0.プロローグ
技術は進化するものである。
木から紙が出来、その紙に出来事を活版印刷し、出来事を大衆に伝えた。
人類は新聞というものを使い、情報を伝達していた。しかしそれには時間がかかり、手間もかかっていた。
しかし現在は媒体さえあれば手軽に出来事が読める。一瞬で、それもボタン1つで。
技術は希望と共に進化していた。
しかし、進化しても私たちは忘れてはいけない。先人たちの知恵と努力を。
「……なーんて堅苦しい口上はどうでしょう?」
「却下」
顔面に原稿用紙を叩きつけられる。
「いった~い!部長!紙でも思いっきり叩きつけると痛いんですよぉ!?」
「うん、知ってる」
「知ってるならなんでやるんですか!」
「貴女だからやったのよ」
部長はかけているメガネを持ち上げ、ため息をついた。
「ひえぇ酷いですよぉ……」
「いいから真面目にやりなさい。この1枚の新聞が私たち新聞部の存続にかかってるんだから」
「……はぁ~い」
部長に促され狭い部室の椅子に腰かける。
私の名前は伊吹颪愛華。高校2年生。存続の危機となっている新聞部の数少ない部員の1人。
目の前の席に腰かけ忙しそうにパソコンを打つのは先輩で部長の海部美和子さん。
「それで、部長……」
「なによ」
「そろそろ授業の時間ですよ?」
「あら、そうね。じゃ、放課後の部活は取材よ」
そういうと先輩はさっさと鞄を手に立ち去って行った。
私も先輩を追うように鞄を引っ掴み部室を飛び出した。
私の通う学校はいたって普通の進学校。部活動も強制じゃないし、どの部活も大きな大会では惨敗続き。
私の所属する新聞部は私含めて部員2名と、深刻な部員不足。
さらにあと3か月で部長が辞めてしまうため、部員1名で廃部となってしまう。
それを回避するために私と部長で部員勧誘と知名度向上のための新聞を製作しようと意気込んでいたのだ。
……もっとも、新聞は各学年の昇降口に数枚張り出されてはいるのだが。
「はぁ、なにかびっくりするような新ネタが入ってくるといいんだけど……」
この時は分からなかった。これから私が最高のネタに出会うなんて……