獲物理解は初歩の初歩。
くそ長いです。
読むの飽きたら最後の方だけでも読んだらだいたいわかりますよ。
朝風が教室の窓と窓を通り抜けている早い時間帯。
賢雄は教室で本を読んでいた。
元々朝に強く、朝早くから新聞紙配達ができるほどだった。
いつもは鈴や、アルバイトのためこんなに自分に時間はさけないが、
この学校に入ってから自分と向き合えるようになった。
金銭面ではサポートされ、お小遣いもまぁまぁ高い。
今読んでいる本はそれで買った本だ。
そんな好待遇の賢雄だが細かいことを言うと少し疑問があった。
それがこの学校には図書室を含む娯楽が全くないこと。
確かにこの学校はパケットになるためのカリキュラムが
詰めに詰め込まれているため、娯楽に費やす時間がないのだ。
そのため賢雄はこの本を五周くらいしている。
別に外に行って買ってきてもよかったが、
国会議事堂の近くの本屋は政治本しか置いていないため不便なのである。
なので少し歩かないといけない。
そんなことを考えていたら、教室後ろのドアから音がする。
「ねぇ、賢雄何してるの?」
その声の主は夕夏のものだった。
昨日の放課後くらいには名前の呼び捨てであり、ギャルの恐ろしさが知れる。
「本読んでる。」
「えっ、タイトルは?」
「『名取は天下を取りに行け!』だよ。」
それを言った瞬間、夕夏は自分のバックを机に投げこちらに向かって走ってくる。
「読んでる?読んでるよね⁉いや~その本いいよね。
私その著者の人のやつ何冊か持ってるから読む?」
「あっ、それは興味ある。」
「でしょ~!!じゃあ今日の放課後私の自室来てね。」
「できたらな。」
「うわ~。それ絶対来ないやつじゃん。」
夕夏が俺を見ながらけらけらと笑う。
しかしこんなにも夕夏が本が好きだと知らなかった賢雄は
面白くなり話を続ける。
「えっ、じゃあ『この実がなる木で、君とまた会いたい』は?」
「そんなの読んでるにきまってるじゃん。めっちゃ感動するよあれ。」
さっきまで静かだった教室に活気が宿る。
やはり本が好きな奴に悪い奴はいない。
そう確信できる。
「......悪い長部智。ちょっとお前のこと勘違いしてた。」
「えっいきなり?......てか、私そんな悪い印象持たれてたの?」
夕夏が疑うようにこちらの顔をうかがってくる。
「ううん、さらに良くなったよ。」
「え?」
「人の話に合った話題、そこから発展させる内容、話のテンポ。
全部気を付けないとできない芸当だよ。」
「えっ、え~。そ、それほどでも~..........」
「この学校最初の友達が長部智でよかったよ。」
「............」
そう言われて夕夏は赤面してしまう。
だれでも異性から褒められると恥ずかしくなるものだ。
「えっ、ちょ、もういいよ.......そ、そうだ。話題、話題を変えよう。」
「そう?じゃあ長部智の推薦入学の理由は?」
唐突に賢雄はそう問う。
「.....これまた急だね........まぁ、いいけど。賢雄ほどすごくないからね?」
「うん。」
「私の家はね、特殊で家族全員が何かしらの隊に入ってるの。
ほら、埼玉って大和田に基地持ってるじゃん?そこに両親がいるんだけどね。
そのせいで幼少期から戦い方っていうか、護身術を教わってて.........」
「教わってて?」
「大体なんでも武器にできるようになったの。」
「いや、流石にやりにくいものとかあるけど.......」
賢雄の頭が疑問に埋め尽くされる。
多分今自分の顔を見たらとんでもない顔をしているだろう。
「あぁ、いってもあんまし分かんないよね?
