変わらなかった笑顔
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これだけでも読めますがよかったら「曇った笑顔」もよろしくお願いします^^
『今日、会えない……か?』
元恋人で、今は人の旦那からの急な連絡。
俺の連絡先を教えてから、わずか1週間の出来事。
「久しぶり、渉」
「あぁ」
1週間前会ったけど、と心の中でだけ言う。
「急に悪かったな」
「別に。どうせ暇だし。俺こそ汚い家で悪い」
5年前、こいつと別れてからも引っ越せなかったマンション。
「……」
「……」
お互い、何を話すわけでもなく無言になる。
「……急に連絡してくるってことは用事があるわけ?」
先に言葉をきりだしたのは俺だった。
「いや、ただ話したかったんだ。……先週はあまり話せなかったし」
そりゃ、結婚式の会場、しかも新婦の目の前で俺なんかと話せるわけないよな。
新婦も驚きだろうよ。まさか夫に男の元恋人がいるなんて知ったら。
「結婚おめでとうございます」
「あ、ありがとう」
「……」
「……」
やはり、すぐに会話が止まる。
「……5年前はごめん」
「別にもういい」
5年前、急に付き合い始めた、と言いだしたことだろう。
「それにしても、渉……誰とも付き合ってないのか」
「悪い? それもおまえにはもう関係ないだろ」
「いや、俺が結婚するぐらいだから。おまえ、昔からもてるから、さ」
それなら……。それなら俺のこと手放すなよ。
思わず、ガキみたいな考えをする。
「……好きな奴に振られたんだぞ。そんなに簡単に気持ち切り替えられるかよ」
「……」
「それで、連絡がきたと思ったら結婚することになりました、だぞ?」
「……」
「悩みに悩んで出欠も連絡せずに行って」
俺の口から、言葉は止まらない。
「ステージにいる元恋人を見つけて、変わらない姿に思わず涙が出そうになって」
言わなくていいのに。そんなこと、言いたくないのに。
「話しかけられて、名前を呼ばれて、笑った顔見せられて」
「……」
「嬉しかったんだよ! だけど悲しかったんだよ。俺に気を使ったみたいな曇った笑顔見せやがって」
「……」
「改めて好きだったんだな、って実感させられるし。それよりも、あぁ、好きなんだな、とかバカなこと思わせられるし」
黙れ、黙れ、黙れ。
「帰り際に見た笑顔は曇ってなかったよ。久々に見たよ。あの笑顔を曇らせたのは俺なのかよ」
「……渉」
「わかってるよ。おまえは5年で変わったよ。大切なところは変わらずに、いらない所だけは変わったよ」
それなのに、俺はガキのままなのか。
昔と同じで我がままで。
おまえといると疲れるよ、とため息を疲れた時のままなのか。
「渉、少し黙れよ」
「悪かったな、うるさくて。ガキで」
5年間で、付き合っていた元恋人はだいぶ大人になっていた。
それなのに、本当に俺はなんなんだろうな。
「渉、好きだった」
「……」
「好きだった」
この前、結婚式の会場を後にする時、小さく小さくつぶやいたその言葉。
今度は、俺じゃなくてあいつが言っている。
「俺だって……、好きだったよ」
今度は、俺が小さく言う。
「ごめん、渉。俺がわるかった。だから」
おまえも笑え。
あいつがそう言った。
そう言った時のあいつは笑っていた。
俺が初めてあいつを見たときと変わらない笑顔だった。
「好きだった!」
「俺も好きだった」
「好きだったんだよ!」
あいつの笑顔を見たとき、止まらなくなった。
好きだったんじゃない。好きなんだ。
だけど、言わない。言えない。
「俺も……変わりたいよ」
「変われるさ、渉なら」
おまえにもう1度会えたから、俺も変われるだろうか。
1週間前も思ったこと。だけど、変われなかった。
おまえに“好きだった”と言われた今ならきっと変われるだろう。
あいつの笑っている顔を見ながら、俺もあいつと一緒に笑う。
5年前のあの時も、笑っていればよかった。
まとまっていなくてすみません。
「こいつ」とか「あいつ」とか……。
あわせろよ、というかその前に名前決めろよ、という感じですが。
あえて名前も年齢も書きませんでした。
長くなってすみません。