過去に触る
怕維人の施設で子供を探しているシーンは今は何言ってるかわからないと思うので、
「へー、はいはい。」と言う感じで読んでください。
「........うっ、」
青い顔をしている怕維人は手で口を押さえて、吐き気を抑える。
「なによあれ........あんなんが本当に自他ともに認める最強なの?」
その姿を見ていた夕夏が引いたような目つきで怕維人を見る。
その隣にいた賢雄も苦笑いで答える。
「ん~.....実際どうなんだろうね?」
どう見てもあれが最強だと思うことが二人にはできない。
富山空港からバスに揺られること25分。
その25分の間で怕維人は車酔いをしてしまったのだ。
よりにもよってこの場所、富山駅は人通りも多い。
ずっと下をうつむいている怕維人を駅の窓から、または通りすがりに見る人々。
明らかに特殊部隊という秘密さを丸無視した公開処刑。
そこに良治に頼まれて薬を買いに行った妹の思零が、
駅近くのドラックストアから帰ってくる。
「思零!......薬買ってきた?」
「うん........はい、兄ちゃん。」
思零は袋から薬を取り出し、兄に渡す。
その兄である良治は、怕維人に水と薬を飲ませる。
「........んっ、ぱぁっ....はぁ、生き返るぅ~」
怕維人完全復活。
しかし、あと数秒遅れていれば怕維人は口から虹が流れ出ていただろう。
みんなが安心して駅のホームに向かおうとしたとき、
鳳翔が疑問の声を上げる。
「凄いですね.......こんなに即効性があるなんて。」
足が止まる。
みんなが鳳翔を振り向き、固まる。
普通、酔い止めには即効性は無く、一時間後くらいから効き始める。
しかし、怕維人は一瞬で治った。
明らかにおかしい。
みんなが恐る恐る視界に入れた物は...........
「えっ、私?」
「思零、お前何の薬買ってきた?」
「え~と、たしか..........
そう言って思零はポケットから薬が入っていた袋を取り出す。
そこに書かれていたのは.........
「あっ、下剤だって.......効きがいいんだね。」
ぎゅるるると怕維人のお腹がなった。
◇◇◇◇◇
賢雄たちが酔った怕維人の手当てをしていたころ。
「はぁ~あ”.........いつまでこのカメラ見続けてたらいいの.......」
ここは警察庁の全国治安維持部、別名PUC。
そこで、モニターとにらめっこ状態の女。
名前は凩紅葉。年齢は26歳のもうすぐアラサーというべきところだ。
そんな紅葉は先週からある場所の防犯カメラをほぼ不眠不休の状態で見ていた。
その場所こそ賢雄たちが行く、黒部ダム周辺地域の防犯カメラ。
約24台あるカメラを10秒ずつ切り替えながら見ていく。
目にも心にも悪影響がある仕事内容だ。
その仕事にイラつきつつも、すきを見計らってスマホを開く。
「ったく..........なにが『ブラックラーメンなう!』だよ⁉︎
ふざけんのもたいがいにしろよ、あのバカ眼帯が.......」
あまりに大きい声だったので、
奥にいる上司から「紅葉!」という怒声が飛んでくる。
それを無視して、見ていたものは怕維人から50分ほど前に送られたメールの内容。
『ブラックラーメンなう!』という文言の下にはみんなとの
食事の画像が添付されている。
それを見て深いため息をついた紅葉は、またモニターに視界を移す。
何も変化のないモニター。
上からの命令で『怪しい集団』見つけたら、
すぐにパケットに報告せよと言われている。
しかし、一向にそれらしきものは現れない。
めんどくさくなった紅葉が、この後どうサボろうか考えていたとき.......
ピロンッ!という軽快な音がスマホから鳴る。
奥からまた怒声が飛んでくる。
やっべ!と思いつつ、携帯の電源を消そうとしたところメールの内容が目に入る。
送り主は小早川新美、高校の時の先輩からだった。
その内容は........
『あの怕維人が下剤を飲んで腹を壊した。出発が遅れる...........すまない。』
新美らしい簡潔に書かれた文章。
それに紅葉は一週間ぶりに笑みがこぼれる。
『ざまぁ、って言っといてくださいw』
そう本音を返信する。
少し笑ったことで疲れが飛んだ紅葉はまた仕事を始める。
仕事に戻るまでの時間、およそ30秒に満たない短い間。
ここでモニターを見続けていれば何か変わったのだろうか?
彼女は気づかなかった。
カメラを横切る集団を............