...........そんじゃあ、この教室にあるもので適当なもの選んで。」
そういわれた賢雄。
適当に周りを見渡す。
「えっ?.........じゃあ......」
賢雄はそのもののところへ行き、それを手に取る。
「黒板消し?」
「そう、黒板消し。」
「...........分かった。ちょっと貸して。」
そう言われたまま賢雄は夕夏に黒板消しを投げる。
渡された夕夏はそれをじっと見つめている。
黒板消しは角がなく、投げてもたたいても攻撃力があまりない。
全部を武器にできると言った夕夏でもこれなら無理だろう。
賢雄はそう思考する。
しかし、その思考はあてにならないことを知る。
「.....いいよ。勝負ね。どっちが先に一発入れるか。」
「こっちは護身術みたいのやったことないんだけど........」
そう言いつつ、賢雄はこぶしを構える。
「......ふふ。相手は女の子だよ?先に構えちゃうの?」
「殴るためじゃないよ。自己防衛のため。」
「それっていいわけじゃない?」
夕夏はそう言って黒板消しを構える。
両者に静寂が流れる。
「........賢雄こないの?」
「レディーファーストってやつだよ。」
「そうなの?じゃあ.........」
その瞬間夕夏の目が変わる。
ガチの目だ。
そんな夕夏は膝を曲げると、ダッ!!という音が鳴り響く
「⁉」
足を延ばすとともに賢雄の視界から消える。
「は、やっ⁉」
後ろからみょうな風が流れる。
それに気づいた賢雄は後ろを振り向く。
だが、
「遅いよ。」
いきなり白い煙が目の前に現れる。
夕夏が黒板消しを叩いたのだ。
視界が奪われ、千鳥足になる賢雄は何かを踏んでしまう。
「あれ⁉」
そのままバランスを崩し、後ろに倒れる。
受け身を取ることには成功したが、
賢雄が立ち上がるのを防ぐためそこに馬乗りになる夕夏。
間髪入れずに賢雄の顔にこぶしを振るうが、
そのこぶしは目の前で止まる。
寸止めだ。
「どう?叩いて終わりじゃないんだよ?転ばせることにも使えるの。」
圧巻だった。
それしか出てこない。
夕夏の動きには無駄が一つもなく完璧に等しかった。
「す、すごいな?」
「でしょ?」
「黒板消しであそこまで戦えるなんて........」
「けどあれだよ、何も物なしでやったらたぶん負けちゃう。」
そう言う夕夏に、賢雄は言い放つ。
「それでもたぶん無理だよ。」
賢雄がそう言っている通り、たぶん勝つことはできない。
幼少期から積み重ねてきた技術、経験には勝てないのだ。
「怕維人先生がお前を推薦する理由がわかった気がする。」
「そう?」
そういって立ち上がろうとする賢雄。
それをある一つの言葉で夕夏は打ち砕く。
「けどさ、男の子が女の子にあっさり負けるって駄目なんじゃない?」
「..............」
ぐうの音も出ない。まさにその通りである。
男子のプライドをそのままへし折られた、賢雄は立ち上がる気力を失う。
「もう俺ダメかも........」
腕を目の前に持ってきて上を見上げる。
まさに無気力。
その姿を見て夕夏は焦る。
「あ、いや、ご、ごめん!そんあつもりじゃ.........」
ガタッ!
「「⁉」」
悪魔の音が賢雄は前方から、夕夏は後方から聞こえる。
「は、はべち...........」
賢雄が真っ青な顔で夕夏の後ろを指さす。
かつてない焦っている賢雄の顔を見て、夕夏は恐る恐る振り向くと.........
そこにはスマホをこっちに向けた怕維人の姿があった。
「あぁ~ごめん。続けて続けて。」
時が止まる。
夕夏も真っ青になりつつ、恐る恐る聞く。
「えっ、先生、それ撮って.......ていうか何でここに........?」
「あ~、いや、生徒に呼ばれた気がしてね。つい来ちゃった。」
夕夏はそれで思い出す。
賢雄が言っていたことを思い出し、つい賢雄をにらみつける。
後ろから「えっ?俺なの?」という声が聞こえるが気にしない。
ていうか気にできない。
「大丈夫さ、僕の大事な生徒たち。
そんなこともあろうと、不純異性交遊はこのクラス内だけオッケーさ。
さぁ、そのSMプレイの続きを先生に見せておくれ。」
◇◇◇◇◇
二日目だというのに、このクラスに異常な雰囲気が流れている。
それは耳が聞こえない蜂も気づくことが可能なくらいだった。
賢雄はやつれていての髪の毛がところどころ白っぽくなり、
奥にいるの長部智という人がうつむいて、机に突っ伏しながら小さな声で泣いていた。
そして担任はというと........
