第十九話 幼なじみと尾行
「また明日ね!」
俺たちは仲山さんのご両親にお礼を言ってから帰路につく。山村は反対方向なのでここでお別れだ。
「お父さんの恥、晒しちゃったね」
まあ男としては自分の愛蔵エロビデオを娘に発見されるのは辛いだろう。しかも性癖をその友達にまで知られてしまった。どうせなら棺桶に入れて欲しかったと思うに違いない。
「ん、ま、まあ、男はそんなもんだ。誰でもそうだよ」
一応お父さんの事を弁護しておくが、男はみんなそうだと言うことは俺もそうだと言うことだ。
山村は“ふーん”という興味津々な表情で俺の顔をのぞき込んでくる。その額には“聞きたい聞きたい”と書いてあるようだ。まったく。
「男はみんなそうなんだぁ。じゃあ、勇樹くんも大きい方が好きなの?」
いや、そこじゃないから。
「返答に困ることを聞いてくるなよ。男はみんなスケベだって事。お、大きいのが好きかどうかは好みの問題だよ。おれは、その、ど、どっちでも良いかな・・・」
山村は“そっかぁ、ふむふむ”と独り言を言いながら、自転車のカゴに通学カバンとビデオテープの入った紙袋を押し込んでいる。ほんとに遠慮の無いヤツだな。
「じゃあ、俺はこっちだから。気をつけて帰れよ」
山村の家まで自転車で30分くらいかかる。大きい道は通らず安全に帰って欲しい。しかし、自転車で30分はかなりの距離だ。足が鍛えられることだろう。
「うん、また明日ね・・・・・・・・・・あれ、京子じゃない?」
山村の視線の先を見ると、30メートルほどの所に小島京子と長身の男が一緒に歩いていた。こっちには気付いていないようだ。
「小島さんだね。隣にいる男は・・・いつも一緒にいるヤツだな。見たことある?」
「見たことないわね。上級生かな?色が白いから水泳部じゃなさそうだけど。じゃあ、行くわよ!」
そう言った山村は自転車のカゴに突っ込んだカバンを取り出してから俺の方を見てきた。何故そんなに目がキラキラしてるんだ?
「いや“行くわよ”って、どこに?俺、もう帰るんだけど」
「何言ってるの?京子のこと気にならないの?勇樹くん、ほんとに友達?」
友達だからこそ小島が言ってくるまでそっとしておくものだろう。何言ってるんだ、こいつ。
肩を寄せ合うように歩いている二人だが、なんとなくぎこちなさも感じてしまう。小島が“彼氏というか何というか、付き合ってるというかいないというか・・・”と言っていたのはこういうことなのだろう。
仕方なく山村と一緒に尾行を開始する。こんなの気付かれたら友情にヒビが入らないか?
「あ、勇樹くん!二人の手が当たったよ!手、繋いじゃうのかな?恋人つなぎが見えるかな?」
確かに二人の手が時々当たっているように見える、というか、小島が意識して当てているように見えるのは気のせいか?
「こう言うのってのぞきだと思うんだよね」
あと、つきまとい?これ続けてるとストーカー規制法とかに引っかかるんじゃなかろうか。
「もういいだろ。二人は付き合ってるかそれに近い状態だってのが解ったんだから。もう飽きた。寝る」
俺は呆れて足を止める。これ以上は一人で尾行してくれ。
「うるさいわね!良いところ何だから!」
自分勝手なことを言いながら、山村は俺の手首を掴んで引っ張る。
「ちょ、おま・・こんな所誰かに見られたら」
何か既に目的が変わっているような気がするのは俺だけだろうか?二人は商店街を抜けて、郵便局の隣の路地に歩いて行く。そして、その路地に昔からある喫茶店に入っていった。
古い喫茶店だが清潔感もあり雰囲気は良さそうだ。今度入ってみようかな。
「喫茶店に入ったんじゃ、30分は出てこないわね。残念。外からじゃ見えない」
ちょうど窓から見えにくい場所に二人は座ったようだ。ガラスの反射もあって二人がよく見えない。
「じゃあ俺は本当に帰るからな。それともう手を放してくれ」
山村に握られた手首がちょっと痛い。なにげに関節を極められているような気がする。
「あ、ごめん、つい無意識に」
山村は慌てて手を放し、そのまま自分の体の後ろに持って行ってちょっと顔を赤らめている。本当にあまり考えずに行動に移すヤツだな。いつか大失敗するぞ。
◇
つ、つい勇樹くんの腕を掴んでしまった。指摘されて慌てて放したけど、てのひらが汗でびっしょりね。これは、自分と勇樹くんの両方の汗かな。
「あ、ごめん、つい無意識に」
なんだか顔が熱い。ただの幼なじみなのに何を私は意識してるんだろ。バカみたい。
「じゃ、じゃあ私、もう帰るね。勇樹くんはあっちの方?」
私は自転車をとりに仲山さんちまで行かないといけないけど、勇樹くんは別の道だろうか?
「いや、自転車の所まで一緒に行こう」
こういう勇樹くんの優しさが安心できるのよね。小学校の時から変わらない優しさ。勇樹くんは私の前を駅方向に向かって歩き始める。ちょっと怒ってるのかいつもより早足な気がする。無理矢理付き合わせちゃって悪いことしたかも。
私は勇樹くんの腕を握っていた右手をじっとみる。かなり汗をかいていた。そしてその手を鼻に近づけておもいっきり息を吸った。自分の汗の臭いだけじゃない、別の匂いがかすかにする。たぶん勇樹くんの匂いだ。私って、匂いフェチなのよね。これは自分でも自覚がある。悪いクセなのかなとか思いながらもついつい人の匂いが気になってしまうのよね。
「何やってるんだ?」
「ひっ」
匂いに集中していると勇樹くんが振り返ってこっちを見ていた。ヤバイ。
「あわわわ・・・。な、なな何でもないよ」
勇樹くんはそれ以上興味を示さず前をむき直して歩き始めた。そして自転車を置いてある仲山さんちの所に到着した。時間にしてほんの5分ほどだ。
「じゃあ山村、また明日な。気をつけて帰れよ」
「うん、勇樹くん、今日はごめんね。ちょっと興味が先走っちゃったかも・・・。冷静に考えたら、友達に尾行されるってあんまり気分良くないよね」
「そうだな。それが解れば十分だよ。行動するときはちゃんと考えてから行動しろよ」
勇樹くんはやっぱり優しい。同い年なのに私より大人でちゃんと指摘やアドバイスをしてくれる。それに反発することもあるんだけど。
「うん、じゃあまた明日ね」