◇◇◇◇◇
ガタンッと規則的に揺れる電車。
怕維人の下痢が治り、賢雄たちは富山地方鉄道に乗り立山駅を目指していた。
いろいろとトラブルあったが、ようやくここまで来た。
良治の言うとおりだと立山駅に着いたら
近くの『グリーンビュー立山』というホテルに泊まるらしい。
それを聞いてほっとした賢雄。
電車内でどのような部屋か考えようとしたところ........
[ち、近い..........]
蜂と体と体がぶつかるぐらいの距離になっていた。
そもそもこの電車自体が混みあっているため、座るとこうなっていしまう。
できるだけ蜂に触れないように、気を付けていたところに
その蜂自身から声をかけてくる。
「...........せまくない?」
その青く染まった瞳が賢雄を見つめる。
それはまるで常にだれかを心配しているような感じの色合い。
賢雄自身もわかっているが.........わかっているが!
「.............」
無視をして顔をそらしてしまう。
当たり前だ。
威勢がこの距離で語りかけてきて、挙句の果てに見つめてくる.........
思春期の男子にはこれほど恥ずかしいことはないだろう。
そんなこんなで無視する賢雄を不思議に思い、蜂は賢雄の肩をたたく。
「..........ぅ.....」
今度は変な声を上げて、肩をぶるると振るわせる賢雄。
ここでもし夕夏だったら、面白がってしつこくしてくるが......
「...........寒いの?.......」
蜂が首を傾げながら尋ねてくる。
おそらく「そんなに身震いして、寒いの?.......大丈夫?」と言いたいのだろう。
そう予測した賢雄はそれだけでも返事をしようと顔を向けようとすると........
「…………ん。」
ばさぁと上から何か覆いかぶさる。
疑問に思っている賢雄が、それを取って見る。
その正体はもこもことしたコート。
明らかに女性用だ。
そしてそれは見覚えがある。
そう、今隣にいる蜂のものだ。
「えっ..............」
賢雄が驚いて蜂を見ると、彼女は確かにコートを脱いでいた。
「えっ、ちょっ、何して........」
「着てて。」
「えっ?」
「着てていいよ。」
「わ、悪いよ!それに、蜂だって寒いでしょ?......ほら。」
サクッと畳んで返そうとする賢雄。
しかし、それを止める蜂。
「風邪はダメ。」
たった5文字でありながらも思いが伝わり、申し訳なくなる。
この状況をどう打破しようか考えていた賢雄に、一つ作が思い浮かぶ。
「じゃあさ..........」
そう言いながら賢雄は自分の身につけているマフラーを蜂に掛ける。
「これでおあいこだろ.........?
お前にも風邪をひかれたら困る。」
そう顔を赤めながら言う賢雄を蜂はじっと見る。
じっと見た後、
「.........ふっ、ふ。」
我慢できずに吹き出してしまった。
「な、何だよ。」
さらに恥ずかしくなる賢雄がぶっきらぼうに言うと、蜂はスマホを見せる。
『カッコつけなくても良いんだよ?』
メモ帳に書かれているその文は賢雄の心をずだずたにする。
「........。」
黙り込んでしまう賢雄。
それに釣られて2人の周りの空気が静かさをまとう。
聞こえるのは電車内に響く周りの話し声だけ.......
そんな状態が十数秒続いた。
居心地が悪くなったのか分からないが、ここで蜂が口を開く。
「...........なんで?」
「えっ?」
唐突に言われたなんで?という言葉。
その三文字が賢雄を思考の渦に巻き込む。
「なんでって..............何が?」
賢雄が蜂に問うと、蜂はスマホを取り出しポチポチと文字を打っていく。
普段は紙でやり取りしているため新鮮さを感じる賢雄。
そして、打ち終わったのかスマホの画面を見せてくる。
そこに書かれていたのは.........
『何でこの学校に入ったの?』
という文が簡潔に書かれていた。
その文は、なぜ賢雄はパケットを目指しているのか.........
そうとも読み取れる。
この話題は蜂にとっては「今日いい天気だね。」ぐらいのテンションなのだろう。
しかし、賢雄にとってはあまり話したくはないことだった。
誰が言えるだろうか、復讐のために入りましたと........
とても胸を張って言える内容ではない。
「.........う~ん......カッコいいからかな?」
賢雄は苦笑いをしながら答える。
言ったところで何も変わらない。
そのため、言う必要性が全くない。
これは自分の中に秘めておこう。そう思ったが.............