「みなさん......おはよーございます.......」
体中が傷だらけで、特に手には包帯が何重にも巻かれている。
「はい、今日の僕はとっても機嫌が悪いので、
一度しか言わないからよく聞いてください。」
そう言い、たんこぶで目がほとんど隠れて前も見ずらいだろうと
言わざるおえない頭を動かし、黒板に何かを書いていく。
「えっと今日は、簡単なことしかしません。
前半座学の後半は得物配布です。ではホームルーム終了、解散。」
そう言い切り、怕維人はよろよろしながら教室を出て行った。
◇◇◇◇◇
キーンコーンカーンコーン!!
前半の座学終了の鐘が鳴る。
ほとんど内容が入ってこなかったが、
まぁ、後で復習すれば何とかなるという淡い気持ちを抱きながら、
賢雄は教科書を机の中に入れる。
すると、しまい終わったと同時に蜂から肩を叩かれ、紙を目の前に出される。
『先生と長部智さんの二人と何かあった?』
やはり来ると思っていた。
この件に関しては鉢だけでなく、
『五法』の人たちも気になっていそうな素振りをしていた。
そして賢雄は蜂から渡されたペンを使い、紙に書いていく。
『別に何もないよ。心配してくれてありがとう。』
『けど明らかに様子がおかしいよ?
ペアとして話してもらわないと........』
『..........分かった。けど、途中で逃げないでくれよ?』
賢雄は事のすべてを書き始めた。
ー数分後ー
ぷしゅーという音が鳴り、蜂がぶっ倒れる。
その蜂を起こしながら、紙に書く賢雄。
『大丈夫?』
『こっちのセリフだよ。えっ、もう何?分かんなくなってきたんだけど......』
蜂の目を見ると、漫画で困ってるキャラがよくやる
目がぐるぐる回っているみたいになっていた。
するとガタッという音がドアから鳴り、段ボールを持った先生が入ってくる。
しかし、それはいつも知っているあの怕維人ではない。
目測170センチくらいの女だった。
その女は教卓の前に立ち、全員がいることを確認してしゃべりだす。
「失礼、私は七里の代理で来た、小早川新美という。
七里とは、私がサポートとしてやらせてもらっている。
もちろん私もここの先生だ、困っていることがあったら聞いてくれ。」
とても厳格感があるしゃべり方に空気が冷やされ全員が鎮まる。
[この人が.......怕維人先生のサポート.....]
「みんな気になっているであろう、私のペアについてだが.......早退という形をとった。
今朝見て割った通り、あれで一日の職を全うするのは厳しいという判断だ。」
これを聞き、一気に冷汗が背中を伝う賢雄と夕夏。
とても自分たちがやりましたといえる空気ではない。
「........確かこの時間は得物配布だったな。
もちろん、行動にもサポートにも与えられる。
推薦者だがあらかじめ言っておくが、得物とはこれだ。」
すると新美は段ボールに手を突っ込み、あるものを取り出す。
「........初心者用のハンドガンタイプ...........オートマチック、9mm×19弾か.......」
段ボールの中から出したのはハンドガン。
新美も中身は知らなかったらしく、じっと眺めている。
その色は黒く、とても偽物には見えない感じだった。
しかし、一人を除き全員が落胆する。
なぜならハンドガンを完璧に使えるように各家庭で鍛えられているから。
専攻というくらいだから、もっと特殊なものが出てくると思っていた。
七人がそう考える中、賢雄が大声で叫ぶ。
「えっ⁉..........銃⁉」
全員が賢雄を見る。
その当事者である賢雄は顎が外れるほど開いた口がふさがらない。
それはそうだ、賢雄は得物という言葉を知らなかったため仕方のない。
「あぁ、すまないな。服部。お前はあまり事情を知らないと七里から聞いている。
いきなりこんなものを見せるが、お前たちにはこれを扱えるようになってもらう。
では、配布する一列に並べ。」
そういわれるなり賢雄以外は何の抵抗もなく列に並ぶが、賢雄は恐る恐る並ぶ。
そしてついに自分が手に取る番になる。
賢雄はまるで生々しいものを手に置かれたように顔を引きながら席に戻る。
しかし、戻るときある人物が声をかけてくる。
「お前、弾が入ってない銃にビビるとか何考えてんだよw」
笑いながら馬鹿にするように言ってきたのはあの赤髪、吾車晋也だった。
「えっ?」
「お前、えっ?じゃねえよ。なんでそんなんをビビるやつが推薦されてんだよw」
それは俺も知りたいと思いながらも賢雄は言う。
「.........うん。なんか暴発しそうでさ、怖くない?」
