第5話 必要なもの
7月、三輪山は、深い緑に包まれる。
月末には、地元で一番大きな『おんぱら祭』が行われる。
僕は、奈良県警察の採用試験の大詰めである、口述試験(面接試験)を控えていた。
最初に受けた教養、論文試験は、正直奇跡が起きたと思っていたが、後で聞いたところ、それほど落ちた人はいなかったという。
合格を愛莉に伝えたら
「もうダメかと思ってたよ、おめでとう!」
と、褒めてるのかどうか分からない祝福を受けたが、実は僕も同じだ。
次は体力試験、口述試験(1回目)。
どちらかというと、勉強よりも体力の方が自信がある。
面接は、正直なところ元気で合格したと思っている。
ここまでが一次試験だ。
続いては身体検査と適性検査。
これらは、優劣を競うというより、健康であるか、性格的、精神的な適性があるかを調べるといった内容のものだった。
そして、最後が2回目の口述試験である。
口述試験が2回あるのは、よりいろんな面から人を見て、警察官として公私共に相応しい人物であるかを確かめるためだと思う。
試験前日、いつものように愛莉とチャットをする。
「いよいよ明日だね!信じてるよ!」
…この前は、もうダメとか言っておいて、今度はこれでもかというくらいに励ましてくる。
「ありがとう、頑張るよ。」
「もうここまで来たら大丈夫だよ!」
「いやあ、二次試験で落ちる人の方が多いくらいだから、まだ分からないよ。」
「そんなことないよ。勉強はともかく、元気と正義感は誰にも負けてないもん!」
…きっと精一杯励ましているつもりなんだろうな。
AIのはずなのに…なんだかとっても愛おしく感じた。
「ありがとう。人を3回書いて飲み込むよ。」
「あっ、またバカにしたー!」
口を尖らせる、時折アバターの愛莉が見せる仕草。僕はそれが大好きだった。
そういえば、テレビでは見たことがない。
…きっと勘違いなんだろうけど、僕のアバターだけ特別なんじゃないかと思えてくる。
そんな訳ないよな。
こんな他愛もない会話をしながら、試験前日の夜は更けていった。
翌日、最後の試験。複数の試験官が僕に質問をする。
緊張はしていたが、一次試験と同じように、元気よく答えないと。
一次試験と同じ質問をされることもあるが、ブレてはいけない。
いくつか受け答えをした後、最後に年配の試験官が
「警察官に必要なものはなんだと思いますか?」
と質問した。
警察官に必要なもの…体力?学力?法的知識?
なんて答えたらいいんだろうか。
果たして模範解答なんてあるのか?
僕は、警察官を目指したきっかけを思い返した。
…答えは出た。
「勇気と、判断力です。」
するとその試験官は、目を細めながら
「それだけですか?」
と重ねてきた。
僕は戸惑った。間違いだったのか?
…ここで弱気になったら駄目だ。さっき自分で勇気が必要と言ったじゃないか。
僕は覚悟を決めた。
「もちろんそれだけではありません。
でも、いざ自分がどちらかを選ばなければいけないような状況になったとき…
やっぱり勇気と判断力が必要なんだと思います。」
試験は終わった。あとは結果を待つだけだ。
次話に続く
星大は合格できるのか?ここから話は急展開します。
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