「..........噓つき。」
「へっ?」
「絶対うそ。」
「.............何が?」
賢雄はそう言って首をかしげていると、蜂は人差し指を賢雄の鼻に押し当てる。
「イタっ、ちょ、なにして.........」
「..............ごまかしてる。」
少し潤った青い瞳が賢雄の目をじっと見つめる。
「ご、ごまかしてなんかないよ!」
そう弁解するが、蜂はもう確信してしまっている。
そのため左手で賢雄、右手で自分を指すと.........
「........ペアだよ。」
四文字、たった四文字つぶやいた。
しかし、その言の葉は賢雄の心に深くつきささる。
まるで賢雄の心を葉の先でくすぐるように.......
蜂はその間も賢雄をじっと見つめる。
見つめて、見続けている。
「.......言って。」
最後にひと押しそう言う。
ふわっとした優しい言葉の数々、それらが賢雄の心をもみほぐしていく。
「.............ふ、笑うなよ?.......たいした話じゃないんだ.......」
「うん、それでも........」
賢雄は話し始める。
崩れた過去とこれからの未来のことを..........
◇◇◇◇◇
賢雄は話していた。
永遠と感じられるバスの中をさまようように話す。
その一つ一つを隣にいる少女は優しく相槌を打ちながら聞いていた。
「........な?.......たいした話じゃないだろ?」
すべてを話した。
家族のことWITAのこと、そして今までの自分のこと。
学校でやった相談の体験談のようにはいかず、
話しても心は軽くなるどころか、重くなっていた。
そんなどこか暗い表情をしている賢雄を蜂はじっと見つめる。
「.........尊敬する。」
「.............そうか?」
「うん、とても.........」
「復讐なんてみっともないと思うけど........」
賢雄は申し訳なく思いながらそう言う。
しかし、蜂は考える。
「そこじゃない。」
「.......どういうこと?」
蜂の言った言葉に疑問を抱いていると、蜂は素早くスマホに打ち込む。
『家族のために頑張っていることだよ。』
蜂は考える。
朝早く新聞紙を配り、自分も学校があるのに妹の世話をして、
さらには寝る間も惜しんで公立の学校に行くための勉強を続けた。
蜂自身には到底できないことだ。
そもそも持ち合わせている物自体が違うのだろう。
そんなことを考えていると、自分がばかばかしくなってきた。
「.........そ、そうか?」
恐れながらも賢雄が聞いてくる。
『うん、賢雄は頑張ってる。』
蜂はそう言って賢雄の背中をポンポンと2回優しく叩く。
「はは、ありがとう。」
賢雄が小っ恥ずかしく言う。
女の子に励まされるなんて、賢雄にとってはこれが最初のことだ。
そんなことを考えるとさらに恥ずかしさに拍車をかけた。
その姿をじっと眺めていた蜂は、少しためらいながらも話し出す。
「..........賢雄」
「ん?」
「..………あのね、わたし......」
蜂も話す。
まるで自分の過去を紐解くように......
◆◆◆◆◆
石鳥蜂と言う女の子は普通の男性とバツイチの母との間に生まれた。
生まれつき体が小さく、脆弱な体で何をするにも人の助けが必要。
しかし、それでも両親は蜂に愛を注いで育てた。
そう、あの時までは..........