賢雄のその言葉に空気が死ぬ。
「「「「「.........ぷっ、はっはっはぁ!!」」」」」
死んだ空気を生き返らせたのは『五法』達の笑い声だった。
「ぼ、暴発?はは、マジでやめてw、おなか痛いわ~w」
そこのリーダー格の吾車が腹を抱える。
「そろそろいいか、お前ら?」
そこに新美の声が突き刺さる。
全員が鎮まると、新美は賢雄に声をかける。
「服部、暴発はしないから安心しろ、そして席につけ。」
「は、はい.........」
座ろうとしようと席に戻るときもクスクスと笑い声が聞こえる。
不快感を感じながらも席に座ると、新美が『五法』に向けて話す。
「いいのか?お前らは自分の心配をしなくて?」
「あぁ、俺ら?先生、俺ら『五法』ですよ?」
「............そうか。では、射撃の訓練へと進むことにする、体育館に集合しておけ。」
新美はそう言うと、颯爽と教室から出て行った。
この空間に残るのは不信感が残った。
◇◇◇◇◇
「そろったな..........」
新美はそう言うと、ジャージを着ているみんなを見る。
ここはあのなんちゃって入学式が行われた場所である体育館。
そこに賢雄たちは横一列に並べられている。
「これからお前らには、壁から出てくる的をお前らの得物で撃ち抜いてもらう。
的の大きさは直径70㎝だ。当たったり、5秒立つと裏に消える。
しかし、また出てくるから安心しろ。
ここから壁までの距離はざっと20メートル.......エアライフルの二倍の距離だ。
入学したてのお前らには、ちょうどいいだろう。」
そういうと、新美は体育館を操作できるリモコンを取り出す。
「これから1分間、弾の補充をしながら行うからな。」
賢雄は驚く。
[えっ、弾の補充⁉そんなの無理だ......]
だが、そんな声を無視して新美は喋り続ける。
「今できるお前らの実力を見せてみろ...........では、」
来る!
「はじめっ!」
そういうと同時に新美はリモコンのボタンを押す。
すると体育館の上部に残り一分というタイマーが表示され、
壁の裏から的がひっくり返って出てきた。
バッ!!
全員が一斉に動き始める。
それに反して焦る賢雄。
彼はまだ弾の込め方すら知らない。
銃をガチャガチャしている間にもうパンっと乾いた音が体育館に鳴る。
それは、吾車のだった。
彼は素早い手つきで弾を込め、撃つを繰り返している。
吾車が9発くらい撃ったのち、賢雄をのぞいた全員も撃ち始める。
パンっパンっといった音が賢雄を焦らせる。
残り時間を見ると28秒。半分をもう過ぎている。
ようやくここで弾を込め終る賢雄。
手を震えながらも的を狙うが標準が定まらない。
気づけば残り15秒。
[もうこうなったら.......]
賢雄は引き金を何度も引く。
「うおぉぉぉ!!」
パンッパンッと速いテンポで音が鳴る。
手の震えや反動でそれどころじゃないが、一発も当たらないのが嫌だった。
「5,4,3,2,1..........やめ!銃を置け!」
全員が銃を置く。
銃を置き賢雄は周りを見渡す。
ほとんどが安堵したような顔をしている。
誰も不安に思っていない。
そう、賢雄から見たらだ。
「........なるほど、大体わかった。」
新美はタブレットを取り出し、何かを確認している。
「では、一様的に当たった順に言っていく。
まず、吾車。いい引きだ。その調子で鍛錬を怠るな。」
「うぃーす。」
「続いて、鳳翔。最初に躓いていなければ、一位を狙えたな。
次からは焦らずやれ。」
「はい、分かりましたありがとうございます。」
この地獄のような評価タイムはずっと続き.......
遂に最後になってしまった。
「最後だ。賢雄わかっているな?」
「......はい。」
「弾込めが遅く、照準も安定していない。
はっきり言うと、明らかな経験不足だ。」
はっきりと告げられる、重い言葉。
周りからはくすくすといった笑い声が上がる。
「お前のために当たった弾の数は教えない。
知りたければこの後来い。」
「.........分かりました。」
「.............これで後半の射撃訓練を終わりとする。が、最後に一つ連絡がある。」
そう言い、みんなの目を見て新美は言う。
「この学校の推薦入学者は課外授業のプログラム、すなわち任務がある。
それに出れるか出れないかもこの射撃訓練で決まる。
............今のところは誰一人として達成していないようだな。」
全員に衝撃が走る。
あの最初に早く打ち始めた吾車さえ評価基準に届いていない。
と、いうことなのだろうか?
