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最高の死霊魔術師-Psycho Necromancer-  作者: かっつん
第5章:最高の死霊魔術師
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2.記者、殺す

階段を駆け下りている途中、鮫の神、八坂のフカがいた。


「フカちゃん!?」

「お……おぉ、愛華」


フカはどことなく元気がなさそうだ。頭にかぶっている鮫も目を伏せている。


「古鉄君はどうしたんですか?」

「こてっちゃんは実験室だよぉ。愛華、急いで」


そういうとフカの姿が頭からゆっくりと消えて行った。

私はフカのいた場所に手を伸ばす。何もない。

いや、足元に何か転がっていた。手に取るとそれはわずかに拍動のようなものを感じる。

これは……セトが言っていた肉?


「急いで……?」


フカの言葉を思い出し、肉を手に再び階段を駆け下りた。

長い長い螺旋状の階段を下りきると、そこには以前も見た木製の扉が立ちふさがるようにあった。

そして……セトがいた。


「来たね」

「セ……ト、さん」

「てっちゃんはこの先だ。わっちは見届けることしかできん。愛華、なんとかしろとは言わないよ。でも、最期くらい看取ってやってくれ」

「……はい」


重い扉を開けると、そこには以前の通り、石造りの部屋に床には魔法陣が書いてあった。

そして部屋の奥においてある机に古鉄君は倒れていた。


「古鉄君!」


私は魔法陣をよけ、古鉄君に駆け寄る。

古鉄君は膝を抱くように横になっていて、私が駆け寄るのを見てか、体を少し起こした。


「んっ……まな、か……さん」

「古鉄君!何があったんですか!」


古鉄君は肩にあてられた私の手をとり、ゆっくりと机から降りた。


「僕には……もう時間が無かったんです」

「時間がないって……!」

「セトさんから聞いていたのでしょう?肉の話を」

「ええ。だから今こうして」


私は古鉄君に持っていた肉を差し出した。

しかし古鉄君は受け取ろうとしなかった。


「……僕には、もう必要のないものです」

「どうして!」


古鉄君は魔法陣に手をあて、ゆっくりと話し始めた。


「僕がやりたいことは、すべて終わっています。僕は生まれた時から記憶がなかった。どうしてか生まれた時からセトさんといたんです。セトさんは僕に僕の過去がどんなだったか教えてくれません。僕はゾン子と同じで、また黒魔術師だった。それだけしか教えてくれなかったんです。だから僕は人間のふりをした。でも姿かたちが一切成長しない。だから人間のふりをしていても怪しまれた。僕はそれから人目を避けるようになりました」


一度深く呼吸をしてから、古鉄君は続けた。


「……でもゾン子に心を吹き込んだように、僕にだって心はあります。普通の人間のようにしたい。最後の3日間くらい人間のようにしたっていいじゃないか……って」

「それが、私の学校への入学理由、ですか」

「ええ。全校生徒に黒魔術をかける大規模なものでした。そこで計算違いが起きたんです」

「計算違い?」

「愛華さんが僕に興味を持ったことです。そして僕も、愛華さんに興味を持ってしまったこと」

「えっ?」


私は魔法陣に手をついたままの古鉄君の横顔を見つめる。


「生まれてから十数年の間、夢を見てるんです。女の人が僕に手を差し伸べる夢。その女の人は顔は見えないのですが、なぜか夢を見た後は落ち着くのです」

「その夢と私、どんな関係が?」

「似てるんです。その人と愛華さんが」

「似てる……」


古鉄君が手を放すと、魔法陣が大きく光りだした。

そこに古鉄君はゆっくりと足を踏み入れた。


「僕は、愛華さんの事が好きになってしまった。でもそれだと3日の制限を耐えられない」

「……、……」

「だから、僕は愛華さんに最期を見届けて欲しい。愛華さんに終わらせてほしい」


古鉄君が髪をかき上げる。その目には、大粒の涙が輝いていた。


「おかしいですよね。変な事お願いするなんて。おかしいですよね……死体が涙を流すなんて」

「おかしくないです」



私は、魔法陣の中に踏み込んで、古鉄君を抱きしめた。



「ひとつやり残したことがあるんじゃないですか?私、古鉄君の為に記事を書いたんですよ?」

「あ……そうでした。ありがとうございます。向こうでじっくり読ませてもらいますね」

「え、何を言ってるんですか。すぐに読んでください」


私は古鉄君に新聞を押し付けた。

古鉄君は光り輝く魔法陣の中で、新聞に目を通した。


「はっはは。愛華さんらしいや」

「笑っていただけて光栄です」



「……愛華さん」


古鉄君が私を見つめる。これまで見たことのない真剣な表情だ。


「どうか愛華さんの手で、僕を終わらせてください。もう、誰も悲しませたくないから」

「……わかりました」





私の目の前で、魔法陣が放つ光が一層強くなった。


「さようなら、愛華さん」


私は古鉄君の真似をして魔法陣に手をついた。

次の瞬間、私は学校の門の前に立っていた。




「……あ……っ」


空を見上げる。夏真っ盛りの空が私を照らしていた。

私の鼻が、第6感が、私に告げる。彼は、消えたと。

頬に伝う何かを確かめもせず、私は空につぶやいた。


「さようなら、私の最高の死霊魔術師さん……」

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