あいすくりんキッドナップ
ASDがアイスクリーム問題をといてみたら、こんなモノができました。
公園に出されたアイスクリーム屋の屋台には、甘くカラフルな装飾が各所に施されていた。
9歳のアメリアーー、ーー通称ミリーちゃんーー、は自分のお財布を覗き込み、少ないお小遣いの中から、買える分だけのアイスの種類を組み合わせて、アイスクリーム屋に支払い、チョコミントアイスを手に取ると、大事そうに舐め始めた。
それを見ていた、友人のボブソン、ボブが「ずるい! 僕も食べたい!」と怒り出す。
彼はさっき、お小遣いをポップコーンを買うために、全て使い切ってしまっていたのだ。
「ひとくち、あげる」
「いやだよ、女の子の食べかけなんか恥ずかしい」
ミリーは、そうだよね、ごめん、とボブに謝る。しかし、チョコミントアイスは舐められ続けていた。
「……、ぼうや」
ゆったりとアイスクリーム屋が、ボブに話し掛けた。
「おじさん、これから教会にいくんだ。そう、今日の午後は教会でのチャリティーイベントがあるからね。数は多く出せないけど、おじさんも少しだけ、そこで無料でアイスを振る舞うんだよ。……どうだい? そこに、もし良かったら来るかい?」
アイスクリーム屋の言葉を聞くと、今度はミリーの表情が曇った。
黙って聞いたけれども、ミリーはくやしかった。折角、計算して本当に欲しいものを買うためにお小遣いを取っておいたのに。タダでボブはアイスを食べられるんだ。そんなの、ずるい。
「へー! やった!! 教会だな、おじさん、ありがと、宿題やったらぜったいに行くよ!!」
ボブは満面の笑顔を弾けさせ、家へ早足で帰っていった。
「……お嬢ちゃんはどうするね、教会に来るかい? サービスするよ、ここで買ってくれたからさ」
アイスクリーム屋はミリーにウィンクをした。
「……行きません。私は、食べたいアイスをもう食べちゃえましたから。ボブにあげてください、私の分も」
ミリーのチョコミントが、垂れて彼女の指に絡みつき始めていた。
ミリーは、ハンカチーフでそれを拭いながら、アイスクリーム屋に少しだけツン、と冷たいやりかたで断りを入れた。
「そっか。きみはいい子だね、えらいし賢いね、うんとラッキーな出来ごとが、これから君に沢山起きると思うよ」
どう言われたって、ただのオセジだとミリーには思えた。
「ありがとうございます」
ミリーも社交辞令で返す。
そして、公園を出ようとした。
そのとき。
「教会もいいけどね、おじさん、これからデパートの前にも行こうと思うよ。売れ行きが悪いからね、この公園では、いまいちね……」
チャリティーイベントで無償で提供する、とボブの前ではそう言ったのに、このおじさんは何を言っているんだろう、とミリーは訝しんだ。
「今からデパートの方に行くからね。じゃあね、お嬢ちゃん」
アイスクリーム屋は、公園から移動した。
ミリーは、何か良くない、気持ちの悪いものを感じながら、アイスクリーム屋の屋台が発車していくのを、モヤモヤと見送った。
アイスクリームはミリーの口の中でドロドロと甘く溶けて、余韻のミントの香りだけが、いつまでも小さくはない主張を繰り返すのだった。
「あそこのアイスは、もう買わない。初めて見るおじさんだったし、そんなに美味しくないもの」
ミリーは喜びではち切れそうになっていたボブの表情筋を思い出しながら、寄り道をせずに家路についた。
☆★☆
「なんだよ、折角きたのにおっちゃん、いないじゃないか」
ボブはアイスクリーム屋が向かうと言った場所に、午後になる前に駆け付けていた。
周りに人影すらもない。
「ちぇ、ここだー、って言ったくせにさぁ、おっちゃん。誰もいないのなんでなんだよ」
アイスクリーム屋が言った場所は『教会』。
午後からは教会に、アイスクリーム屋はいて、催しものでそこは賑わっている、その筈だったのに。
ーーなんにもないじゃないかーー、とボブは怒り始めた。
「なんだよ、つまんないし! アイスがもらえないとか、ありえないだろ」
ボブのつま先に小石が当たった。
「ちぇ、ちぇ、なんだよ!」
ボブは小石を蹴りつける。
小石は蹴られて飛び落ちる。
「……、えい!!」
ボブは落ちた小石を蹴り続けた。
それは子供らしい憂さ晴らしだった。
「えい! えい!!」
歩道を越えて、小石は飛んで、落ちる。
ボブは、それでも石蹴りをやめなかった。
車道に完全に出てしまう、その一歩手前で……。
「あーあ、危ないなぁ坊や」
「あ!」
ボブの表情筋がパカーンと愉しみに溢れ、パチパチと拍手をするように分かりやすく笑い始める。
「アイスクリームのおっちゃんじゃん! なーんだ、来てるんなら言えよなー、ガッカリしてたんだぞ!!」
ボブはアイスクリーム屋の店主に駆け寄り、背の高い老年男性である彼の黒い衣服を見上げた。
「で、で、アイスクリーム! アイス、どこなんだよ、なぁ、お店はどこ?! 僕、宿題マッハで終わらせたんだぜ! ママがなんかうるさかったけど、そんなんムシだし!! アイスクリーム! なぁ早く、くれよ! アイス、アイス!!」
「……あげるよ……、君には特別なアイスクリームを用意しようね……、さぁ、お店は、こっち……。おいで、坊や……」
やったー! とボブは歓声をあげた。
アイスクリーム屋は、ボブの手を取る。
ボブは喜んで引かれて行った。
☆★☆
「……速報です。連続して起きている児童誘拐事件、犯人は男……、らしい? とのことです、警察の捜査によりますと、犯人は……」
ミリーは友だちのボブが学校に来なくなった理由が、大人になるまで、わからなかった。
彼女が事件の真相の全体図を把握できたのは、十六歳を過ぎた、熱い初夏の昼間だった。
「わたし……、危なかったんだ……試されてた……」
ミリーは、キッチンで自作のチョコチップクッキーと、淹れたばかりで煙をたてている温かいミントティーの香りとに包まれながら、もう戻らない幼い友人と、自身の身に起きたことの詳細を思い返した。
そうして、うっ、と口を押さえたが、堪えきれずにしばらくシンクで吐き戻して、激しく嗚咽した。
戸惑う自身の母親の胸に抱かれながら、久しぶりに子供のように、ミリーは眠りの世界へ意識を落としていったのだった。
★☆★
ボブとミリーの住む住宅街は、大昔には密かな信仰がしっかりと根付いていた。
しかしもう、お祈りを捧げられる教会は、実はどこにもこの住宅街には無かったのだ。
中世以前に廃教会になったオバケ屋敷がひとつ、この近辺の森深くに佇むばかりであるだけだった……。
↓アイスクリーム問題をといたあとの私の第一声↓
「犯人はアイスクリーム屋だ!」
事件性感じるじゃん、だって。




