1.記者、対話を試みる
古鉄君の家は学校からまっすぐ歩いて5分の位置にある。
故に、そこまで遠くなく歩いていける距離なのである。
だからなんだと聞かれたら、それでおしまいなのである。
「さっきから何を言ってるんですか愛華さん」
「ん、え、記事を書くときのオチとかどうしようかな、って思ってですねぇ……」
私は古鉄君と並んで歩いている。
古鉄君の背がとても高いので、私は彼を見上げて離さなくてはならない。
「古鉄君が新しく新聞部に入部するんですもの、はりきって書かないと!」
「……そんなに大事なのですか?」
「そうですとも!私達新聞部にとっては部員の1人が大事なのですとも!」
私の言葉を聞いてか、古鉄君がふと立ち止まった。
「どうしたのですか?」
「愛華さん……キラキラしてます。眩しいです」
「え?」
古鉄君が髪をかき上げ、まっすぐな瞳で私を見つめる。
その瞳にはどこか悲しげな色が映し出されていた。
「僕は愛華さんのような人が羨ましい……です。今まで生きてきて、こんなことは無かった」
「そ、そんな照れますって~!」
私が大げさに手を振ると、古鉄君はまた小さく笑った。
「……ちょっと、クサすぎましたかね?さて、行きましょう。本子が待っています」
再度歩き出す古鉄君。私はそれについて歩く。
「なんか古鉄君キャラ変わりましたね」
「え、そうですか?」
「ええ。昨日初めて会った時はもっと暗いイメージでしたから」
「僕は変われたのかもしれない……」
ぼそっとつぶやいた古鉄君はそのまま左へ曲がった。
私もそれについていくが、家の存在に気づくのには時間を要した。
「あ、もう着いたんですね」
「ええ、黒魔術で意識させないようにしてあるので、愛華さんが気づきにくかったのも仕方ありません」
ドアを開けると、相変わらず薄暗い部屋が広がっていた。
が、そこにはいつもとはまた一風というか270度変わった世界の人間(?)が鎮座していた。
昨日私が取材したテーブルの上に胡坐をかく金髪の女性。
私達には背を向けているので背中が見える。
……文字通り、背中が見えるのだ。素肌の。
古鉄君はその女性を見るなり顔を真っ赤にして叫んだ。
「あっ!こら!裸エプロンはするなって言ってるだろう!」
古鉄君の声に反応して、金髪女性は振り返った。
「オー!テツ!やっとキたんですネ!」
振り返った姿を見て、私は持っていた鞄を地面に落とした。
裸でエプロンを身に付ける、それは百歩譲ってよしとしよう。
……彼女の上半身、胸部が、異様に飛び出ていた。前に、右に、左に。
「およ?テツ、そのヒト、ダレですか?」
「後で説明するから!まずは着替えてきなさい!」
「オッケー!じゃ、あとでね!」
そういうと胡坐の姿勢のままテーブルを通過し、ゆっくりと下へ降りて行った。
私はあんぐりと開いたままの口を閉じずそのまま聞いた。
「こ、こてつくん、いまの……なに?」
「5人目のゾン子です。ちょっと性格が不安定なまま完成しちゃったのです……」
「ヘーイ!お・ま・た・せ!」
ドアを突き破るかのような爆音を立ててその2つの爆弾を揺らしつつ、金髪は近づいてきた。
……2歩以上間があるはずなのになぜかすごく近く感じる。青い二つの瞳が私を見据える。
「で、テツ。そのヒト、ダレですか?」
「この人は僕の先輩の伊吹颪愛華さん」
「い、伊吹颪です、よろしく……」
私は外人特有の威圧感とまた別の威圧感に苛まれ、縮こまりながら挨拶を交わした。
「テツのシニアのマナカね!ミーはトレアといいますデース、よろしく!」
「と、とれあ?」
「イエス!トレアデース!」
そういうとトレアは私に勢いよく抱き着いてきた。
むにっとした感触が上半身を包む。やわらかい。本物だ。たぶん。
トレア、5人目のゾン子。彼女は海外から来ている精霊を宿した存在。
日本語が不自由なので独学で学んだらしい。まだ片言だが上手だ。
あとは日本の文化についても知りたがっていて、先ほどの裸エプロンもその一環だったようだ。
「だからといって実践するもんじゃあないよトレア……」
「テツもそういうのスキってコトですかー?」
「ばっ、そういうのじゃなくてだね……」
さっきの光景を思い出したのか、顔を真っ赤にする古鉄君。
そりゃあそうだ、あれは女の私でも刺激が強すぎる。
「ところでトレアさん、他のみなさんは……?」
「チューボーでおリョーリをツクってるデス」
「お料理?古鉄君、私をここに呼んだ理由って?」
「はい、僕の入部記念と称して愛華さんとの食事会、ですかね」
「ほ、ほほぉ……」
「あれ、嫌でしたか?」
「いえ、嫌とかじゃないんですが……意外でしたね」
まさか古鉄君から誘われるとは。実はこのキャラは仮面……?
そんな不安も少しよぎったが、これに乗らずして新聞は完成しない。
私の取材魂が震えていた。燃え尽きるほどに。香る、感じる。
「……ネタの匂い」
ドアが開くと奥からメイド、和服、鮫、その他もろもろゾン子(約一柱違うが)が各々食べ物を持ってやってきた。
宴が、始まった。




