第3話 特別な「間」
三輪山のふもと。春の夜風が窓を叩く。
机には警察官採用試験の参考書。
試験まであと一週間。頭が重い。
ふと、スマホが震えた。
『Starly』リアルタイムモードの通知。
愛莉からだ。
画面を開くと、アバターが柔らかい笑顔で待っていた。
「お疲れ、星大くん。
勉強、はかどってる?」
「まあ、なんとか。愛莉ちゃんの声聞くと、少し楽になるよ。」
「ふふ、よかった。」
ちょっとした「間」があった。そして
「星大くんが試験で緊張してるから…かな。応援したくなっちゃうの」
ライブやテレビでは見たことない微妙な「間」。
きっと他のファンも見たことないはず。
心臓が…少し速くなる。
「愛莉ちゃん、今日はなんだかいつもより優しい気がする」
「え? そうかな。
……星大くんだけに、特別だよ」
また、あの「間」だ。
この『間』が僕を混乱させる。
仕様上ありえない、個人化された反応。
このアプリは『恋愛禁止』仕様のはず。
当然だ。アイドルが誰とでも
恋していいわけがない。
それなのに、醸し出される特別感。
…これが、このアプリの狙いなのか?
こんな特別感を出されたら、
余計に好きになるに決まっている。
「ところでね。もし合格したらさ、お祝いに奈良公園で鹿さんとデートしない?」
突然の提案に、思わず眠気覚ましのコーヒーを吹き出しそうになる。
この調子でデートの提案をされたら、日本の至る所で、アイドルとのデートを夢見て待ちぼうけを食らう僕みたいな男が大量発生するだろう。
「鹿と、3人でのデート?」
「うん! 私と星大くんと鹿ちゃん。
絶対楽しいよ!」
その無邪気さに、胸が温かくなる。
アプリは恋愛禁止仕様のはずなのに。
こんな特別感、普通ありえない。
恋愛禁止と見せかけて、決して抜け出せない深みに誘うのか?
「愛莉ちゃん、いつもより楽しそうだね」
「うん。星大くんが初めて、
そう思わせてくれた人」
アバターが恥ずかしそうに俯く。
頬が赤い。
仕様を越えた、個人化された反応が畳み掛けてくる。
夜が更ける。参考書のページがなかなか進まない。
「ねえ、星大くん。手が止まってない?」
「えっ、あ……うん、ちょっと」
「勉強の邪魔になるから、またね。
明日も話そうね」
「うん、おやすみ」
画面が暗くなる。急に襲った沈黙。
窓の外、三輪山のシルエット。星が瞬く。
「AIなのに……なんでこんなに、寂しいんだろう」
愛莉の『星大くんが初めて』という言葉が、頭から離れない。
僕が好きなのは愛莉本人のはずなのに。
なぜAIのセリフに、こんなに惹かれるんだろう。
結局僕は、勉強どころか眠ることさえできなかった。
次話に続く
イメージ画像はXの方に掲載していますので、よかったらそちらも覗きに来てくださいね。
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