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天使の羽

さつき

作者: 尾花となみ

 くだらない。

 別に、何かすごい不満があるわけじゃない。

 でも、くだらない。


 学校なんて行きたくない。

 学校の友達なんて面倒くさい。上辺だけの関係。


 この場所で、時間を過ごすほうが有意義だ。

 この場所の、友達の方が信じられる。


 きっと、みんな私と同じ思いを抱えているから。



 「さつき~! 今日、来てるみたいだよ」

 「うっそ、マジ?」呼ばれた私は、友人みどりをせっつく。

 「どこどこ?」

 「あそこ!」そう言って指を指した方向には一人の男性がいる。

 「本当だ・・・格好いい・・・」


 いつものたまり場のゲームセンター。

 気がつけばいつもいる人間同士、つながりが出来てた。


 私さつきと彼女みどりは住んでいる町も、学校も違う。

 でも、同じ年で、さばさばしている所が合い、この場所で会えばいつも一緒に行動していた。


 別にゲームをしに来ている訳じゃない。そりゃメダルのストックはたくさんあるし、プリクラ撮ったりもするけど。


 ただ、来てるだけ。見知った人とたわいも無い会話をして、時間をついやす。

 でも、そんな時間がとっても楽しい。


 「来て! 紹介するよ!」そう言ってみどりは私の手を引っ張る。

 「風月さーん! この子さつき。この間話した」


 「こんにちは」年上の、しかもかなり格好いい男の人を前にちょっと緊張。

 「こんにちは」私の目を見て笑ってくれる。ドキドキ・・・恥ずかしい。でも、嬉しい。


 「みどりちゃんと同じ年だっけ?」

 「そ、そうです!」なんか、声うわずった?


 「僕は風月。二十歳。よろしく」

 「は、はいっ!」またうわずった? どんどん顔が赤くなってる気がする。とてもあげられない。


 「ね? 格好いいでしょ?」そんなこと本人の前で!って思ったらもういなかった。

 離れたところで別の常連さんと話してる。

 「う、うん・・・格好いい・・・」


 「でしょ? 結構狙ってる娘多いみたい。でも、風月さんは興味ないのかなぁ?」

 「え・・・? そっち系・・・?」


 「違うって! 好きな人いるみたいだよ。ってか草食系? あんま教えてくれないけど・・・。なんて言うのかなぁ、不思議な人。ちょっと変わってるかも」

 「ふーん・・・」気になる。知りたい。でも、そんながつがつみどりみたいに聞けないもんな。


 結構人見知りな私。みどりは誰とでもすぐ馴染んで、友達になっちゃう。私にも平気で話しかけて来たし。


 でも、私は違う。


 ここに最初に来たのは、ただの時間稼ぎ。学校サボって、メダルゲームしてた。


 それがいつの間にか日課になっちゃって、同じようにサボってたみどりに話しかけられた。


 『ねぇ? メダル頂戴』それが始めて話した相手に言う言葉? ってちょっと思ったけど、素直にあげてしまった私。

 それから何度か話すようになって、今にいたる。


 ちょっと前に、みどりから超格好いい人がいるって聞いて、すっごく会いたかったんだけど、タイミング悪くてずっと会えなかった。

 それで今日対面。


 マジ格好よかったなぁ。あんな人いるんだ。私の読んでる漫画から出てきたみたいな人。

 好きな人いるのか、残念。やっぱり、大人の女の人なのかな?

