#1
永遠の命がほしいか?
と問われれば、ほしい、という者のほうが多いだろう。誰だって死にたくない。
老いたくないし、病気も嫌だし、ずっと楽しく暮らしたい。「永遠」なんて重いものは御免だが、と。
なるべく健康でなるべく若く、なるべく長生きしたい。まっとうな願いだ。
(でも私は、願ってしまった)
(契約してしまった)
(特別に、なりたかった)
(『あいつら』が老いさばらえたら、死に目に会いにいってやる。若い姿で、嘲ってやる……)
過去を振り払うように、拳を握りしめて、離す。
かなめは顔をあげて、目の前の扉を見つめた。
(ここが今日から、私の教室)
がらり、と目の前の引き戸が開いた。
「さあ、入って、かなめさん。自己紹介を」
若いシスターが微笑んで、入室を促した。ここはミッション系の学校なので、教師も事務員もみなシスターだ。シスター・テレジアは金髪碧眼の美女で、かなりの巨乳であることは服のラインからもよく分かる。
かなめは教室に入り、教壇にあがって教室内を見渡した。
通常、40人は入れるような広さの教室に、机はたったの四つ。そのうち一つは、さきほど運ばれてきたかなめのなのだろう、席が空いていた。
ほかの三つは席が埋まっている。女子校なので、当然のことながら女子ばかりだ。
ひとりは、ショートカットで活発そう。もう一人は、ポニーテールで優しそう。もう一人は髪の毛をくるくるに巻いていて、転入生に興味がないのか、毛先に指を絡めてはいじくり回していた。
「かなめです。よろしく」
漢字ではこう、と黒板に「要」と書く。苗字は言わない決まりだ。
ショートカットが席から立って、挨拶した。
「私、みなとです。よろしくね。漢字だと、そのまま港って書くの」
ポニーテールが同じく挨拶した。
「わたし、よしこです……。良い子って書く……」
「あんたはそのまんまってかんじ」
港が笑い、良子が良い子じゃないもん、と抗議する。
最後のひとり、髪の毛くるくるは、かなめを見て、鼻で笑った。
「なんでさあ~、目が悪くないのにメガネしてるわけ? バカじゃないの?」
「…………どうでもいいでしょ」
かなめは苛立ちながらも、無視できずに返事をしてしまった。
「どうでもよくないよ! メガネなんてさあー、冬は電車乗れば曇るし、ラーメンの湯気で曇るし、暑けりゃ曇るし、夏は汗ですぐにずり落ちるし? いいことないじゃん。それをまだしてるとかって、脳みそがおかしいとしか思えない!」
「ずっとしてたから、ないとバランスが狂うの! どうでもいいでしょ、人のことなんか! っていうか、あんたもメガネだったんじゃん」
「そ、そうだけど、メガネの不便さを知ってるから、なおさらあんたが理解できないの!」
ぎゃあぎゃあと初対面で言い争う二人を、港と良子、そしてシスターもぽかんと見ていた。
「メガネに長ったらしい三つ編みなんかして、スカートも長いままで巻いてないし、ださっ! ださすぎ!!」
「髪の毛巻くひまあったら勉強しろ、ギャル! 見てくれる男もいないのにバッカじゃないの」
「うるさーい、おしゃれは心意気でしょ!?」
「はいはいはい、仲良くするのはいいけど、そのへんにして! 授業に入りますよー!」
さすがに低次元の言い争いも佳境に入ると、シスターが止めに入った。
ここは山奥のミッション系女子校で、全寮制だ。生徒たちは家庭環境に問題があって、家庭から隔離されている。つまりは若年の婦女子用シェルターなのだが、ひとつだけ特殊な事情があった。
血液やら何やらの検査をパスした者だけが「施術」を受け、特別クラスに編入される。その生徒は特別な身体能力を有し、将来は国家のために特別なプロジェクトで働く、というものだ。
その特別なクラスがここか、とかなめは若干、冷めた目で見ている。
「施術」のおかげで0.02だった視力も2.0に回復し、体力運動能力などが軒並み上がっている。老化はなく、永遠に生きられるという触れ込みだ。
(けど、そんな……何の代償もないはずはない)
(でなければ、こんな山奥で隠れるように実験しているわけがない)
(私は……『あいつら』の死に目に会えるのかな)
漠然とした不安がよぎるのを、かなめはごまかすように、ノートに目を落とした。
ちなみに、髪の毛くるくるの名前は「花子」だった。
まだまだ出だしで説明ばっかりですが、よかったら続きも見てください