから早くどっか行ってくれ。と云いたかったが、無下に断ると怪しまれるかもしれない。
「まあ、ありがとうございます。私もう火傷が酷くて倒れそうでしたの、それなのにこんなに暗くなってしまって」
「なんと、そんなに酷い火傷なのですか! それは一刻も早く手当てしなければ! 火傷に効く薬草と云えばミダクードですな?」
兵士はカンテラで辺りを照らし、ミダクードの群生している箇所を見つけ出した。
やったー! 早くこれを揉んで汁を体中に塗らないと……あ。
「何をしておる娘ご、早く手当てを」
「あのう……私の火傷した所は胸なので、襟をはだけてあられもない姿を殿方に見せる訳には……」
「なんと、そうであったか! これは失礼、では自分は退散する事に致しましょう。帰り道は大丈夫ですかな?」
「ええ、大丈夫です。本当になんとお礼を申し上げて良いやら……ありがとうございます」
兵士の顔がやけに赤く見えるのはカンテラの灯りのせいか?
「いやいや、礼には及びません。国民の安全を守るのが兵士の勤め。では」
いい具合に追い払えた。これなら不自然じゃないだろう。カンテラの灯りが遠くなったのを見計らって、俺はおもむろに服を脱ぎ、ミダクードをむしり、揉み、体中になすりつけた。
「えっ……? これは酷い」
さっきから胸が重いと思ったら、パンパンに腫れている。ミダクードで治るかな……? もしかしたら切開して膿を出さなきゃいけないかもしれない。
それでも、さすがミダクード。塗ってるそばから痛みや熱が引いてくる。
「うーん、ここも一応塗っといた方がいいかな?」
と、大事な場所に手を当ててみると……
……あれ? あれっ? あれあれあれ?
「……無い!」
俺の大事な“モノ”が無い!
焼け落ちたのか?
膿んで腐ってモゲたのか?
男の子の一番大事なモノが無い!