 私達みたいな中学生じゃなくって・・・。


 「風月さん帰ちゃったみたいだよ」側にいなかったみどりが帰ってきた。風月さん探しに行ってたんだ。

 「そっか」残念。まぁ、今日はいっか。挨拶できたし。


 「私も帰るよ。今日、親父いるから・・・」

 「そっか、さつきんちお父さん休みなんだ?」


 「らしい。朝からうるさかったよー」

 みどりにバイバイして、ゲーセンでる。


 でも、なんかこのまま帰りたくない気分。

 せっかく風月さんに会えたのに、すぐ帰ってまた父親の小言を聞かなきゃいけないと思うとうんざりする。


 仕事人間の父。小さいころは遊んでもらった記憶もなんとなくあるけど、今となっちゃただうるさいだけ。

 あれしろ、こーしろ。あれするな、これするな。


 マジ、うざい。死んじゃえばいいのに。


 「あれ? さっき会ったさつきちゃん?」いきなり話しかけられ、びっくり。

 呆然と風月さんを見る。


 「な、何やってんですか?」道路の隅にイスを置き、腰掛けている。

 「何って、絵描いてる」


 「絵・・・ですか?」

 「僕こう見えても美大生なんだ。ゲーセンにはなんとなく人間観察。選考人物画だから」そんな平然と言われても・・・。


 「こうやって、道行く人たちを描くのも勉強かな。頼まれたら似顔絵描いたりするけど・・・」

 「そう、なんですか・・・」やっぱり、みどりが言ってた通り、変わった人かも。


 「さつきちゃん、時間ある?」

 「え? だ、大丈夫ですけど・・・」何、なに?お誘い?


 「じゃぁ座って。描きたいな」そう言って簡易的なイスを目の前に立ててくれた。あ、似顔絵ですか。

 でも、まぁ、それはそれで嬉しいかも。

 だって、みどりも知らないことでしょ? ちょっと優越感。


 座ると、風月さんはスケッチブックを取り出し、私の顔をじっと見る。

 そして、鉛筆を持って描こう、とした瞬間、鉛筆が折れた。

 びっくり。すごい握力。そう思って風月さんの顔を見たら・・・。


 「ど、どうしたんですか?」すっごく怖い顔。強張ってる。それでいてつらそうな感じ。

 「さつきちゃん・・・。ごめん、僕の方から誘ったのに。今日は描けないや・・・」


 「え?」

 「さつきちゃん。今日は、寄り道しないで真っ直ぐ家に帰りな」ムカ。なんで急にそんなこと言われなくちゃいけないの?


 私が黙っていると、真面目に、頼んできた。

 「お願いだから、今すぐ家に帰って」あまりに真面目な様子に、ちょっと怖くなった。


 本当、やっぱり変な人。近づかないほうがいいのかも。

 とりあえず返事して、慌ててその場から離れた。


 そんな私を、たぶん、ずっと風月さんは見てたと思う。

 そして、なんとなく、泣いていた気がする・・・。



 おかしいな? 父親も母親も今日は家にいるはずなのに、電気がついてない。

 別に、風月さんに言われたからってわけじゃないけど、遅くなって親父の小言が増えるのも嫌だったから、そのまま帰宅。


 一応ただいまと声をかけるけど、返事はない。

 静まり返った家の中。真っ暗闇で、人のいる気配はない。


 6月、梅雨の時期。締め切った室内は蒸し暑いはずなのに、どこかひんやりとしている。

 とりあえず、電気つけよ。


 リビングの電気をつける。やっぱり誰もいない。変なの。どっか行くって言ってたっけ?

 マンションに住んでるから、2階なんてないし。誰かいたらすぐわかる。


 まぁ、いっか。

 のど渇いたから、ジュースでも飲も。


 そう思って、台所に行くと、テーブルの上に一枚の手紙。

 手紙とは呼べない、走り書きのメモ。


 『お父さんが倒れたので、市立病院に行きます。』たったそれだけ。

 でも、体が震えた。倒れた? 倒れたって・・・いつ?



 「何で携帯つながらないの? 学校に連絡もしたのよ? でも、今日来てないって言うし。お友達にも聞いてもらって、でも、誰も知らないって」そう、泣きながら母は言った。


 私は何も言えない。母の言葉も半分以上聞こえてない。ただ、目だけは動いてる。

 ベットに横たわり、まったく動くことのない父親を凝視している。


 「お父さん、最期にさつきって呼んで・・・・」そんなの知らない。どうして? なんで?

 どうしてこんな急に? なんで今日? どうして? なんで?


 泣きじゃくる母親、動かない父親。その二人から逃げるように、私は病院を飛び出してた。

 分けわかんない。何? どういう事? なんで? どうして?


 ・・・死んだ? 親父が? あの親父が? どうして? なんで?

 死んだ・・・の?


 死んだ・・・。死ぬって何? どういうこと?

 もう動かない。もうしゃべらない。そういう事?


