第十八話 幼なじみとご両親
「あーあ、お父さん、サイテー。これじゃ100年の恋いも冷めちゃうわね」
山村は仲山さんが用意してくれたお茶を飲みながらビデオテープを観察している。このビデオテープもお父さんの想い出の一つには間違い無いのだ。
「勇樹くんもこんなビデオ見たりするの?」
ブッ
お茶を吹き出した。
「もう、何やってるのよ勇樹くん!仲山さんちにお呼ばれしてるのに!」
「あ、大丈夫ですよ。それより水原くん、カッターシャツにもこぼれてる」
仲山さんはフキンを手に持って俺に体を寄せてきた。そしてカッターシャツの濡れたところにフキンを当ててくる。
仲山さんはフキンをポンポンと軽く叩くように俺の胸に当てて来た。濡れたところを注視しながら拭いてくれているので仲山さんの頭が近い。目の前には仲山さんの頭のつむじが迫ってきている。シャンプーの良い匂いだ。仲山さんの手の感触をあいまって、これはかなりドキドキする。
「あ、そ、それ私がやるから仲山さんはテーブルとかお願いね!」
山村は慌てたように仲山さんの手からフキンを奪い取って俺の胸にゴリゴリと当ててきた。相変わらずがさつだな。
フキンを奪われた仲山さんはちょっとびっくりしてキョトンとしている。そして“おお”と何か納得したように立ち上がって笑顔を向けてきた。
「拭くもの、持ってきますね」
そう言って台所の方へ行ってしまった。
「勇樹くん、子供じゃ無いんだからね。世話焼かせないでくれる?」
山村はプンスカというオノマトペがぴったり当てはまるような表情をして俺を上目遣いで睨んできた。
「い、いや、拭くくらい自分で出来るよ」
俺は山村の手からフキンを受け取ろうとするのだが、何故か山村は手に力を入れて拒否してくる。
「わ、私がしてあげるから、勇樹くんはじっとしてて!ほんとに昔っからおっちょこちょいなんだから」
絶対お前の方がおっちょこちょいだろ。
俺は仕方なく諦めて、されるがまま山村に身を任す。仲山さん以上に接近してくるヤツだな。
「これでよし。だいぶ目立たなくなったわね。家に帰ったらすぐに洗うのよ。シミになっちゃうから」
テーブルに吹き出したお茶を吹き終わった仲山さんが、新しいお茶を入れてきてくれた。俺と山村を見ながらニコニコと笑顔を見せている。迷惑をかけたのにこんな笑顔を向けてくれるなんて女神だろうか?
「本当にご迷惑をおかけいたしました」
俺は二人にペコリと頭を下げた。しかし、吹き出したのは山村が変なことを言ったせいだからな。
「大丈夫ですよ。それに、山村さんが変なことを聞いたのが原因ですからね」
「なんでよー。お父さんだって男でこんなエロいビデオ見てたんだから他の人も見てるのか興味あるじゃん。それに男の人って、じ、自分で、その・・お・・・・」
「ストップ!山村!それ以上は禁止!それこそ18禁だ!」
山村、興味があるということと人前で聞いて良いことは違うんだからな。
「はいはい、山村さんそこまで。コーフンしすぎですよ。でも困りましたね。山村さんのお父さん達が作詞した陽歌の曲がわからないんですよね」
仲山さんは腕を組んで小首をかしげる。こういうかわいい仕草が自然に出来るのは持って生まれた才能なのだろうか。
「そうなのよ!私、絶対お父さんの陽歌を応援で歌いたいの!だからどうしても曲を知りたいのよね!」
山村、その意気込みはよくわかったが、俺の顔に唾をとばすなよ。
「まあ、わからない物を考えても仕方がないよ。お父さんの同級生とかに聞けないかな?同窓会名簿をあたるとか」
「お母さんも青陽高校出身でお父さんと同級生なんだけど、曲は知らないって言ってた。当時の応援団に知り合いがいないか聞いてみるね」
「お父さんとお母さんって同級生で結婚したんだ。高校の時から付き合ってたのかな?」
何かの統計によると、高校時代に付き合っていたカップルが結婚する確率は限りなくゼロに近いなんって聞いたことがあるけど、山村の両親はレアケースだな。
「同級生なんだけど、当時から付き合ってたかどうかは知らないのよね。それに、お母さんは私の恋敵なんだから、そんな事聞けないよ」
お母さん、恋敵なのか。恋敵と二人で暮らすのはどんな気分なんだろう?
「とりあえず、この陽歌の事は継続調査と言うことで。まずは校歌と公式応援歌の練習しようぜ。それに、旗を振れる人を捜さないとね」
山村はお父さんの事になると盲目的になってしまうのが悪いクセだな。いや、良いところなのか?お父さんの歌を再現したいというのもわかるが、まずは出来ることからしていこう。