「........蜂さんには鼓膜がありません。」
目の前にいる白衣の医者はそう告げた。
「えっ?.........う、嘘ですよね先生?」
最近になって蜂が名前を呼んでも来ないため検査に行ったらこの有様だ。
「え、えっ?…………も、もう一度お願いします。」
「申し訳ございませんが………蜂さんには生まれつき鼓膜がありません。
つまりろう者(音が聞こえない人)です。」
母は医者の言葉を聞いて絶句しているが、
当の蜂は母の膝の上で母の顔を覗くばかりで何も変化がない。
「……な、治せるんですよね⁉︎」
母は一途の希望で医者に問う。
すると、医者の顔がみるみる曇っていく。
「……生まれつきですから、治す以前の問題です。
ですが………一つだけ手段があります。」
「そ、それは一体?」
母親は恐る恐る聞く。
「人工鼓膜です。」
「じんこうこまく.....?」
「はい、蜂さんの耳に人工の鼓膜を取り付けます。」
淡々と恐ろしいことを述べる医者に母親は拒絶感を抱く。
「それで、聞こえるようになりますか?」
「………可能性は低いでしょう。」
「なんで!?」
声を荒げる母親を医者の隣にいる看護師がなだめる。
そして、押さえつけられた母親は頭を抱えながら椅子に座る。
段々と深刻化する話に頭を痛める母親。
そんな母親を蜂は下から覗き込む。
蜂本人はこの会話が自分自身のことなのだとわからないのだろう。
途中途中で「キャッ!キャッ!」と楽しそうに笑っている。
「今、蜂さんは何歳でしたっけ?」
「ご、3歳です。」
その言葉に医者はパソコンのモニターを見ながら頭を掻きむしる。
「蜂さんのようなケースは今までに無いんです。
……だから、通常の手術と違うことをしなくてはなりません。」
「しゅ、手術…………」
不意に出てきた『手術』というワードが母親の頭を駆け回り、
不安感をより一層煽っていく。
「ひ、費用は?」
「これは私の推測ですが……手術費と入院費などで400万、
それに蜂さんには特別な手術を施さなくてはならなくてプラスで200万ほど…」
「合わせて600万ですかっ!?」
あまりの高額さに腰が抜ける母親。
600万なんてそんなもの用意できるはずがない。
しかし、用意できなければ蜂が………
その二つが頭の中でせめぎ合って、母親の思考を鈍らす。
「石鳥さん。」
そう医者は母親の名前を呼ぶ。
「私個人の意見ですが、耳の手術というものは危険を伴います。
例えば、神経を切ってしまって耳どころではなくなったり、
脳も近いので脳にも影響が及ぶ可能性が……
そうなるよりかは蜂さんはこのままの素の状態のほうがいいと思います。」
◆◆◆◆◆
蜂の母親は雨の中を歩いていた。
あの医者は困ったらまたきてくださいと言っていたがそれは無いだろう。
なぜなら........
もう置いてきたのだから。
母親の腕に少女の姿は無かった。
◆◆◆◆◆
七里怕維人は子供と関わるのが好きだったのか
保護施設に来ては子供達と遊ぶ自称ボランティア(?)みたいなことをしていた。
そして、彼は今ある保護施設に来ている。
「ここで終われば良いんだけどな.......」
そんな淡い希望を抱きながら、怕維人は施設のドアを開ける。
すると、ドアを開けた音に反応したのか子供たちがやってくる。
「.......うわー、おじさんだれ?」
「だれ?」「だれなの?」
そう子供たちに問い詰められる怕維人。
なんとか悪い印象を抱かれないように笑顔を作ると………
「やぁ、みんな!悪いね、大人の人はいるかい?」
「うん、いるよ!僕呼んでくる。」
見た目的に活発そうな男の子が走って奥に消えていく。
それに釣られたのか、みんなも呼ぶために走って行ってしまった。
(……行ったか?)
怕維人は周りを確認すると、下駄箱をトントンと叩き今は11人いることを確認する。
周りから見たらいかにも怪しそうな行動だが、これには意味も理由もあった。
(女の子用の靴が………3足か。)
真面目そうな顔の怕維人が顔を上げると同時に廊下の横の扉から
明らかに優しそうなお婆さんが出てきた。
「あら、いらっしゃいませ。」
「いきなりすいません.......あの〜、ある子を探しにきたのですが………」
怕維人は若干声を高くして、下手に出ながら話す。
その怕維人の姿を見たお婆さんは
新しい里親候補がきたと思い、目を輝かせながら言う。
「おやおや、そういうことかい?