「1分間で80...........80回当てれば許可を得られる。」
『⁉』
「今現在、トップの吾車が61点。これのあとプラス19点で合格だ。」
「は、はぁ~?......そんなん無理に決まっているだろう⁉」
「どうした吾車、不服か?」
「あのなアンタ。『五法』のこの学校への推薦基準は1分間で50点なんだぞ。」
「.........それがどうした?」
新美は吾車が何か狂ったことを言い出したように見る。
しかし、1分間で80発はさすがにやりすぎだ。
平均すると1秒で1.2点以上を取り続けなければいけない。
更に弾込めの時間や構える時間などを入れるともっと難しくなるだろう。
「ふざけんなよ........そんな無理難題出して楽しいのか?」
「ちょ、ちょっと晋也。やめたほうがいいって。」
吾車の隣にいる鳳翔が吾車を止めるが、もう遅かった。
「...........ほう。『五法』も随分と格が下がったものだな。」
「あ”ぁ?」
吾車がその言葉にキレる。
当たり前だ、誰だって家を馬鹿にされたら怒るだろう。
「なんだよ!!さっきから偉いことばっか言ってきやがって!
『五法』でもないやつが『五法』を語るなよ!!」
場が静まり返る。
痛いような静寂の中、ゆっくりと新美が口を開く。
「.........つまり、私が『五法』なら良いと?」
「だから......!!」
吾車が叫んでいることを気に留めず、新美が話を続ける。
「突然だが、実は私は結婚し名字が変わっているのだ。」
「はっ?」
「申し遅れた。私の旧名は吾車新美という。
同じ吾車の家として晋也の行動を詫びさせてもらう。」
場が凍る。
先ほどよりも痛々しく、刺々しく。
晋也の顔を見ると、絶望したような、真っ青な顔になっている。
「..........!、証拠は?証拠はあんのかよ⁉」
「まだそこまで言うのか?.........まぁいいだろう、これが証拠だ。」
新美は晋也に何かを投げる。
「『五法』の家の者はいつでもその誇りとプライドを忘れてはいけない。
それを思い出させるために作られた、『五法』の家の者だけが持てる物。
それがこの『五法の紋章』。
まだ正式にパケットになっていない『五法』には早い話だがな。」
晋也の手の中にあるバッチ、この学校の校章にそっくりだが少し違う。
色が白の一色なのだ。
だんだんと、晋也の手が震える。
それが全部物語っていた。
「............では、以上だ。明日、そのテストをもう一度行う。
この学園で、パケットとして生活がしたいなら、まず結果全てだ。」
そう言われると同時に、鐘がなり僕らの放課後が始まった。
◇◇◇◇◇
放課後の教室に明かりがともっている。
その教室いるのは、賢雄と新美。
「何の用だ?...........服部賢雄。」
◆◆◆◆◆
「えっ、今日の放課後はいけないから別日程が良いって?」
「うん。本当にごめん長部智。」
体育館から帰る途中、賢雄が夕夏に今日は予定ができたから
夕夏から本を借りることができなくなったと説明する賢雄。
「そんなに大事な用事なの?」
「うん。大事な用事なんだ。」
夕夏は賢雄に疑問を抱きながら聞くが、賢雄の目に迷いはない。
賢雄は教室に行くルートから外れ、職員室に向かった。
◆◆◆◆◆
「もう一度問う、何の用だ?」
新美が、教卓に腰を掛けながら賢雄を見上げる。
「私を呼ぶということは、それ相応の理由お前にはあるはずだ。」
合理的な新美は短く的確な言葉で賢雄に問う。
「今日、体育館の夜間の使用を許可してもらえないでしょうか?」
賢雄はひるまず、そうしっかりと説明する。
「............理由は?」
「はい..........みんなとの差を埋めたい。それだけです。
