私はバカ王子
長編を書くための息抜き作品です。
後に国王になった男の一人語り。
なるべく固有名詞を出したくなくて一人だけ名前がついています。
はっきり言って私はバカである。
幼少期から行われた帝王学に国の法律、国の歴史に四則演算、各領地に関する情報と周辺各国の関係性と情勢。
頭にいろいろと詰め込まれてきたが、理解しているかと言われるとNOと言わざるを得ない。
教えられたことは右から左に抜け落ち、その日のうちのテストであれば合格できるかもしれないが、翌日には忘れている。
さすがに簡単な四則演算はできるが、3ケタを超えると乗算除算は途端に怪しくなる。
だが、王国に男児は私だけだ。
将来国王となるために、婚約者である公爵令嬢と側近たちが付いたことで立太子したというのが私の実情だ。
自分でも思う。
国王の器ではない。
婚約者と側近たちが居なければ、まともな判断などできないのだから。
「それをご理解されているのであれば問題ないと思いますよ」
この日は婚約者であるエリザベスと茶をしていた。
公務の間の休憩であり、王太子執務室の応接机での茶だ。
「少なくとも、殿下は茶会をすっぽかしたり、他の女性に意識を向けたりされませんし、苦手だと言いながらも公務をお逃げにもなりませんもの」
「だがこないだの書面だって素案は側近が考えベスが整えてくれたものを私が清書しただけだ。ほとんどの功績はそなたらだろう」
「そう思っていただけていることが重要なのですよ殿下」
そういってエリザベスは微笑んでくれる。
こんな出来の悪い私の婚約者でいてくれる彼女には感謝しかない。
あと数日すれば彼女と正式に婚姻する。
美しい彼女を抱くことができるわけだが、どうしても申し訳なさが先に来てしまうのだ。
「貴族の派閥争いはございますし、他国との関係も良い物ばかりではございません。それでも国として私たちは団結しているのです。わたくしだって一人で何でもできるわけではございませんよ?できない事を補い合うのが政であり、国という組織ですわよ」
そういって茶でのどを潤すエリザベスの所作はとても美しい。
私だって勉強は苦手だが、そういった王族としての所作だとか威厳を出す雰囲気だとかは十分に備わっている。
だが、彼女の前では素直でいたいのだ。
それが誠意というものだろうと思っている。
支えられることが当たり前ではないのだ。
それぐらいバカの私でもわかる。
そして、支えられていなければ王太子、のちの国王など勤まらないことぐらい嫌でもわかっているのだ。
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私はバカである。
だが、表でも裏でも私を無能だのバカだのというものはいないし、そのような噂も聞かない。
臣下の話をよく聞き、善政を敷く王だと言われる。
国民の中には私のことを賢王だというものがいる。
確かに、直接会ったことのない平民たちからすれば、本来の私がどういう人間であるかわかることは無いだろう。
無能ではないと思いたいが、私はやはり勉強は苦手だ。
物覚えは悪い。
夜会においても側近やベスのサポートがなければ伯爵家以下の貴族の顔と名前は一致しないのだ。
だから私は必ず人の話を聞く事にしている。
ベスの言葉、側近の言葉、国内の協議であれば双方の言い分、外国との交渉であれば我が国の外務大臣だけでなく、訪問したりされたりした相手の王族との話をだ。
そして、それをベスや側近たちに伝え、共に考え決断する。
私は国王になってからも自分はバカだと思っている。
だから皆に迷惑をかける。
だから迷惑をかけた分、それには必ず報いる。報酬なり昇進なり贈り物なりでだ。
おかげで皆が私を支えるのをやめないでいてくれる。
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私は、妻であり王妃であるエリザベスとの間には2男1女をもうけることができた。
父も母も喜んでくれた。
臣下も安心してくれた。
王の血がちゃんと受け継がれると。
私は自分がバカであることを理解している。
だから子供たちにもそれを正しく伝えた。
「私のことを賢王と呼ぶ人がいるかもしれないが、それは違う。私はベスや宰相、側近たちに支えられてやっと王としての体裁をたもっている。人は一人で完璧な人間にはなれない。周りを頼りなさい」
二人の王子と一人の王女の教育に私は直接かかわらなかった。
だが、子供たちが挫折しそうになった時には必ず、上記の話をした。
全部が全部できる必要はない。
一人で判断が難しければ相談して決断すればよいのだ。
私は自分がバカだからこそ思う。
人は一人では生きられないというのは、まさに一人の人間がすべてを完ぺきにこなすことなどできないという事の裏返しなのではないかと。
自分が国王になりわかったことは、幼少期完璧だと思っていた父も、一人の人間であり何もかも自分一人で出来る男ではなかったという事だ。
母に助けられ、当時の宰相に助けられ、それで国を回していた。
少なくとも私より頭が良かったことは間違いないが。
だが、それは少なからずあった私自身が持つ劣等感を溶かしていった。
私はバカである。
それを自ら認め、であればどうするかを考えられることが、最も大切なのだから。