 違う、それだけじゃない。もういない。もうあいつはいない。

 私を怒ることも、ない。


 いいじゃん、別に。死んじゃえって思ってた。うざい、まじいなくなればいいって思ってた。

 でも、やっぱり違うよね? 違うよね?

 そんなこと望んでなかったよね? そんなんじゃないよね?


 違う。別に、いなくなってもいい。私には何も関係ない!!


 「さつきちゃん・・・」

 どうして、なんで現れるの?

 まるで私がここにいることがわかってたみたい。


 「ごめん、ね」

 なんであやまるの? あんたが殺したの?

 違う、病気って言ってたよ。


 「もっと、早くに気づいていれば、間に合ったのに・・・」

 間に合った? 何に? あいつが死ぬ瞬間に?

 私の事呼んだ・・・その時側にいれたって事?


 そんなの別に、どうでもいい。

 その時そこにいたからって、なんか変わったわけ?

 死ぬあいつを見て、どうにかなるの?

 「別に、どうでもいいです」


 「・・・今度こそ。描かせてもらってもいい?」

 今、絵? 何考えてるの? バカじゃないの?

 そう、思ったのに、なぜか頷いてた。


 「君は、信じないと思うけど・・・。僕は、絵を通じて、人の内面が見える時があるんだ」

 「・・・・・・・・・」


 「できたよ」そう言って、風月さんは私に一枚の紙を差し出す。

 受け取った私は、何も言えない。


 本当はわかってた。本当はそう、わかってた。

 でも、素直に認めることができなかっただけ・・・。


 だって、大っ嫌いだと思ってた。

 あんなやつ、死んじゃえって思ってた。


 だって、そう思わなきゃ、寂しくてたまらなかった。

 本当はそう、昔みたいに、優しくしてほしかった。昔みたいに、一緒に遊んで欲しかった。


 普通に、会話をしたかっただけ。普通に、今日あったことを。

 楽しかったこと。悔しかったこと。なんでもいいから普通に話したかった。

 きっと、大好きだったから・・・。


 「風月さん・・・これ・・・」そう言って、彼を見た。けど、そこにはもう誰もいなかった。

 ついさっきまで、私を描いてくれていたのに、誰かいた気配はなく、私一人が、その場に立っていた。


 そして、彼が描いた絵は・・・

 私と、あいつと、母親が、仲良く、楽しそうに、笑い合っていた。



 父親の葬儀の時、私は泣いていた。

 もう、話が出来ない。今までの溝を埋めることがもう出来ないんだ、そう、思ったら、素直に涙が出ていた。


 「うるさい親父死んでラッキージャン」そう言ったのは、みどりだった。

 「いなくなってから気づいても、遅いんだよ」そう、みどりに言ったけど、彼女はわかってくれなかった。

 きっと、私だってそう。全然わかってなかった。


 「さつきちゃん。元気出してね。また一緒に遊ぼう」そう言ってくれたのは、クラスの友達だった。

 クラスの友達は、一緒に泣いて、なんかそれが、嬉しかったし、可笑しくて、二人でちょっと笑った。


 「さつき。今、男の方が、お焼香してくださって・・・。これをさつきに渡してくださいって」

 母から包み紙を受け取る。


 なんだろう? 開けてみる。

「まぁっ」それを見て、母が感極まったように、涙ぐんだ。


 私を中心に、右側に母。そして左側に父。みんな、笑顔で、こっちを見ている。

 『すばらしい家族に、この絵を送ります・・・風月』


 素敵な絵。あの場で描いてもらった絵の何倍も、何十倍も、素敵な絵。

 私は、その絵を持って、母と二人、抱き合い、泣いた。


 もう、父はいないけど、話したいこといっぱいあったけど、大丈夫。

 私、大丈夫だよ。お母さんと二人で頑張るよ。


 ねぇ、お父さん。

 天国で見守っててくれるよね?


 まだまだ心配かけるかもしれないけど、お母さんと二人で、笑顔で過ごしていくから、お父さんも怒らないで、笑顔で見守っててね。


 ね、お父さん。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編として、よくまとまっていますね。正直、この枚数で完結させるのは凄いことだと思います。 また、絵で主人公に語りかける手法も面白いです。 [気になる点] 個人的な主観が入った指摘ですので、…
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