僕は今日の小早川先生の言葉で入学して終わりではなく、
その先を見据えた行動が大切だと知りました。
この行動はそれに感化されたためです。」
あの時の新美は、その性格から容赦なく本音を言う。
それに一度は落ち込んだ賢雄だが、
新美に言われたことを行えば上達できるであろうと考え直した。
「ほう............つまり、今日の汚名を明日返したいと?」
「はい。」
「何時間だ?完成するのに何時間かかる?」
「...........六時間くらいです。」
「...........私はこの後用事がある.....別のものを向かわせよう。」
「あ、ありがとうござ.......」
お礼を言おうとした賢雄だが、新美の次の言葉にすべてをかき消される。
「一位とれ。」
「えっ?」
「明日の訓練で80点を超え、一位をとれ。」
「そ、そんないきなり.......」
賢雄はそんな急な無茶ぶりに縮こまってしまう。
そんな賢雄の姿を見て、新美は指摘する。
「この仕事は人の生死がかかわる。
そのため国を守るために全部を投げ捨て、全力で挑む。
私はそんなバカを見てみたい。...........しかし自信とエゴのないメンタルは身を亡ぼす。
私はそんな奴らをたくさん見てきた。
私もここの先生である故、お前らには中途半端になってもらいたくはないのだ。
.........服部。明日の訓練で80点をたたき出し、一位になれ。
さすれば、体育館の使用を許可する。」
新美は教室の窓に向かいながらそう話すと、最後に窓越しに賢雄を見る。
不安、焦り、恐怖.......いろんなものが混ざり合ったような顔をしていた。
「..........結局お前はそこまでだったか......では失礼する。」
あきれた新美が、教室のドアから出ようと歩き出したときだ。
「待って下さい。」
賢雄が声を発した。
「..........やります。やってやりますよ。」
賢雄の目はまっすぐと新美を見ており、その奥には闘志がともっていた。
一瞬で変わった姿に、新美は驚く。
「お、おまえ..............」
「そこまで言われたんだ、一位を取って見せますよ。」
新美は今日の賢雄のポイントを知っている。
1点。
これが今日的に当てた回数。
それを明日には80にする、目の前の男はそうほざいている。
新美はニヤリと笑い、賢雄に鍵を渡す。
「結果で見せてみろ。」
「えぇ、楽しみにしていてください、先生。」
そう言ってバカは体育館に走り出した。
◇◇◇◇◇
パンッ、という乾いた音が再び体育館に響き渡る。
賢雄は的を撃っては弾を込め、撃っては込めを繰り返す。
結局人間は反復練習しかないのだ。
しかし、いわば賢雄は今、一夜漬け状態。
こんなので、何年もまともにやってきたやつらには勝てない。
そんなことは分かっている。
分かっていつつ、練習をしている。
この考え事の最中でもパンッという銃声は休みを知らない。
ただただ時間だけが過ぎて行く。
「........やっぱり、独学では限界があるな.......」
今の賢雄のスコアは20点。
これだけ見ても素晴らしい成長だが、課外プログラムまではあと60点足りない。
銃の構え方、弾の込め方、姿勢。
全て賢雄が自分自身で考えたものであり、完璧とは程遠いかった。
[確か、だれか来るんだったよな?]
その人に聞いてみようかと考えていたところ.......
「やぁ、賢雄。超久しぶり。」
「!!」
聞きなじみの声が聞こえた。
「なんで、今日早退したはずじゃ........」
「生徒が頑張ってて、先生が頑張らないって変じゃない?」
そこには包帯が取れた、眼帯の最強が立っていた。
「いや~、ごめんね。新美しかいなくてさ.......
