第九話 幼なじみと新入団員(1)
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数日後、生徒会の掲示板に団員募集のポスターを貼った。もちろん生徒会の審査は通っているんだが、このセンスは信じられないくらい悪いと思う。ブラック求人かな?
「しかし団員って、消防団か反社みたいだな」
「なんか失礼ね!応援団なんだから団員でしょ?国語、苦手?」
いや、お前には言われたくない。
「ま、これから応援団の活動がスタートよ!二人で団員捜しだね!」
しかし、部活説明会もとっくに終わってるし、1年生のほとんどは何かしらの部活に入ってる。帰宅のプロを目指す帰宅部の連中が間違っても興味を示すような部活でもない。もう応援団って時代じゃ無いよな。21世紀も四半世紀が過ぎているのだ。
「ま、団員が集まらないことを悔やんでも仕方ないわね。声を出す練習するわよ!」
「ええー、俺もするの?」
◇
「足はがに股にするらしいよ」
応援団の昔の資料に、練習の仕方を書いた本があった。
その内容を参考に二人で練習を始める。
「で、上体を反らして、真上に向けて声を出すんだって」
なるほど。だんだんとイメージができて来た。これは確かに応援団だ。
「じゃあ、とりあえずこの格好で何か歌でも歌ってみる?」
「歌って、応援歌か校歌?」
「うん、でも応援歌や校歌って、勇樹くん覚えてないでしょ?勇樹くんも知ってる歌にしよ。『学園天国』とか」
「知らねーよ。いつの歌だよ」
そんなこんなで、とりあえず『あ・え・い・う・え・お・あ・お・か・け・き・く・け・こ・か・こ』の発声練習をしてみた。この体勢で大声をだすのはかなりきつい。それに、そんなに上体を反らすとまたサラシがはじけるぞ。
「なあ、山村。発声練習もいいんだけど、まずは校歌とか応援歌の歌詞、覚えない?」
我ながら正論だと思う。応援で歌うべき歌を覚えるのが先だろう。それに、さっきから俺たちに向けられる奇異の視線も痛い。本当に痛い。山村のやる気には感心するが、ものには順序があるのだ。
「勇樹くん、良いところに気がついたわね。私も丁度そう思ってたところよ」
ほんとか?
「あのぉ・・・・」
ペットボトルの水を飲んで部室に入ろうとしたところ、一人の女子生徒が声をかけてきた。
あ、苦情かな?
とてもおとなしそうな色白の女子生徒だ。背中まで伸びた長めのストレートヘアは、どこか文学少女のような知的な雰囲気を纏っている。小柄な彼女は少しうつむき加減で視線をそらせ、胸の前で手の指を絡めてモジモジしている。眉毛の下で切りそろえられた前髪が目元に影を落としていた。まるで野犬に囲まれた子リスのようだ。
「あ、ごめん、うるさかった?」
文化部の女子だろうか。まあ、校舎の脇で奇声を発している男女がいれば、部活や勉強に集中できないだろう。申し訳ないことをした。
「いえ、その、応援団、入りたい、です・・・」
「えっ?うそっ!」
「ほんと!?」
山村は目をまん丸にして女子生徒に近づいた。近づいたと言うより詰め寄ったという表現の方が正しい気がする。そして、その女子生徒の手を両手で握った。相変わらず距離感の近いやつだな。
「あなた、1年生よね?同じ階でよく見かけるわ!」
「はい、1年2組の仲山眞琴です。そのぉ、応援団に興味があって・・ううぅぅ・・」
泣き出した。