……それで、探しているのはどういう子なんだい?」
お婆さんがそよ風のような、優しく小さい声で怕維人に聞く。
それを聞いた怕維人はにこやかに言う。
「じゃあ………ここに『七里怕維人』って名前の子供はいますか?」
「しちりはいと?……こりゃまた珍しい名前だね。
でも、うちにはいないなぁ…ごめんねぇ。」
怕維人が言った要望に応えられず、落ち込むお婆さんを見て
怕維人は慌てて次の候補を言う。
「あ、えっとね………それじゃあ、難聴な子はいますか?」
次の問いはおばあさんに心当たりがあったらしい。
お婆さんは手を打つと、小走りで奥に消えて行った。
1人残された怕維人はソワソワしながら待っていると
ふと、視界に玄関の棚に飾っているピンクのバーヘナが入る。
一輪一輪が際立っていて、とても甘い香りがしそうだった。
そして、バーヘナと睨めっこ状態だった怕維人にお目当ての子がやってくる。
「……この子だよ。」
お婆さんが後ろを振り向きながらそう紹介する。
顔の半分だけ見えるその子は銀髪をした可愛い女の子だった。
しかし、よく見えないため怕維人が覗こうと横にずれると………
「…………」
「あっ、」
スッとまたお婆さんの後ろに隠れてしまう。
分かる人には分かるだろう。
これの繰り返しだ。
怕維人が横にずれると、それに合わせてずれてくる。
だが、これにも終わりが来る。
一周した後、お婆さんが女の子の体を引っ張り前に持ってくる。
それと同時に怕維人も怖がらせてはいけないとしゃがみ込む。
同じ目線の高さになることで女の子の青い瞳が光に反射して、
宝石のように光り輝いているように見える。
「きみ、お名前は?」
怕維人は首を横に傾けながら笑顔で言う。
しかし、女の子からの返答がない。
よく見ると、何かに戸惑っている様子だった。
なんだ?俺に何かついてるのか?そう考える怕維人は
自分の体をペタペタと触れているうちにある事に気づく。
「………あっ!あ〜ごめん耳が聞こえないんだった。」
そうして自分の過ちに気づき、胸ポケットから紙を取り出して書いていく。
『きみ、いまなんさい?』
そう書いた紙を女の子の前で見せると、女の子は指で5本の指を大きく開く。
『5さい?』
こくっと首を振るのを確認すると、怕維人はメモ帳を取り出し
『難聴』『5歳』『女』の項目に丸をつける。
そして、怕維人はさらに質問をしていく。
『おなまえは?』
そう聞くと、女の子は先が丸っこい鉛筆を使って
その質問の下に答えを書いていく。
丁寧にゆっくりと書く女の子に、怕維人は急かさず静かに見ている。
そして、書き終わったのか紙をバッと怕維人の前に掲げる。
『いしとり はち』
紙にはそう書かれていた。
「えっ?…………どゆこと?」
怕維人の頭に混乱という物質が入り込む。
最初はこのお婆さんが勘違いしているのかと怕維人は思ったが、
蓋を開けてみるとこうだった。
最初から最後まで怕維人の哀れな希望だった。
「はぁ…………いしとりはち、ね。」
いしとりはち、それが目の前の少女の名前…………
(ここも……ボツかぁ。それにしてもこの子の名前は漢字でどう書く…………‼︎)
その瞬間に怕維人の頭では、点が線に、線が広がり、全てが繋がっていく。
全てを理解した怕維人は諦めかけていた頭を再稼働して、もう一度質問する。
『きみのなまえは、いしとりはちでまちがいないね?』
『?……そうだけど?』
そうと決まれば話は早い。
怕維人はパッと立ち上がると、おばあさんの方を向いて言った。
「俺、この子の里親になります!」
お婆さんはにっこりと笑うと蜂に顔を向ける。
蜂自身は理解できていなそうだが、お婆さんにつられて笑い出す。
その笑顔は太陽のように明るかった。
◆◆◆◆◆
蜂は終始にかけて、ゆっくりと丁寧に賢雄に分かりやすく書いていた。
それは話を読んでいくにつれて、蜂の深く深くに潜っていく
そんなような錯覚をもたらしていた。
「蜂。」
賢雄が肩を叩きながら蜂に呼びかける。
「耳が聞こえないのにどうやって知ったの?」
話の中で唯一あった不明点。
すると、蜂はさらさらと書き始める。
『これは怕維人先生に引き取られてから先生から聞いたの。
なんか色々と調べてくれていたっぽくて……』
蜂はそう淡々と説明をしていく。
その顔には色褪せたようななんともいえない感情が隠れているように見える。
賢雄は蜂の話を思い返す。
その頃の蜂は物心がなかったと思うが、
やはり親に捨てられると言うのはショックだったろう。
「........大変だったんだね。」
心の中で思ったことが無意識に溢れ出す。
蜂を見て、この世の中は無常で冷酷なのだと再認識する。
大切なものを守るために他の誰かを傷つける。
揺れる電車に呼応するように賢雄の心も揺れ動いていく。
「…………頑張ろう。」
賢雄は前を向きながら蜂に言う。
その言葉は真っ直ぐに蜂の心に突き刺さる。
「…………うん、あいぼ。」
同じような境遇の2人は決意する。
もう自分たちの日常を壊されないために……
ー「ねぇ、新美。あの2人って付き合ってんのかな?」
「知らん。自分の口で聞いてこい。」ー
書き忘れましたが、課外プログラム時は私服が許可されています。(制服じゃ怪しまれるのでね.......)
あと誤字や脱字、文法の間違い等が多いためできたら連絡をよろしくお願いします。