あいつ、人付き合い下手すぎるから。」
「そ、そうなんですか?」
「まぁね。現に賢雄たちに銃の扱い方教えてないでしょ。」
「..........確かに。」
賢雄は今日の一日の訓練の際の新美の様子を思い出す。
少し、あの先生は放置主義なのかもしれない。
「......新美から聞いたよ、『五法』達にいじられたんだって?」
「......知ってたんですか?」
そうだよと返事をしながら、怕維人は台に置かれた賢雄の銃をとる。
「賢雄1分セットして。」
「えっ、は、はい。」
賢雄はそう言われスイッチを押す。
ビィーという音が鳴り、壁の中から的が複数飛び出してくる。
それに瞬時に照準を定め、怕維人はハンドガンとは思えない速度で連射していく。
弾込めにかかる時間も少なく、最も完璧に近い動き。
賢雄はそれに見とれ、一つも見逃すまいと目を開く。
指の動き、腕の動き、ましてや使うかもわからない
腰や、足の動きまでよく観察した。
長いようで短い1分は終わりを告げる。
点数のボードを見ると110点と刻まれていた。
一仕事が終わったような雰囲気に包まれている怕維人は、
銃口に息を吹きかけ、煙を飛ばす。
「どう?少しは分かった?」
「......はい、先生。.......完璧です。」
時計は夜9時を回っていた。
◇◇◇◇◇
「やぁ~!みんなおはよっさん!!」
朝の体育館は怕維人の場違いなテンション感に満たされる。
全員が眠たい目をこすりながら、怕維人に目を向ける。
「今日は前半と後半が入れ替わるからね。
つまり、最初が射撃ね。みんな銃は持ってるかい?」
そう呼びかけるが、全員が当たり前のような顔をし銃を出す。
「よっしぃ!早速一人ずつ始めよう。
あっ、昨日聞いたかもしれないけど、80点で課外プログラムね。」
怕維人が忘れていたように後に付け直すと、案の定で晋也から質問が来る。
「先生。............本当に80点なのかよ。」
「そうだよ。..........決して無理な目標ではない。
自分たちがそれぞれの課題と向き合い、
克服を繰り返すことができれば必ず突破できる。
この訓練は忍耐性を鍛えることもできるんだ。」
そう言いながら、怕維人はリモコンを操作し始める。
「さぁ、まずはそんな君の番だよ。晋也。」
怕維人が晋也を指名する。
ゆっくりと前に進む晋也。
手は震え、足もちゃんと見ればしっかり踏み込めていない。
緊張しているのだ。
ゆっくりと時間をかけて台の前にたどり着くと、深呼吸をする晋也。
「大丈夫?」
「.......大丈夫だ。」
「この試験の結果で死ぬわけじゃないし、
またあるから......そんじゃあ、よ~い.........」
ビィーという音が鳴り、晋也が勢い良く動き始める。
銃音が体育館に響き渡る。
[いつもより早い?]
賢雄は晋也の発砲音を聞いてそう感じる。
実際に30秒過ぎたあたりには48点だった。
パンッ!パンッ!音は鋭く、早くなる。
そして.......
ビィー!
「はい、置いて~。」
訓練終了の合図が鳴る。
「お疲れ~......記録はね、83点だったよ。おめでとう!」
83点、晋也は前より上げてきた。
顔を見るとほっとしたような歓喜の色が見える。
「よし!よし!やったぞぉ俺はぁ!」
一人が突破した。
これはほかの受験者からしたら、圧倒的な安心材料となる。
そのため.........
「いいねぇ!いいねぇ!今のところ7人連続80点達成じゃん!
こんなに成功したことは過去史上ないよ!」
怕維人が満面の笑みで喜びをあらわにする。
あっという間に賢雄前の6人も合格した。
その6人はぎりぎりであるがは80点や、81点を取っていて、
全員が安堵の笑みを浮かべている。
「すごいよみんな!俺は君たちがやれる子だって気づいてたよ。」
段々と全員合格の希望が見えてくる。
だが、
「じゃあ、ラスト賢雄だね。」
怕維人が賢雄のほうに体を向ける。
『五法』達が喜びを分かち合っている中、
全員ががっかりしたような顔色で賢雄を見る。
「はぁ~、まじか、8人合格は無理だったか.......」
晋也は髪をかき上げながら冷やかすようにそう賢雄に向かって言い放つ。
しかし、そんな言葉を背に賢雄は台の場所まで移動する。
すると、心配したのか怕維人が声をかけてくる。
「大丈夫。落ち着け賢雄、怒りをコントロールするんだ。」
「.........?......怒ってませんけど?」
「あっ、そう?」
やはり、こういう時は何も考えずにリラックスすることが一番だ。
腕を振り、背を伸ばす。
あえて、深呼吸をしないことで自分の感情をコントロールする。
今現在1位は晋也の83点。
新美との約束を守るには絶対超えないといけない壁。
だが、それなのにも関わらずやけに落ち着いている賢雄。
「...........いいですよ。」
