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第二話 幼なじみと邂逅

「水原勇樹くんよね?私よ、山村陽佳里やまむらひかりよ。小学校の途中まで一緒だった」


「え、山村・・さん?ウソ、じゃないよね」


 俺は小学校4年の終わりにこの町から隣の県へ引っ越した。その時まで住んでいた地域は街の中心から少し離れた田舎だったので、幼稚園も小学校も1学年2クラスしかなかった。そして、山村陽佳里とは幼稚園から小学4年までほとんど同じクラスだったのだ。


「あー!やっぱり勇樹くんだ!めっちゃ久しぶり!青陽高校に入ってたんだ!入学してたんだったら教えてよね!」


 彼女の顔はぱぁっと明るくなって、さっきまでジト目だった表情は満点の笑顔に変わった。そして体を俺の方に向けて上目遣いで見上げてくる。その笑顔と谷間が眩しい。ついつい視線が下がってしまう。


 山村は俺の視線に気づいたのか、ちょっと上目遣いで睨んできてすぐに体を反対に向けた。尖らせた唇がかわいい。表情豊かだな。


「いや、教えてよねって山村がこの学校に入っているって知らなかったし。この春にオヤジの仕事の都合でこっちに戻ってきたばっかりなんだよ。小学校と違って10クラスもあるし、全然気づかなかった」


 満点の笑顔は昔の山村と同じだ。なんだか懐かしさがこみ上げてくる。でも、記憶にある山村は真っ黒に日焼けしていてガリガリで、まるで山地に住んでいる野ザルのようなヤツだったはずだ。それなのに、普通に女子高生になってる。


「ところで勇樹くん?裁縫道具とか持ってないかな?」


 裁縫道具は持っていないのだが、部室にはホッチキスと安全ピンがあるのでそれで服の応急修理をすることにした。


 ◇


 誰にも見つからないように隣の棟にある写真部の部室に移動した。1階の階段奥にある薄暗い部屋だ。


 中学校では陸上の短距離をしていたのだが、どうしても打ち込むことが出来なくて、高校からは文化系の部活を選択した。しかしそれは決して後ろ向きの選択というわけでは無く、将来の夢とも繋がる部活なのだ。外資系の通信社に就職して、カメラを片手に世界中を取材して回ることを夢見ている。


 しかし、入部した写真部は実質閉店状態。1年生の部員は自分だけ。2年生は0人。3年生に2人在籍しているが既に情熱などは無く、入部初日に部室の鍵を渡されて「じゃあよろしく」と言って帰ってしまった。それ以来見かけることも無い。


 昔は写真の現像をしていたようで、水道や流しもある部屋だ。現像用の機材や薬剤は奥の倉庫にガラクタのごとく積まれていた。昔の暗室の名残で部屋を区切る遮光カーテンがある。俺はその向こうに山村を案内した。


 カーテンの向こう側で山村はブラウスとインナーの応急修理を始めた。服を脱ぐときの衣擦れの音が聞こえる。なんだか変な気分だ。


「ごめんね。胸を押さえつけるサラシのホックが跳んじゃったみたい。でも勇樹くんがいてくれて助かったわー」


 まあ、俺がいなかったらぶつかることも無かったし、ホックがはじけることも無かっただろう。


「サラシって言うのか。なんだか古風だな」


「“胸つぶし”とかって言うらしいんだけど、サラシの方がかっこいいでしょ?“自分、不器用ですから”みたいな」


 ”自分、不器用ですから“の所だけ声を低くしておじさんのような声色を作る山村。しかしだれのモノマネだよ。


「まさか勇樹くんに会えるなんて思わなかったわ。元気にしてたの?中学でいじめられなかった?勇樹くんちょっと内向的だったし」


 失礼なやつだな。そういえば小学生のころもデリカシーというか気遣いができないヤツだったことを思い出してきた。これでも中学時代は陸上部の短距離をしてたんだし、まあ、陽キャと陰キャでいえば、ちょっと陰キャより程度だ。


「大きなお世話だよ。中学時代は短距離してたんだぜ。普通だよ、ふ・つ・う」


「へぇ、短距離してたんだ。なのに今は写真部?なんか挫折した?」


 本当に失礼なヤツだな。


「そんなんじゃないよ。ところで生徒会室で何叫んでたんだ?」


「あ、さっきの聞いてたの?実はね、応援団作りたいのよ!」


「応援団?チアじゃなくて?」


本作をお読みいただき誠にありがとうございます。

現在の投稿予定は以下の通りとなっております。

面白そう、続きが気になるといった方は、是非ともブックマークをして頂けると嬉しい限りです。

執筆のモチベーションに繋がります。

今後とも、応援よろしくお願いします


第一話 幼なじみと爆発

掲載日:2025年11月10日 07時10分


第二話 幼なじみと邂逅

掲載日:2025年11月10日 12時10分


第三話 幼なじみと応援団

掲載日:2025年11月10日 20時10分


第四話 幼なじみと涙

掲載日:2025年11月11日 07時10分


第五話 幼なじみと過去

掲載日:2025年11月11日 12時10分


第六話 幼なじみと初恋

掲載日:2025年11月11日 20時10分


第七話 幼なじみと大人の女

掲載日:2025年11月12日 07時10分


第八話 幼なじみと父の青春

掲載日:2025年11月12日 19時10分


第九話 幼なじみと新入団員(1)

掲載日:2025年11月13日 07時10分


第十話 幼なじみと新入団員(2)

掲載日:2025年11月13日 19時10分


第十一話 幼なじみとデリカシー

掲載日:2025年11月14日 07時10分


第十二話 幼なじみと事案

掲載日:2025年11月15日 07時10分


第十三話 幼なじみとコンプレックス

掲載日:2025年11月16日 07時10分


第十四話 幼なじみと幼なじみの彼氏

掲載日:2025年11月17日 07時10分



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