3.記者、己を知る
「ちょっと、いいですか」
私はセトの話に口を挟む。
「ん、どうしたのかえ?」
「その、名屋大鉄って人は、古鉄君となんの関わりが?」
「これから話すんだがね」
「あとひとつ。その栄、栄瀬戸って人はセトさんとなんの関わりが?」
「ん?それがわっちの事さね」
「えええええええええっ!?」
「驚いてる暇なんてないよ。時間がないのさ。じゃ、続きいくよ――――――――――
愛する栄を見た目は違えど取り戻すことが出来た大鉄。
しかし一度夢が叶ってしまうと違う夢を追い求めるのが人の性。
『ずっと欲しかった、僕達の子供を作ろう』大鉄はそう願ったのさ。
一度黒魔術で成功したからと言って次も成功するとは限らない。
だけど大鉄には確固たる自信があった。わっちはそれをじっと見ていることしかできなかったがね。
これまでずっと実験が続く毎日だった。大鉄も疲れてフラフラしていたよ。
でも夢の為、と、大鉄は休むことはなかった。
それが命取りだった。誤って魔法陣の安全装置を外したまま、別の作業をしていたのさ。
安全装置を取り外した魔法陣は、たとえ術者でも触れた者すべてを生命の源として吸収してしまう。
ふと、よろけた大鉄は魔法陣に触れてしまってね、倒れこむように魔法陣に吸い込まれていった。
わっちはその時丁度実験材料を取りに向かっていたから、吸い込まれたことに気づいたのはその後だったんだけどね。
実験室に材料を持って入ったらてっちゃんがいない。
代りに役目を終えた魔法陣と、中央に人が蹲っていた。
駆け寄ると、歳は16くらいの若者が、苦しそうにうなされていたのさ。
『大丈夫かい?』わっちは彼に話しかけた。
『ここは……?僕は……?』
魔法陣に誤って落ちた大鉄は、自分の体を媒体として、新たな生命体を生み出したって話さ。
わっちはどうしたものか悩んだ。でも過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
彼は大鉄の魂を取り込んだ。つまりそれは見た目は違えどわっちの愛した大鉄だってことさ。
『あんたは名屋古鉄。わっちの家族さ』
『なや……こてつ……?』
『偉大なお父さんから生まれた子。てっちゃん。よろしく頼むでよ』
それがあったのが、今からちょうど20年前の7月17日の事さ。
彼には何もかも記憶が無かった。だが黒魔術の技術だけは引き継いでいた。
生まれた理由も知らない、生きる理由も知らない。
だからてっちゃんは死霊魔術師として活動していたのさ。
―――――――――――――――――――
セトは口を閉じると、小さく身震いした。
私もそれにつられて身震いをした。先ほどの宴で上気した体が冷えてきているのがわかる。
「ああ、懐かしい話をしたよ」
「……、……」
私はいきなりの連続(それを言い始めると昨日からコンボは続いているのだが)で口が動かない。
「うん?愛華、どうした?」
「いえ、驚きの連続でなにがなにやら。えーと、まとめてください」
「わっちはゾン子古参なのは、てっちゃんがわっちを作ったわけじゃあないってことでよ。てっちゃんの前の体がわっちを作ったのさ」
「んん?てっちゃん、というのは古鉄君で合ってるんですね?」
「そうだがね」
いきなり現れたセトが言う昔話。
名屋大鉄という男性と栄瀬戸という女性の恋物語、そして別れと甦り。さらに名屋古鉄の出生……?のような話もあった。
つまり古鉄君は大鉄さんの黒魔術によりゾン子と同じ製法で大鉄さんが生まれ変わった姿……って事?
私はセトが少し悲しそうな表情をしていることに気が付いた。
「あと、これだけは話しておかなきゃいけないことがあるでよ」
「なんですか?」
「今日の昼、本子が謎の肉を食べたはず」
「え、ええ……」
私の脳裏に、あの焼けつくような太陽と屋上での昼食前の時間の光景が思い出された。
本子が召喚した鮫の神、八坂のフカが仕方ないと言って用意したあの正体不明の肉。本子が一息に食べたあの肉。
「あれは本子がゾン子である故に、摂取しなくてはならない肉なのさ」
「……といいますと?」
「てっちゃんが行う黒魔術は確かに高性能だよ。でも肉体の劣化には勝てないのさ。だから肉体を維持するためにはあの肉が必要なもので、本子はアレを食べて生きながらえている訳さ。皆そうやってる」
「となるとセトさんだって」
「わっちだってゾン子。でも例外が存在するのさ。わっちが生み出された時に使われたのはわっちの魂と鮮度の高い死体、それとわっちの体の骨が使われたのさ」
「骨?」
「そう。入れる魂と同一の肉体の一部があれば、肉体の劣化を防ぐ、つまり半永久的に生きることが出来るんだがね」
「じゃあ古鉄君は……」
「てっちゃんは別。てっちゃんは前のてっちゃんが、魔法陣が未完成の時に取り込まれた。故に未完成のゾン子。たとえ優秀な黒魔術師だったとしても肉体の劣化は避けては通れない。生まれてからちょうど20年。それ以上は生きれないだろうね」
「でも、大鉄さんの体に大鉄さんの魂が入ってるものから生まれた古鉄君なら……!」
「さっきも言ったが、魔法陣が未完成だった。それが最大の原因さね。『鮮度の高い死体』を媒体とする条件を満たしていなかったのさ。わっちのような場合は肉はいらないけど、てっちゃんのような場合は肉が必要だって訳さ。でも生まれてからてっちゃんは肉を食ってないがね」
一度口を閉ざし、私を見据えるセト。
「……さて。長話にも疲れたろう。わっちは家に帰るよ」
ゆっくりと地面に降り立ち、背を向ける。
トコトコと数歩歩き、こちらを振り向かずに立ち止まった。
「……この話を聞いて、愛華、あんたが何を考えるかはあんた次第だでよ」
私が口を開ける前に、セトはすぅっと消えて行った。
空を見上げると、夏の大三角が煌びやかに瞬いている。
私は開きかけた口を閉じて、今日の日付を思い出した。
今日は、7月16日――――――――――――