賢雄は今まで感じたことのない高揚感を抱えながら返事をする。
「おっし!分かった。.........よーい..........」
ビィー!という音が鳴り、賢雄が銃を構える。
ここから、体育館は伝説の1分間を送ることになる。
◇◇◇◇◇
ここはパケット高校[パケット専攻養育高校の略称]の職員室。
怕維人が先ほどの訓練のデータをパソコンを使って本部に送っている。
全員分のデータを送り終わり、天井を見上げる怕維人の頬に熱い刺激が走る。
「あんだよ.......お前かよ。」
顔だけを動かしながら見ると、そこにはコーヒー缶を持った新美の姿があった。
「なんだ?.......私では悪いのか?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ........」
「なら、飲め。」
そういい、新美は怕維人の頬にコーヒー缶を押し当てる。
「あっ、つ!..........お前ふざけやがって。」
怕維人は新美からコーヒー缶をもらいながらつぶやく。
「.........そういえば今日はどうだった?」
「........?......どうって?」
「射撃訓練だ。」
「あ~、はいはい。そゆことね。」
「奴は、奴はどうだった?」
「..........ふ~ん。」
新美から問われた怕維人はニマニマと笑い出す。
「........な、なんだ?」
「いや、お前も気になるのかなってね?」
「........私が誰のこと言っているのか分かっているのか?」
「あぁ、もちろん........賢雄だろ?」
「.............」
「ほらビンゴじゃん!」
怕維人はパソコンをいじりだし、新美に賢雄のデータを見せる。
「........ふ、やはりこいつはあっち側か。」
新美はパソコンの画面をあきれるように見る。
そこには.........
『服部賢雄 射撃訓練 96点』
そこには、先日から95点上げた天才の結果がのっていた。
「.......なぁ、新美。」
「.......なんだ。」
「お前が俺を体育館によこしたのもこれが理由か?」
「...........なぜそう思う?」
「一回俺が賢雄にお手本を見せ、それを模倣させる。
そうやって合格させようとしたんだろう?」
怕維人が新美に問い詰める。
すると新美は観念したように一言発する。
「............さすがだな。」
そこまで言うと、新美はある数枚の紙束を置く。
「1年間でで50メートルが8秒後半から6.1に上がったバカがいるとうわさに聞いてな。
その子の担任に体力テストのすべての項目の
最高記録を出した動画を見せるように教育委員会を通して言ったんだ。」
すると新美は紙束をばらし、小6と中1のときの体力テストの記録を並べる。
「やはり、あいつはそっくりだったよ。」
怕維人は新美が出した記録用紙に目を落とす。
小6のときは50メートル以外は全て『C』評価なのに、
中1になったとたん全てが『A』にくつがえっている。
「..........服部賢雄.......生まれ持ちの記憶力の良さと洞察力、
そして、ずば抜けた運動能力.......それらをもって可能になる.......
一度見ただけで模倣が可能な、『瞬見再現』の持ち主。」
新美がコーヒーを飲みながらそう説明する。
怕維人も分かってはいたが、改めて聞き驚嘆する。
服部賢雄という男は末恐ろしい。
しかし、怕維人はコーヒーを飲み干し、隣にあるごみ箱に捨てるとこう言った。
「だが、まだ始まったばかりだ。生き残るか潰れるかはここから決まる。」
怕維人はそう新美に言い、パソコンを閉じた。
なぜ蜂は耳が聞こえないのに話の内容がわかるのかという疑問があると思うのでここで解消します。
今は放課後。
賢雄が窓の外をずっと見ている蜂の肩を軽く叩く。
叩かれた蜂は驚きながら、紙を用意する。
『どうしたの、賢雄?』
そう問われているが賢雄は黙り込んで考えている。
そして賢雄は決心し、口を開く。
「あのさ......これでも通じてるの?」
そう言うと、蜂は紙に書き込む。
『はい、とても良く。』
「えっ、どうしてわかるの?」
『私は言った通り耳が聞こえないから、モールスと手話、そして読唇術を教えられたの。』
賢雄は緊張しながら聞く。
「えっ、じゃあ、自分がその紙に書いて会話していたことは?」
『あぁ、ごめん。誤解させちゃった......?
それは書きのほうが、伝わりやすいからだよ。
あと、読唇術は人の顔見ないといけないしね........』
心の中で安堵のため息をつく賢雄。
『だから........』
そう書くと蜂はいきなり立ち上がり、
「もっとはなそ!」
賢雄はそんな彼女が、夕日で照らされて輝いているのを感じた。
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